賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

海を渡った伊万里焼を追って(5)

(『海を渡った日本のやきもの』1985年・ぎょうせい 所収)

 

 マラッカ海峡に流れ込むマラッカ川は、下流でさえ幅が十数メートルほどの小流で、その河口にマラッカ港がある。現在のマラッカ港には、かつての東西貿易の拠点として繁栄を謳歌した面影はまったくない。ダイナミックな世界貿易にとり残された地方の一小港湾といった風情で、マラッカ海峡対岸のスマトラ島からやってきた帆船が港を埋めつくしていた。水深が浅いという致命的な欠陥が、マラッカを大型船舶が接岸できる近代的な港にしなかった。

 

 そんなマラッカ港の周辺には、時代の推移を感じさせる古い家並みが残っている。アジア的な景観の中に、そこはかとなくヨーロッパ的な雰囲気が漂い、マラッカ川にはオランダ式のはね橋がかかっていたりする。

 

 オランダ総督府の建物をそのまま利用した「マラッカ博物館」には、古代マレー王国からポルトガル、オランダ、イギリス統治時代、さらには太平洋戦争中の日本占領時代に至るまでの広範囲にわたる資料が展示されている。

 

 マラッカ博物館の一番奥の一室が陶磁室になっている。例によって、東南アジアの博物館のほとんどがそうであるように、ここでも明、清の染付磁器を中心にした中国磁器が大量に展示されている。そして、この地方では高名な陶磁コレクター、チャン・イェーフー(曾有孝)氏の中国陶磁のコレクションも一括して寄贈され、展示されている。

 

 そのような大多数の中国陶磁に混じって、イマリの染付大皿が数点、見られた。しかし、それらのイマリはマラッカの古い歴史に反し、鮮やかなコバルトを使った銅版転写の染付けで、明らかに明治以降のものと思われた。