甲武国境の山村・西原に「食」を訪ねて(17)
(日本観光文化研究所「あるくみるきく」1986年10月号 所収)
モロコシの詩(うた)
最後が「モロコシの詩」である。モロコシは精白したものを飯に炊いたり、餅に搗いたりするが、ヒエ餅と同じように粉を餅にすることもある。
そのつくり方は、
「熱いお湯で よくこねる
ひらたくつくり ふかします
味噌を一面 なびります」
とあるように、煮立った湯で粉をこね、円盤状に形づくったものを蒸籠で蒸し、それに味噌を塗るのである。
さらに、
「ひじろで木を刺し 熾で焼く
がに色味で おいしいな」
とあるように、味噌をつけたモロコシ餅は、「ひじろ」(囲炉裏)のまわりで木に刺し、熾(おき)で焼く。味噌のにおいをプーンと漂わせ、こんがりと「ガニ色」に焼き上げる。ガニ色というのは、沢ガニを油で揚げたような色である。西原では今でも沢ガニをとって食用にしている。
また、モロコシの粉からは、よく「おねり」をつくった。おねりというのは、サツマイモを煮立てた湯の中に、モロコシの粉を入れてかきまぜたものである。
ところでトウモロコシとモロコシは見た目には似た作物だが、モロコシはアフリカ原産、トウモロコシは中米原産の作物でまったくの別もの。モロコシは丈の高い茎の先端にモジャモジャッとした穂が成る。つまり実の成り方がまったく違う。
西原では古くからある甲州種のトウモロコシも栽培している。それを乾燥させ、粉にし、ヒエ餅などと同じように湯で練り、蒸籠で蒸して餅にする。また粗くひいて米に混ぜ、炊き込むこともある。
軒下にトウモロコシをぶらさげ、乾燥させている光景は西原の風物詩だった。ところが最近はそれもあまり見られなくなった。というのは固い甲州種のトウモロコシは嫌われ、ゆでたり、焼いたりして食べる柔らかなスイート・コーン系のトウモロコシが多く栽培されるようになったからである。このスイート・コーン系のトウモロコシは水分が多く、甘味が強いが、干すと縮んでしまい、ほとんど粉はとれない。