賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

「オーストラリア2周」後編:第6回 ケアンズ→シドニー

※全行程10647キロ(ダート2本2447キロ)

 

 ガルフ(カーペンタリア湾)横断を走破してたどり着いた太平洋岸のケアンズでは、DJEBEL250XCのタイヤ、チェーン、スプロケットを交換し、準備万端整えたところで出発だ。

 さー、北へ。目指せ、ケープヨーク!

 

 我らオフロードライダにとって、大陸最北端のケープヨークは、まさに聖地なのだ。そこまでの1000キロあまりのロングダートは川渡りあり、深い砂道あり、えぐれたギャップあり‥‥で、胸がドキドキハラハラの“聖地巡礼”の世界。

“豪州の熱風カソリ”、北へ! 荒野へ!!

 

ケープヨーク半島へ

 ケアンズを出て、海沿いの道を行くと、サトウキビ畑が延々とつづく。最後の町モスマンでスズキDJEBELの17リッタータンクを満タンにし、ケープヨーク半島へと入っていく。

 フェリーでデイントリー川を渡り、トリブレーション岬を過ぎると、待望のダートルートになる。ダートの両側には熱帯雨林の樹木がおい茂っている。昼なお暗いジャングルの世界。アップ&ダウンの連続で、急勾配の登りではギアをローまで落とすこともあった。

 

 拳大の石がゴロゴロしているセクションやツルツルヌタヌタのセクション、けっこう深い川渡りと難所がつづく。まだ雨期に入ってまもない時期なので走れるが、これで本格的な雨期になったら、もうお手上げだ。きついダートは40キロほどつづいた。

 ケアンズから250キロ走り、クックタウンの町に到着。そのうち、ダートは105キロ。ここまでは、「ケープヨーク往復」のちょうどいい肩ならしといったところだ。夕暮れの珊瑚海を見渡す「シービュー・モーテル」で泊まる。夕焼けにまっ赤に染まった海がきれいだった。

 

 翌朝は5時半起床。シャワーを浴び、パン&チーズ、紅茶の朝食をすばやく食べ、6時に出発。緊張の一瞬。いよいよ「ケープヨーク往復」の本番だ。

 クックタウンの町から12キロ、舗装路を走った地点でダートになるが、ここを過ぎると、あとはケープヨークまで際限のないダートがつづく。

 ダートに入った初っぱなで、蜂にやられた。クソーッ! 首を刺された。痛テテテーッ。あっというまに首がパンパンに腫れ上がり、肩まで腫れてきた。まずはケープヨーク走破のきつーい洗礼を一発、受けた。

 

 クックタウンから38キロ地点の分岐を左へ、ローラへ。交通量はほとんどない。赤土の道。カンガルーが飛び出してくる。川渡りや山越えが連続する。ところどころ岩盤が露出して、バンバン跳ねながら走る。ダダダダダッと激しく振動しながら走るきついコルゲーションの区間もある。いったんケープヨーク半島縦断のメインルートに出、クックタウンから140キロのローラへ。ここで早めの昼食にした。まずは第1ステージ突破といったところだ。

 

やったぜ大陸最北端!

 ローラからは、レイクフィールドナショナルパーク内の道を行く。野鳥の宝庫。木陰にDJEBELを止め、昼寝したが、ギャオーギャオオオーと鳴く熱帯の鳥におこされた。

 平原には無数のアリ塚。雨にやられてズボズボヌタヌタのセクション、深い轍のできたセクション、砂深いセクションなどを走り抜き、ローラから200キロ、メインルートのマスグレイブに出た。第2ステージの突破だ。

 

 マスグレイブからメインルートを北へ。3連のロードトレインとすれ違うときは、猛烈な土煙りを浴びせられる。追い抜きが大変だ。この土煙りの中を走り、じっとチャンスをうかがい、登りでガクッと速度を落としたときにロードトレインを追い抜くのだ。ジェットコースターのようなアップ&ダウンが連続するセクションもあった。

 

 マスグレイブから106キロ走りコーエンに到着。ここで日暮れ。ナイトランでさらに北に70キロ走り、アーチャーリバーに到着。ロードハウスのレストランでブ厚いラムステーキを食べ、キャラバンパークで泊まったが、これでケープヨークへの第3ステージを突破した。

 

 翌朝6時、アーチャーリバーを出発。ここから50キロ行った地点で、カーペンタリア湾のウエイパに通じるメインルートのペニンスラー・ディベロップメンタルロードと分かれ、ケープヨークに通じるテレグラフ・ロードに入っていく。

「頼むゾ、DJEBELよ。さー、目指せ、ケープヨーク!」

 

 雨期の悪路を突破して、何本もの川を渡っていけるのかどうか、はたしてケープヨークにたどり着けるかどうか、命を張った賭けをしているような気分なのだ。途中でトラブッたら、誰にも助けてもらえない。雨期の道をケープヨークまで行く車はほとんどないからだ。

 

 メインルートとの分岐点から75キロで、ウエンロック川にさしかかる。ケープヨークまでの間では、ジャーディン川に次ぐ大きな川だ。まず、歩いて川を渡る膝上ぐらいの水位だ。けっこう流れが速い。バイクで走れそうなラインをみきわめ、対岸に渡ったところにザックを置き、今度は空身でDJEBELに乗る。転倒だけを気をつけて川を渡った。

 

 ウエンロック川から42キロ行ったところが、テレグラフ・ロードの旧道と新道の分岐。旧道に入っていく。道幅が狭くなり、何本もの川を渡る。砂深いところもある。旧道を70キロ走ると新道と合流。ホッとする間もなく、そこから10キロ走るとふたたび分岐。ここでも旧道に入っていく。

 

 分岐点から10キロ行ったところでエリオット滝を見る。日本の吹割滝に似ている。この間の旧道でも、ひんぱんに川渡りをする。不注意に川に突っ込み、あやうく水没しそうになったこともある。ジャーディン川の岸までの道は深い白砂。暑さが厳しい。砂道との戦いで水を飲みつくし、ヒイヒイいいながら川岸に出た。だが、とてもではないが、1人で渡り切れるような川ではない。残念無念‥‥。来た道を戻り、新道に出、30ドル(往復の運賃)を払ってフェリーに乗り、対岸に渡った。

 

 アーチャーリバーから375キロでバガマの町に到着。ケープヨークまでは、あと30キロほどだ。ここで給油。冷たいコカコーラをガブ飲みし、生き返ったところで、海辺のキャラバンパークに泊まる。

 翌日、ケープヨークへ。熱帯雨林の中の、赤土の道を行く。駐車場にDJEBELを止め、森の中を歩くと、突然、海に出た。目の前がオーストラリア最北端のケープヨーク。岬への道を歩き、ついに珊瑚海とアラフラ海を分けるケープヨークに立った! まさに感動の瞬間だ。

 

恐怖のナイトラン

 ケープヨークからケアンズに戻ると、「オーストラリア一周」のゴールのシドニーを目指す。その途中でもう一度、広大な内陸、アウトバックの世界に入っていった。

 ヒューエンデンの町に通じるケネディー・デベロップメンタルロードが最後のダートになったが、ここでは夕日が地平線に沈んでから2時間ほどの間に、なんと17回ものカンガルーの飛び込みがあった。

 

 一番強烈だったのは、右から2頭、左から1頭のカンガルーが同時に、DJEBELのヘッドライトをめがけて飛び込んできたときだ。3頭のカンガルーは交差してジャンプしたが、そのうちの1頭は信じられないことに、真上にジャンプした。

「ヤッター!」

 と、まさに心臓が凍りつくような思いをしたが、からくも体を伏せてその下を走り抜けた。

 

 今回の「オーストラリア2周7万2000キロ」では、3分の1の2万キロ以上がナイトランだったので、カンガルーとの遭遇は100回を超えた。コーナーを曲がったところで走行車線上にチョコンと座っていたカンガルー、フェイントをかけ、時間差で飛び込んできたカンガルー、Uターンしたカンガルー‥‥と、何度も命の縮むような目にあったが、さすがに“強運(悪運?)カソリ”、一度もカンガルーにはクラッシュしなかった。神に感謝しよう。

 

 シドニーに到着して、いったん、ダート編の「オーストラリア一周」を成しとげたあと、さらにエクストラ・ステージだ、とアデレードからメルボルンへともう4000キロ走り、シドニーに再度、戻ってきた。

 全行程3万6110キロの「オーストラリア2周」後編だった。(了)

 

■コラム■ ケープヨーク

 オーストラリアの大陸最北端の地、ケープヨーク(ヨーク岬)は、ケープヨーク・ペニンスラ(ヨーク岬半島)の突端で南緯10度45分。現地の道標では、アボリジニの言葉でケープヨークを意味する“バジンカ”になっている。英語では“ザ・TOP”。

 まさに大陸のてっぺんなのである。

 

 このケープヨークには、ケアンズの町から往復したが、往路と復路ではできるだけルートを違えた。全行程2500キロで、そのうちダートが2049キロだった。それを5日間で走った。最高におもしろいダートラン!

 

 ケープヨーク近くの中心となる町はバガマで、ここにはガソリンスタンドとスーパーマーケットがある。ケープヨークはこの町から30キロほどだ。

 バガマから舗装路を北に7キロいくと海辺のセルシアに着くが、そこにはキャラバンパークと併設のミニショップ、レストランがある。セルシアで眺めるアラフラ海に落ちていく夕日は見事だった。

  

(了)