賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(4)「四国一周編」(その2)

 (『バックオフ』2003年7月号 所収)

「四国一周」の前半戦、「徳島→高知」では全部で8本の林道を走り、ダート距離の合計は184キロになった。「ダート300キロ走破」はすでに射程圏内だ。

 後半線の「高知→徳島」では1本でも多くの林道を走ろうと、「ダートの鬼!」になるカソリ。目指せ、ダート300キロ!!

出発点は高知駅

 3月28日午前6時、DJEBEL250XCともども「四国一周」後半線の出発点、高知駅前に立った。空には一片の雲もない。抜けるような青空が広がっている。

 ダート300キロ走破を目指して、気分はいやがうえにも盛り上がる。

 ここでは四国をまわっているもんがぁ~さとみさんと落ち合った。彼女のバイクは13万キロも走っているセロー。これで世界最長ダート、オーストラリアの「キャニングストックルート」も走破している。

 そんなもんがぁ~さとみさんが一緒に走ってくれることになった。

「さー、行こう!」

 まず我々が向かったところは五台山だ。

 山頂の展望台からは高知の市街地を一望。目の前には奥深くまで切れ込んだ浦戸湾、その向こうには太平洋が広がっている。市街地のすぐ後まで山並みが迫っている。

 そんな風景を目に焼き付けたところで、高知からは国道32号で根曳峠を越えて大豊へ。大豊では樹齢3000年という「日本一の大杉」を見た。北大杉と南大杉の2本からなる夫婦杉の巨木には、まるで神々でも宿っているかのようだった。

 大豊からは「与作」で知られる国道439号を西へ。最初に郷ノ峰峠を越える。次に大峠を越える。日本各地にある大峠だが、ここでは「おおと」と読む。西日本では峠のことを「たわ」とか「たお」というが、四国ではそれが「と」とか「とう」になる。

 国道439号の3番目の峠、矢筈峠を越えると、四万十川の水系に入る。「日本一の清流」で知られる四万十川の流域は、四国でも、というより日本でも有数の「林道天国」なのだ。

  

四万十川の源流地帯へ

 国道439号の矢筈峠は短いトンネルで貫かれている。

 そのトンネル入口の手前を左に折れ、四万十川源流の山、標高1336mの不入(いらず)山の北東側の峠を越え、四万十川源流の村、東津野村に入る。そこからが待望のダート。今回は全部で22本のダートを走ったが、その記念すべき第1本目はダート2・1キロの、この東津野村道だった。

 峠を下っていったところで、分岐する船戸林道に入る。ダートを2・8キロ走ったところには「四万十川源流の碑」が建っている。

 何本もの川が大きく蛇行しながら流れる四万十川なので、どれが本流なのかわかりにくいが、この不入山から流れ出る船戸川が本流になる。船戸川は松葉川になり四万十川になる。河口近くでは渡川と呼ばれている。全長192キロ。中村市下田港近くで太平洋に流れ出る。

 船戸林道の往復、ダート5・6キロを走ったあと、国道197号の船戸へ。ここはまさに「四万十川源流の里」だ。船戸から国道197号を西へ。ゆるやかな峠を越えると、今度は北川の流れになる。この北川も不入山から流れてくるが、四万十川最大の支流、梼原川に合流する。

 四万十川の源流地帯では、出会う川、1本づつを地図と照らし合わせて確認してみるとおもしろい。そうすることによって四万十川の全体像が見えてくる。

 国道197号から北川沿いに走る国道439号へ、そして3本目の林道の鈴ヶ森林道に入っていく。国道からすぐにダートになるところがすごくいい。

 四万十川上流の山岳地帯を一気に駆け登り、国道から7・1キロ地点で東津野村と大野見村の境の名無しの峠に到達。鈴ヶ森(1054m)のすぐ北側の峠だ。峠自体は切り通しで、見晴らしはよくないが、その手前では雄大な山岳風景が眺められた。

 峠でバイクのエンジンを停めと「ドドドドー」っと、キツツキの木肌を打つ音が聞こえてくる。同じ林道でも「峠越え林道」はおもしろい。峠をはさんだ2つの世界を見ることができる。

 峠から大野見村側を下っていくと四万十川本流に出た。鈴ヶ森林道はダート22・1キロで、四万十川の流域では最長だ。

 四万十川本流沿いの県道19号を南下し、窪川町に入ったところで県道を離れ、松葉川温泉に近い森ヶ内の集落から第4本目の森ヶ内久保谷林道に入っていく。

 この林道も峠越え林道。ダート突入地点から4・3キロで「春分峠」に到達。峠名の由来がちょっとおもしろい。昭和43年の春分の日に、この峠で林道の完成記念を祝い、そのときに「春分峠」と名づけたという。

 窪川町と梼原村の境の春分峠を下ると久保谷を通り、国道439号に出た。

 そこから来た道を引き返し、春分峠の手前で分岐する第5本目の中津川林道に入っていく。この林道も峠越え林道。梼原村と大正町の境の小松屋峠を越える。

 小松屋峠からは幾重にも重なり合った四万十川を取り囲む山々が眺められた。山深い風景。ここからの眺めは胸に残った。峠を下り、中津川の集落に出ると舗装路になったが、森ヶ内久保谷林道と中津川林道を合わせたダート距離は20・0キロになった。

 国道439号経由で国道381号に入り、四万十川本流に沿って下っていく。

 西土佐村の「四万十楽舎」で泊まった。

 その日はもんがぁ~さとみさんの26歳!?の誕生日。ワインで乾杯!

四万十川流域の林道群

 四万十川河畔の「四万十楽舎」には3泊し、ここを拠点にして、四万十川流域の林道群を走った。

 第1日目。まずは支流の黒尊川だ。四万十川名物の沈下橋のひとつ、口屋内沈下橋で対岸に渡り、黒尊川に沿って走る。最奥の集落、黒尊を過ぎると黒尊林道になるが、かつての四国を代表するロングダートも今では全線が舗装…。

 黒尊林道を走る。見事な渓谷美を見せる黒尊峡谷を通り、ぐんぐんと高度を上げて高知・愛媛県境の峠まで行く。ここまでが四万十川の水系だ。

 黒尊の集落まで下ると、分校跡のすぐわきから入っていく西谷林道で、愛媛県との境の大峠に向かっていく。峠までの全線がダート。山中では2度、3度と尻の真っ白なシカに出会った。峠で引き返したが、往復16・8キロのダート距離になった。

 次に黒尊川沿いの玖木の集落から玖木山林道に入っていく。西土佐村と宿毛市の境の名無し峠を越える林道。ダート15・9キロ。峠を下って宿毛に出ると国道56号で中村へ。県道20号で下田に行き、四万十川の河口を見た。

 第2日目。この日はまず四万十川支流の目黒川沿いに走る。西土佐村から愛媛県の松野町に入り、さらに目黒川沿いに走り滑床渓谷へ。駐車場にバイクを停め、遊歩道を歩いて雪輪の滝まで行った。ここは黒尊峡谷以上にみごたえのある渓谷美だ。

 次に国道441号に戻ると、沈下橋のある岩間から藤ノ川岩間林道に入る。水ヶ峠を越える峠越え林道なのだが、残念ながら全線が舗装林道だ。

 峠を下った藤ノ川の集落からは藤ノ川林道に入っていく。この林道はダートで、固く締まった走りやすい路面。西土佐村と中村市の境の名無し峠を越えると掃地谷林道。

 藤ノ川掃地谷林道はダート15・4キロ。峠下の掃地谷の集落を通り、国道439号に出た。

 四万十川の支流、後川沿いに中村へ。四国の名物国道「与作」の国道439号は起点が徳島で終点が中村になる。中村に到着すると四万十温泉「サンリバー四万十」の湯に入った。

四万十川から吉野川

 名残おしい「四万十楽舎」を出発。

 国道441号で愛媛県に入り、四万十川の支流、広野川沿いに走る。さらに国道320号でその支流の成川沿いに走り、「水分」バス停のあるゆるやかな峠を越える。ここまでが四万十川の水系。峠を越えると、わずかに5キロで宇和島の市街地に入っていく。

 宇和島からは国道56号を北へ。鳥坂峠周辺の林道群、全部で5本の林道を走って大洲に出た。

 大洲からは肘川の上流へ。

 愛媛・高知県境の韮ヶ峠を越え高知県に入ると四万十川の水系。ダート8・5キロの中ノ川井桑林道を走り、山上道で四国カルストを見ながら国道440号の地芳峠に出た。

 ここまでが四万十川の世界。四万十川に別れを告げ、地芳峠を越えて愛媛県側を下っていく。

 ほうじが峠周辺の2本のダート、県道340号と不二峰林道を走り、国道33号で三坂峠を越え、松山に出た。

 松山から徳島へ。

 松山から国道11号で西条へ。西条からは国道194号を南下し、寒風山トンネルを抜けて高知県に入る。その夜は「四国三郎」で知られる四国一の大河、吉野川の源流地帯の本川村で野宿した。

 翌日は夜明けととも走り出したが大雨だ…。予佐越峠まで登り、次に寺川の集落から白猪谷林道(舗装)経由で吉野川源流林道に入り、かなりラフな路面の林道を2・3キロ走ったところで行き止まり地点に着く。そこは瓶ヶ森(1896m)の山頂直下で、吉野川の最初の一滴が岩壁から流れ出している。我々は感動のシーンを見た!

 吉野川源流地帯の本川村と、その南の池川町、吾北村にまたがる一帯には何本もの林道が網の目状になって走っている。激しく降りしきる雨をついてそれらの林道群を走った。このエリアだけで68・9キロのダートを走った。

 一番長かったのは池川町側から弘沢林道を走り、峠を越えて本川村に入り、奥南川林道で国道194号に出るまでのルート。ダート27・5キロになった。すさまじい雨に打たれながら走ったが、平気な顔をしてぼくについて走るもんがぁ~さんは正直いって驚きだった。すごい!

 本川村からは吉野川の流れを見ながら下っていく。

 吉野川水系最大の早明浦ダムを過ぎたところで吉野川の本流を離れ、県道264号経由で奥白髪林道に入る。本山町から峠を越えて大豊町に入ると、仁尾ヶ内林道になる。2本の林道連続して走ると、ダート18・8キロになった。

 仁尾ヶ内林道を下ると、土佐藩番所跡が残る立川に出た。

 そこからはかつての四国の南北を結ぶ幹線ルートの笹ヶ峰峠を越える。

 愛媛県に入り、吉野川支流の銅山川に沿って走り徳島県へ。吉野川本流を渡り、吉野川支流、祖谷川の渓谷の道を走った。

「与作」の国道439号に入り、剣山下の峠、見ノ越で野宿。国道439号は、ここでもう1本の国道438号と合流し、2本の国道は重複して徳島市内へとつづいている。

 徳島へ。その途中では最後の野間殿川内林道で剣山スーパー林道の旭丸峠へ。0・2キロがダートだった。

 こうして4月2日午前11時、我々は徳島港フェリー埠頭に到着した。

 後半線では全部で22本の林道、ダート241・1キロを走り、「四国一周」のダート合計は434・8キロになった。

 目標の300キロを大きく超えた!