賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(3)「四国一周編」(その1)

 (『バックオフ』2003年6月号 所収)

 林道を次から次へと走りつなぎ、ダート300キロを目指す「ダート300キロ走破行」は最高におもしろい。「ダート命!」のカソリには、ぴったりのオフロードツーリング。

 今回の舞台は四国。

 東京からオーシャン東九フェリーで渡った徳島を出発点にしての「四国一周」。その間では1本でも多くの林道を走り、ダート距離を1キロでも多く延ばそうとした。その結果、前半戦の「徳島→高知」では8本の林道を走り、185キロのダートを走破した。

 メインは徳島県の日本最長ダートの剣山スーパー林道

 高知県にも何本もの林道がある。

 四国はうれしい「林道天国」!!

日本最長ダートに突入

「ダート300キロ走破行」の第1弾は1998年の「九州縦断」だ。

 門司から鹿児島へと九州を縦断し、その間では26本のダートを走り、ダート距離の合計は目標の300キロを超え、327キロになった。

「九州縦断」は最高におもしろかったので、日本全域の「ダート300キロ走破行」をやろうと、そのとき固く決心したのだった。

「九州縦断」から5年の歳月が流れたが、ついに第2弾目の「四国一周」をやるときがきた!

 3月24日、東京港フェリー埠頭。

 オーシャン東九フェリーの徳島経由新門司港行き「おーしゃん いーすと」(1万1500トン)にDR-Z400Sともども乗り込んだ。『バックオフ』編集部の河合宏介さんが同行してくれる。河合さんはDJEBELだ。

「おーしゃん いーすと」は19時10分に出港。

 レストランでカツオのたたきとタコの刺し身を肴にビールを飲みながら、遠ざかっていく東京の夜景を見る。

「待ってろよ、四国の林道よ!」という気分。

 ぼくはフェリーで東京を離れていくこの瞬間が好きなのだ。 

 翌25日、13時30分、徳島港到着。

「さー、行くゾ!」と気合一発、DR-Z400Sの軽快なエンジン音を響かせ、「四国一周」の第1本目の林道、剣山スーパー林道に向かっていく。

 胸の高鳴りが押さえられない…。

 国道55号から県道16号に入り上勝町へ。林道を走る前に、まずは温泉。月ヶ谷温泉(入浴料500円)の打たせ湯に打たれ、大岩風呂の湯につかった。湯上がりに食堂で食べた押しずしのアメゴ(アマゴ)ずしがうまかった。これはおすすめだ。

 さて、剣山スーパー林道だ。

 上勝町の農協のスタンドでガソリンを満タンにする。農協のスーパーで食料を買い、酒店でカンビールを買い、いざ、出発。

 第1夜目は剣山スーパー林道で野宿する予定なのだ。

 上勝町の中心から1キロほど走ると「スーパー林道起点」の碑が立っている。そこから9キロ走ったところで待望のダートに突入。渓流沿いに走り、最後の沢を渡ると、一気に旭丸峠に向かって登っていく。

 林道起点碑から18キロで神山町との境の旭丸峠に到着。途中、短い舗装区間が2区間、新しくできていた。

「もうこれ以上は、舗装されませんように!」と祈りたくなるような心境だ。

 日本最長ダートだからこそ、多くの人たちが行くのであって、舗装林道になってしまったら、剣山スーパー林道はおもしろくも何でもない。

 ここまでが剣山スーパー林道の第1セクション。旭丸峠からは野間殿川内林道で神山町に下っていける。

 旭丸峠でテントを張って野宿する。里では桜が咲き始めたというのに、日が落ちたあとの峠の寒さは冬とまったく変わらない。寒さに震えながら河合さんと缶ビールで乾杯。お互いに世界を駆けめぐっている者同士、ぼくは今までに126ヵ国をまわり、河合さんは109ヵ国をまわった。そんな2人が剣山スーパー林道の峠でサハラ談義をした。

剣山に向かって走る!

 翌日は夜明けともに出発。

 四国山脈の稜線上を走り、国道193号と交差する土須峠へ。眺望抜群。吉野川の谷間の向こうには、讃岐山脈の山々が青く霞んで見える。旭丸峠から土須峠までが第2セクション。この間は8キロで全線がダート。ここではニホンカモシカを見た。

 土須峠からは第3セクションを行く。国道193号との重複区間の舗装路を走り、キャンプ場にもなっている「ファガスの森」の前を通り、19キロ走って川成峠に到着。ここまでが第3セクション。峠では建設中の木屋平木沢林道と交差する。

 第4セクションでは、四国山脈の南側の幾重にも重なり合った山々を眺めながら走ると、やがて正面に剣山が見えてくる。穏やかな、ゆるやかな山容。

 その剣山に向かってDRで突っ走る。

 四季美谷温泉に下っていく道との分岐までが第4セクションで24キロの全線がダートだ。

 いよいよ最後の第5セクション。

「山の家」まで登り、木沢村と木頭村の境のトンネルに入った。その瞬間、「あー!」と思わず声をあげて急ブレーキをかけた。トンネルの中央部には青白く輝く氷の塊ができていた。あやうくその氷の塊に激突するところだった。

 分岐から5キロの地点で、残念ながら引き返す。木頭村側が走れるようになるのは4月下旬。ここまでの剣山スーパー林道のダート走行距離は65キロになった。

 剣山スーパー林道を走り抜くことができなかったので、分岐まで戻り、四季美谷温泉の前を通り、木沢村、上那賀町経由で大きく迂回し、国道195号で木頭村に入った。

 国道沿いの手作りパンの店で昼食にし、第2本目の東川千本谷林道へ。木頭村側の剣山スーパー林道入口の手前で国道を左折。橋の脇から入っていく。林道の入口からダートなのがうれしい。

 千本谷の渓流沿いの道。林道には尻の白いシカや野ウサギが飛び出してくる。

 渓流を離れると、徳島・高知県境の駒瀬越に向かって登っていく。この前走ったときは県境までダートだったものが、その手前で舗装路に変わっている。駒瀬越のトンネルを抜けて高知県に入る。高知県側は全線が舗装路だ。

 駒瀬越から16キロ下った分岐を右折し、第3本目の張川林道に入っていく。

 この林道は標高832mの宝蔵峠を越える「峠越え林道」で、峠周辺からの眺めが抜群にいい。ダート距離も25キロあって走りがいがある。入口から出口まで、全線がダートなのも、我ら林道派ライダーにはうれしい限りだ。

 このあたりはもう太平洋にかなり近いのだが、海に近いということをまったく感じさせないほどに山深いし、連なる山々は険しい。畑山温泉に通じる舗装路に出ると前方はパーッと開け、やがて安芸市の太平洋の海岸に出た。

 国道55号で室戸岬の方向に走り、奈半利町で第4本目の須川林道に入っていく。いっぺんに山中に入り、国道から4キロ走った地点でダートになり、ゆるやかな峠を越える。その峠周辺からの眺めがよかった。稜線近くを走り抜け、分岐からは野川林道で北川村の国道493号に出、奈半利に戻った。

ツーリングマップル』を見ながらのプラニングでは、ほんとうは須川林道をそのまま北に走りたかった。装束峠を越えてそれにつづく蛇谷林道を走り、国道493号に出、県道101号経由でさらにその北のロングダート、笹無池ヶ谷林道を走って徳島県の海南に出るつもりでいた。だが、夕暮れが迫り、残念ながら諦めざるをえなかった。

 すごく悔しいことだけど、ぼくはこの走れなかったことが後につづくと思っている。走り残したことがあると、それがいつも頭にひっかかり、次の機会にぜひとも「走ってやろう!」という気になるものだ。

 4本の林道、合計121キロのダートを走り終え、我らツーリングライダーのオアシス、物部村の「ライダーズイン奥物部」に向かう。夜須で国道55号から県道51号に入り、物部村へ。まずは「ライダーズイン奥物部」のレストラン「アクティブ21」で夕食。とんかつ定食(880円)を食べたが、ぼくはここのとんかつが好きなのだ。

物部はいいところだゾ!

 物部村の「ライダーズイン奥物部」では、忘れられない一夜を過ごした。

 なんとカソリが来るからと、「ライダーズイン奥物部」の山本和民さんと奥様、物部村役場の萩野貴子さん、高月陽生さんが、土佐の地酒、「土佐鶴」の一升ビンをテーブルにどんと置いてぼくを待ち構えていてくれた。

「土佐鶴」をグイグイ飲むほどに、みなさん方との話がおおいにはずむ。

 ぼくは1999年の「日本一周」のときに「ライダーズイン奥物部」に泊まったが、山本さんはそれをつい昨日のことのように覚えていてくれた。

 村役場企画室の係長をしている物部美人の萩野さんは、「地球元気村」の風間深志さんのことをよく知っていて、風間さんの話題でもおおいに盛り上がった。

 若い高月さんは大阪の高槻の人。バイク大好きの高月さんはツーリングで物部にやってきて、すっかりこの地が気に入り、なんと村の採用試験に受かって村役場の職員になった。

 ちなみに高月さんのバイクはDR-Z400S。名刺には「ライダーズイン奥物部」が写真入りでのっている。

 萩野さんの名刺は物部村の名峰、というよりも四国の名峰、三嶺(1893m)の写真入り。名刺の裏には物部村のひと口紹介がのっている。見ごろ見どころには別府峡・西熊渓谷の紅葉(10月中旬~11月中旬)が紹介されているが、とくに別府峡の紅葉はすばらしいもので、四国では面河渓の紅葉と並んで双璧を成している。

 物部のみなさんと話していると、ぼくまで物部村の宣伝をしたくなる!

 翌日は「ライダーズイン奥物部」を拠点にしてまわる。

 6時前に出発。朝飯前に第5本目の畑山中津尾林道を走る。物部川の支流、舞川沿いの道幅の狭い県道29号から畑山林道に入り、3キロのダートを走り抜けたところでT字路を左へ、中津尾林道に入っていく。中津尾の集落を通り過ぎたところでダートになり、稜線上へ。稜線を縫って走り、国道195号に下っていく。

 朝飯前にはちょうど手頃な、路面のよく整備された走りやすい林道だった。

「ライダーズイン奥物部」に戻ると、朝食を食べ、8時に出発。第6本目の祖谷山林道を目指す。雨が降りだし、雨の林道ツーリングになった。

 物部村の中心、大栃から県道49号で矢筈峠に向かっていく。その途中には笹温泉。ここは入浴のみの温泉で、入れるのは土、日、月の週3日。いつか入ろうと思っているのだが、なかなか入れない…。

 高知・徳島県境の矢筈峠まで舗装が延び、峠を越えて徳島県側に入ると、ダートの祖谷山林道になる。雨は激しさを増し、路面には大きな水溜まりができている。盛大な水しぶきを巻き上げながらDR-Z400Sを走らせ、ダート12キロの祖谷山林道を走りきって四国の名物国道、「与作国道」の国道439号に出た。

豪雨の高知に到着だ!

 国道439号で徳島・高知県境の京柱峠へ。四国一の絶景峠だが、大雨と濃霧で何も見えない。峠の茶屋で「しし肉うどん」を食べ、体をあたためたところで峠下の大豊町西峰に下っていく。

 そこから第7本目の楮佐古小檜曽林道に入っていく。国道から5キロ地点でダートに突入。西峰林道との分岐を過ぎ、急カーブのコーナーを曲がるごとに高度を上げていく。けっこう路面の荒れた林道だ。大豊町と物部村の境の峠周辺は平坦な地形でクマザサがおい茂っている。

 峠を越え、物部村の楮佐古へと下っていく。物部村側の方がはるかに路面が整備されていて走りやすい。修験の山として知られる高坂山への道との分岐を過ぎるとまもなく舗装路に合流。ロングダートの楮佐古小檜曽林道を走り抜けて出た楮佐古の集落は、楮佐古川の谷間に棚田が広がり、いかにも山村を感じさせる風景だった。

 物部村大栃の「ライダーズイン奥物部」に戻ってきた。

 ほんとうは時間に余裕があれば、懐かしの「林道まつり」の開かれた西熊峡に行き、そこから西熊別府林道に入り、別府峡温泉に立ち寄り、国道195号で大栃に戻ってきたかった。が、断念し、最後の第8本目の谷相林道に向かう。

 雨に濡れた「ライダーズイン奥物部」に手を振って別れを告げ、国道195号で隣町の香北町へ。町役場のある美良布で国道を右折し、物部川を渡り、谷相の集落を通り過ぎたところで谷相林道のダートに入っていく。激しい雨をついて走り、大豊町との境の松尾峠を越え、国道439号に出た。ダート14キロの谷相林道だった。

 国道439号から国道32号に入り、高知に向かう。

 もう、豪雨の様相。風も強い。

 根曳峠を越え、17時45分、高知のはりまや橋に到着。「徳島→高知」では全部で8本の林道を走り、ダート距離の合計は184キロになった。

「目指せ、ダート300キロ!」