賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

■オリジナル新連載■カソリの新・峠越え:神奈川(1)善波峠

 記念すべき「新・峠越え」の第1番目の峠は国道246号の善波峠(ぜんばとうげ)だ。

 2006年3月22日午前10時、スズキDR-Z400Sのエンジンをかけ、神奈川県伊勢原市の自宅を出発。これからの峠越えの相棒となるこのDR400は2002年の「ユーラシア大陸横断」1万5000キロ、2004年の「サハラ砂漠縦断」6500キロ、2005年の「韓国縦断」2500キロを走り、そのあとさらに2006年の「シルクロード横断」1万4000キロ、2007年~2008年の「南米アンデス縦断」1万3000キロをノントラブルで走り抜いたバイクなのだ。

 国道246号で善波峠へ。この峠は我が家に最も近い峠で、今までに何度、越えたか知れない。ぼくが日本でも一番、多くの回数を越えている峠。その回数は何百回にもなる。東名高速で西に向かうときは、善波峠を越え、秦野盆地の名古木の交差点を左折して秦野中井ICから入るのを常としている。今回はそんな善波峠をあらためて越えてみようと思うのだ。

 東名が国道246号をまたぐ交差点を左折し、まずは鶴巻温泉に寄り道。「弘法の里湯」(入浴料800円)に入る。平日の午前中ということもあって、大浴場と露天風呂にはゆったり気分で入れた。湯から上がると、肌がツルッとしている。

 鶴巻温泉でいい気分になったところで、国道246号に戻り、善波峠へ。峠の手前では旧道に入り、峠下の善波の集落を走る。この善波にちなんでの善波峠。集落を走り抜けたところで国道246号に戻り、伊勢原市秦野市境の善波峠の短いトンネルを抜ける。トンネルを抜け出たところでは真正面に富士山を見る。とくに冬だと、抜けるような青空を背に雪化粧した富士山の姿がドバーッという感じで目の中に飛び込んでくる。伊勢原市側ではほとんど富士山が見えないので、善波峠から見る富士山はよけいに印象深い。

 もう一度、伊勢原市側に戻ると、今度は峠のトンネルの手前を折れ、旧道に入っていく。すると世界は一変し、きらびやかな装いのモーテル街になる。その先で旧道の峠のトンネルを抜けるが、慢性的渋滞の新道のトンネルとはうってかわってほとんど交通量がない。

 旧道のトンネルを抜け、わずかに下ったところを右折し、ダートの細道を登ったところが善波峠頂上。そこには石仏がまつられ、「御夜燈」が残されている。峠を越える旅人の安全を願って「峠の茶屋」の主人が燃やしつづけたもの。菜種油を灯したもので、明治末までつづいたという。このように現在、我々が普通に使っている新道、忘れ去られたような旧道、さらにはそれ以前の古道と時代の変遷を見られるのが峠越えの大きな魅力になっている。

 善波峠を越えて秦野盆地へ。秦野盆地と丹沢の山並みを一望する弘法山に登り、再度、善波峠を越え、我が家に戻るのだった。

旧道の善波峠
旧道の善波峠

古道の善波峠
古道の善波峠

善波峠の石仏
善波峠の石仏

弘法山からの眺め。正面に大山が見える
弘法山からの眺め。正面に大山が見える

弘法山のめん羊
弘法山のめん羊