賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの新・峠越え:神奈川(2)津古久峠

 2006年3月24日9時、神奈川県伊勢原市の自宅を出発。目指すは、国道246号の善波峠同様、我が家から一番近い峠の津古久峠(つこくとうげ)だ。国道246号を善波峠とは反対の東京方向に走り、東海大学病院入口の交差点を左折。病院のわきを通り、東名高速の下をくぐり抜ける道が津古久峠に通じている。

 スズキDR-Z400Sのアクセルを開き、一気に峠へ。ほんのひとっ走りという感じで津古久峠に到着。我が家からは4キロほどの距離だ。通勤の時間帯以外、交通量はきわめて少ない。

 津古久峠は伊勢原と厚木の市境の峠。今でこそ忘れ去られたような峠だが、かつては八王子と伊勢原を含めた神奈川県西部を結ぶ要路。峠には茶屋があったという。

 切り通しの峠を道路がまたいでいるが、それはニッサン・テクニカルセンター内のもの。伊勢原、厚木の両市にまたがるニッサン・テクニカルセンターの広大な敷地内には、何棟もの高層の建物群が立っている。建設中の建物も見える。「世界のニッサン」の頭脳が、地元の人たち以外はほとんど知らないような「津古久峠」という峠にあるということが、何か信じられないというか、何かおかしさを感じてしまう。

 ニッサンの道路をくぐり抜けると、丘陵の稜線を行く道との交差点に出る。そこには「津古久峠」の石碑が立っている。交差点を直進し、峠を下るとすぐに津古久の集落に入っていく。津古久峠の峠名はこの津古久の集落からきている。

 津古久峠を越えたところで、今度はすぐ近くの大山の周辺をまわる。まずは日向渓谷。渓谷沿いの道を行くと日向林道になるが、林道入口には絶対にすり抜けを許さないゾといった感じのガチガチのゲート。これが神奈川県の林道の現状といったところで、どこも同じようなゲートで林道を閉鎖し、一般車の通行を禁止している。ゲート前で折り返し、日向薬師に参拝。本堂は大きな茅葺きの屋根。本尊の薬師像は国宝。正月の3ヶ日には拝観できる。境内では梅が満開で、黄色いミツマタの花も咲いていた。

 次に大山へ。大山温泉の湯に入り、参道の店で名物の豆腐料理を食べ、ケーブルカーで大山寺から阿夫利神社の下社へ。そこから山頂まで歩いた。けっこう急な上り。大汗をかく。山頂には阿夫利神社の上社と奥の院がある。標高1252メートルの山頂からの眺めは絶景だ。江ノ島から三浦半島、さらには房総半島を一望する。

 大山を下ると、我が家に近い太田道潅の墓のある曹洞宗の洞昌院と相模の三ノ宮の比々多神社に参拝し、午後5時過ぎに自宅に戻った。全走行距離は52キロでしかなかったが、津古久峠という自宅近くの峠を越えるだけで、1日たっぷりと楽しめた。

津古久峠の頂上。峠上をニッサン・テクニカルセンター内の道路がまたぐ
津古久峠の頂上。峠上をニッサン・テクニカルセンター内の道路がまたぐ

日向薬師の本堂。本尊の薬師像は国宝
日向薬師の本堂。本尊の薬師像は国宝

大山登山口への道。正面に大山が見えている
大山登山口への道。正面に大山が見えている