賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの新・峠越え:神奈川(18)六本松峠(ろっぽんまつとうげ)

 七国峠(神奈川-17参照)を越えて松田町の小田急線・新松田駅前をゴールにしたが、今度はそこをスタート地点にして六本松峠に向かう。県道77号を戻り、大井町を通って中井町に入り、富士見橋の交差点まで戻る。

 ちなみにこの県道77号は国道246号の絶好の抜け道。日曜や祭日、御殿場方面から国道246号で東京方面に向かうと、松田の手前あたりから渋沢、秦野、伊勢原としばしば大渋滞になる。バイクならばすり抜けできるが、クルマだとそうはいかない。で、ぼくはクルマのときは旧道で松田の市街地に入り、この県道77号をよく使う。この道が渋滞することはほとんどない。

 富士見橋の交差点で県道77号から県道709号に入っていく。というよりもこの交差点では国道1号に通じる県道709号の方がメインルートで、そのまま2車線の道を行けば、県道709号になる。県道77号は左折するが、そこから先は道幅が狭くなる。

 さて六本松峠への道だが、県道709号を南下すると中井町から小田原市に入り、板呂橋の交差点を右折する。その道は広域農道の秦野小田原線。けっこう交通量の多い道で、峠に向かって登っていくと、猛スピードで下ってくる車とすれ違ったりして何度かひやっとした。六本松峠に向かう前に、この広域農道の峠を越える。名無しの峠だ。

 板呂橋の交差点から3キロほどの地点が峠。そこからは連続する急カーブで一気に峠を下る。峠を下りきると、丹沢の山塊から相模湾の海岸へと延びる丘陵地帯の裾野を通る県道72号の田島石橋の交差点に出る。JR東海道線の国府津駅までわけない距離なので、いったん国道1号に出、国府津駅前まで行ってみた。

 国府津駅前から来た道を引き返し、県道72号の田島石橋の交差点を右折し、さきほどの広域農道の秦野小田原線に入る。そして峠を越える。峠から1キロほど下ったところに「六本松 下曽我方面」と書かれた小さな看板が出ているが、そこが六本松峠への入口で左折する。車1台がやっと通れるくらいの道幅だ。道沿いには梅林。ちょうど梅の実を収穫している最中だった。

 梅林が途切れると森林地帯に入り、広域農道の入口から1キロほどで峠に到達。六本松峠の由来となって六本松はすでになく、最後の1本は明治末に枯れはてたという。六本松峠は東側の中村と西側の曽我を結ぶ古道。源頼朝が鎌倉に幕府を開くと、上洛や富士の巻き狩りのときにはこの峠を越えたという。また巡礼道でもあり、順礼峠(神奈川-10参照)と同じように板東33ヵ所5番札所の小田原・飯泉から6番札所の厚木・飯山に向かっていくときに越える峠だったという。峠周辺は一面のミカン園になっている。

 六本松峠からの下りは急坂だ。一気に県道72号へと下っていく。県道の反対側は曽我梅林。ここには3万本もの梅が植えられているとのことで、日本でも屈指の大梅林になっている。曽我梅林には中河原梅林、原梅林、別所梅林とあるが、そのうち最大の別所梅林をバイクでぐるりとまわってみた。収穫はまだのようで、梅の木にはたわわに実が成っていた。

 この年の2月中旬には、梅の花見に曽我の梅林に行った。ちょうど花盛りで、白梅の花の下にゴザを敷き、大勢の人たちが梅の花見を楽しんでいた。白梅の中にポツン、ポツンとある紅梅がほどよいアクセントとなって梅林に華やかな彩りを沿えていた。目の前には箱根の山々。右手には真っ白に雪化粧した富士山を望んだ。梅の花越しに眺める富士山はひときわすばらしいものだった。

 梅林の売店では小田原名産の梅干しを売っていたが、飛ぶような売れゆきだった。曽我梅林の主な品種は十郎、杉田、白加賀。そのうち十郎は梅干し用の最高品種だとのことで、肉質がよく、果肉が多い。杉田は曽我梅林では古くから栽培されている品種で、種が小さく、果肉が多い。白加賀はふっくらとした円形で、果肉の毛が短く、見た目にもきれいで、梅酒用としては最適だという。

 そんな曽我梅林をあとにし、県道72号を北上。大井町を通り、松田町に入り、最後は国道255号経由で小田急線の新松田駅前に戻った。松田発、松田着の六本松峠越え。全行程は35キロ。新松田駅前からは国道246号に出、伊勢原に戻った。

広域農道秦野小田原線の峠
広域農道秦野小田原線の峠

六本松峠
六本松峠

六本松峠のミカン園で
六本松峠のミカン園で

曽我梅林の梅
曽我梅林の梅