賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

六大陸周遊1973-74 [完全版] 027

泥沼地獄に突っ込んだ

 

 翌日は夜明けとともに出発。雲ひとつない快晴で、朝日が草原を赤く染めた。単調な風景の連続に、疲れがたまり、思わずウトウトしてしまう。そこでブラドとは途中、何度か運転をかわった。ブラドは100ドルで買った車が予想以上に走るのでご機嫌だ。

 トラブルもなく、2日目も夜になった。道はダートだが、それほど悪くはない。

 ブラドにかわってぼくが運転しているときのことだった。車のヘッドライトは片側が壊れ、左側だけで走っていた。その頼りない明かりの中に、突然、道いっぱいに広がった水溜まりが浮かび上がった。とっさに急ブレーキをかけたが、間に合わずに、その中に突っ込んでしまった。その大きな水溜まりの手前には、草原の中を迂回する道があったのだが、まったく気がつかなかった。

 ブラドが車のアクセルを踏み、ぼくが車の後を押した。しかし、まったく動かない。真昼の暑さとはうってかわって、泥水は氷のような冷たさだ。ぼくたちは車を押すのをあきらめ、通りがかりの車を待った。

「悪いなあ、ブラド」

「気にするな、タカシ。こういうときのために、ロープを持ってきているんだ。車が来たら、助けてもらえばいい」

 真夜中になって待ちに待った車が来た。懐中電灯を点滅させて、車を停めると、大型のタンクローリーだった。運転手は快く「よし、引っ張ってあげよう」といって、ブラドの車に結びつけているロープをタンクローリーで引っ張った。ロープはピーンと張りつめる。祈るような気持ちで見ていたが、無残にもロープはプッツンと切れてしまった。

 タンクローリーの運転手は「ロード・キャンプに知らせておく。多分、明日の朝になれば助け出されるよ」と言い残して走り去っていった。

 ぼくたちは「明日の朝まで待とう」と言って、車の中で寝た。ブラドに揺り動かされて目をさましたときは、まだ夜明け前で、あたりは暗かった。車がやってくる。懐中電灯を振って車を停める。それは回送中のバスだった。なんともラッキーなことに、バスは長い鉄製のワイヤーを積んでいた。それを使ってバスに引っ張ってもらうと、ブラドの車はジリジリと動きだし、ついに「泥地獄」から脱出できた。ぼくとブラドはバスの運転手と握手をかわし、「泥沼地獄」からの脱出を喜び合った。

 マウントアイザ、テナントクリークと通り、なつかしのキャサリンに着くと、ブラドは友人のボブの家に行った。ボブは食べきれないほどのチキンとポテトチップを買ってくる。ぼくたちはビールをガンガン飲みながら食べた。そこへブルノが帰ってくる。ボブもブルノもユーゴスラビア人。彼ら3人は何度か一緒に仕事をしたことがあるという。

 ひと晩、泊めてもらい、翌朝、キャサリンの郊外まで車で送ってもらった。そこでブラド、ボブ、ブルノと別れた。

 そこで車を待った。厳しい暑さ。頭がクラクラしてくる。車に乗せてもらえないまま、昼になった。そんなときにブラドがボブ、ブルノと一緒にやってきた。「昼食だよ」といって、冷たい飲み物とサンドイッチ、サラダを持ってきてくれた。ありがたい。ほんとうにありがたい。彼らのおかげで元気が出た。