賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

甲武国境の山村・西原に「食」を訪ねて(その31)

 (『あるくみるきく』1986年10月号 所収)

世界が見えてくる!

 雑穀類、麦類、芋類は西原の食を支えてきた3本の柱だと繰り返しいってきたが、それら3本の柱が日本に入ってきた伝播ルートが興味深い。

 雑穀類はインドやアフリカのサバンナ地帯が原産地。それが東アジアを経由して日本に伝わった。

 麦類はメソポタミアが原産地。それがシルクロードあたりのラインを通り、朝鮮半島を経由して伝わった。

 サトイモはタロイモの温帯種になるが、これは赤道直下の島々から島伝いに北上して日本に伝わった。芋類の中でもジャガイモ、サツマイモは新大陸の原産で日本に伝わったのは大航海時代以降のことになる。

 粉食圏にしても粒食圏にしても、そこは1年に1度収穫する雑穀類、麦類を蓄えておくための穀物倉を持つ世界だが、熱帯雨林地帯の芋食圏になると植え付け、収穫の決まった時期はないので、いつ畑に行っても収穫できるという、畑自体が食物倉のような世界。そのような芋食圏までが日本に延びてきている。それが西原のサトイモになる。

 日本は世界でもまれな国だ。粒食圏、粉食圏、芋食圏という世界の三大食文化のゾーンがまさに重なりあった複合地帯。

 それは海外の文化を貪欲に吸収しつづけ、それを独自なものにつくりかえてきた日本の姿をきわめて象徴しているかのように見える。

 西原という甲武国境の一山村を見ることによって、世界の中での日本の位置が見えてくる…。さらには、日本を含めた世界そのものが見えてくる…。といってはいい過ぎだろうか。いや、いや、けっしてそうではないと私は思っている。