韓国食べ歩き:第15回
(『あるくみるきく』1987年1月号 所収)
トウガラシの歴史は?
トウガラシは今でこそ、韓国料理には欠かせないものになっているが、朝鮮半島に伝わった歴史はごくごく新しい。たかだか、3、400年前のことでしかない。食文化の悠久の歴史でいえば、つい昨日か一昨日といったところである。
新大陸原産のトウガラシは16世紀の半ば頃、ポルトガル人の手によって日本にもたらされた。それが文禄・慶長の役(1592年~1597年)のときに、日本(九州)を経由して朝鮮半島に伝わった。
ところで、日本ではそれほど重要な香辛料にならなかったトウガラシが、なぜ朝鮮半島では最重要といえるほどの香辛料になったのだろうか。
ひとつ興味深いのは、トウガラシがアジアの各地に伝わっていった過程で、暑さの厳しい東南アジアと寒さの厳しい朝鮮半島でとくに重要な香辛料として定着したことだ。私には厳しい気候とトウガラシの間には、なにか関連があるように思えてならない。
「トウガラシ以前」は大きな問題だ。
たかだか3、400年前といったが、それ以前がはっきりしない。
韓国の「トウガラシ以前」の香辛料としては、サンショの実が大分、使われたようだ。今でもトウガラシをほとんど使わず、サンショの実でキムチを漬けている地方もある。韓国の「トウガラシ以前」というのは、じつに興味を引かれる問題だ。
それにつけても私たちは、韓国に来てからまだ1日半しかたっていない。
それにもかかわらず、韓国の食の習慣にどっぷりとつかってしまっていることに気づかされた。前日、キムポ(金浦)空港に降り立ったとき、空港のロビーの人いきれの中に、トウガラシとニンニクの入り混じったような、ムッとするような臭気を感じた。
それがどうだろう…。生のニンニクをバリバリかじり、生の青トウガラシを涙しながらかじり、私たちは強烈な臭気を振りまく立場にまわっているのである。