賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

韓国食べ歩き:第13回

 (『あるくみるきく』1987年1月号 所収)

人家二大行事

 韓国では初冬のダイコンやハクサイのキムチの漬け込みの季節を「キムジャン」と呼んでいる。そのキムジャンの季節に、私は以前、プサン(釜山)に行ったことがある。

 市場にはダイコンやハクサイが山積みにされ、迫力満点の光景だった。

 町角ではキムチを漬け込むオンギ(甕器)が売られていた。ヒビの入ったオンギを修理してまわる人もいた。

 一歩、路地裏に入ると、女性たちは忙しげにキムチを漬けていた。

「キムジャンのキムチでないと、ほんとうのキムチの味は出ないのよ」

 といった話をキムチを漬けている女性から聞いたこともあった。

 このキムジャンには、ちょうど日本で支給される冬のボーナスのように、韓国ではキムジャン・ボーナスが出るという。また、それこそ一家総出でキムチを漬けるので、学校や会社ではキムジャン休みがあるという。

 韓国人にとって、キムチの漬け込みというのはそれほどのもの。早春のジャン(醤油と味噌)の仕込みとともに、「人家二大行事」といわれるほど、大きな意味を持っている。

 キムチというのは醤油・味噌と同等の重要性を持っている。日本の漬物の感覚ではとらえられないのがキムチだ。