賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

甲武国境の山村、西原に「食」を訪ねて(その22)

 (『あるくみるきく』1986年10月号 所収)

芋の詩(うた)

 西原・下城の脇坂芳野さんは「雑穀の詩」だけではなく、次のような「芋の詩」もつくっている。

  芋には長い    ひげがある

  むしって桶で   こすられて

  でっかい鍋に   しお味で

  ひじろに掛かかる おかもさま

  夜鍋ごとごと   火をもして

  朝のごはんに   芋たべて

  あとはてっきで  こんがりと

  ほかほかおいしい おやつです

  せいだは白く   丸い顔

  桶でごろごろ   洗われて

  でっかい釜で   ゆでられて

  ひじろのてっき  のせられて

  熾きを掃き出し  うらがえし

  まぶした塩が   こんがりと

  ほっくりおいしい おやつです

  赤いさつまは   横ぶとり

  ごろんごろん   洗われて

  大きな鍋に    木のわく入れて

  竹の網置き    さつまのせ

  ひじろに掛けて  火をもせば

  割れ目がほやけ  うんまそう

  あく灰に埋め   こんがりと

  ほくほくおいしい おやつです

 脇坂さんの「芋の詩」は、このように「サトイモの詩」、「ジャガイモの詩」、「サツマイモの詩」の3編から成っている。サトイモ→ジャガイモ→サツマイモというのは、いみじくも西原におけるイモの重要度をあらわしている。