賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

甲武国境の山村、西原に「食」を訪ねて(その21)

 (『あるくみるきく』1986年10月号 所収)

西原のソバ

 西原では年2回、ソバをつくっている。

 4月に種を播き7月に収穫する「ナツソバ」と、8月から9月にかけて種を播き10月から11月にかけて収穫する「アキソバ」がある。

 ナツソバは粒がとがっている。収量は多いが、味は若干、落ちる。

 アキソバは粒が丸みを帯びている。味はいいが、収量は若干、劣る。

 西原でのソバの食べ方は、そば粉を椀に入れ、熱湯を注ぎ、箸でかく「そばがき」が一般的だった。そのまま何もつけないで食べるのだが、けっこうな粘り気があり、食べ終わったあとは、ずっしりと腹にたまるような満腹感がある。

 そばがきは忙しい仕事の合間にも簡単につくれるので、間食には最適な食べ物だった。

 それに対して、そば粉を打って麺にする「そばぎり」は、ハレの日の食べ物。とくに、正月14日、盆14日の晩には必ずそばを打った。

 ただし、西原のそばというのは、そば粉だけで打つことはほとんどない。

「そば」というよりも「うどん」といったほうがいいのかもしれないが、そば粉1に対して小麦粉2ぐらいの割合で、そば粉に小麦粉を混ぜるというよりも、小麦粉にそば粉を混ぜて打つような麺なのである。