賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

甲武国境の山村、西原に「食」を訪ねて(その20)

 (『あるくみるきく』1986年10月号 所収)

シコクビエ(その3)

 シコクビエで興味深いのは、その栽培の過程で、イネと同じように移植することだ。

 シコクビエの栽培法は次のようなものである。

 4月から5月にかけて、表面をならした苗床に種を播き、その上から薄く土をかけておく。発芽し、苗が15センチぐらいに成長したところで畑に移植する。それが6月に入ってからのことである。

 移植の際には、根についた泥を洗い流す。泥を落とすのは、虫がつきにくくするためだとか、すこしでも苗を軽くし、運びやすくするためだといわれている。移植後は、夏の間に1度か2度、除草する。

 9月に入ると穂が出始める。青い穂が色づき、黄色から茶色に変る10月下旬から11月上旬にかけて収穫する。

 シコクビエはヒエと同じくらい、もしくはそれ以上に病虫害には強い。年によっての豊凶の差はあまりなく、安定した収量が期待できる。そのようなシコクビエなので、食料がけして豊かとはいえない山村にとっては、きわめてありがたい作物だった。

 その収穫は「穂刈り」だ。

 シコクビエに限らないのだが、雑穀類の収穫は根元から刈るのではなく、ホトリガマという柄が手のひらからわずかに出るくらいの小さな鎌で、穂の2、3センチ下を刈り取るのだ。刈り取った穂は腰につけたビク(腰籠)に入れ、いっぱいになったところで背負籠にあけ、それを背負って家まで運ぶのである。

 降矢さんは一度、養蚕に追われ、シコクビエを移植せず、直播したことがあった。すると、

「丈ばっかり伸びてしまって…。実の成りも悪かった。穂の出る時期が不ぞろいで、背丈も不ぞろいで…。おまけに、とっても倒れやすかった」

 ということで、いいことは何もなかった。