日本列島岬めぐり:第1回 富津岬(ふっつみさき・千葉県)
(共同通信配信、1990年)
千葉県南西部の富津岬の付け根が富津である。
富津の街中に入っていくと、民宿の看板をあちこちで見かけ、魚のにおいが鼻をつく。海水浴場がすぐ近くにあるので、地元の子供たちは真っ黒に日に焼け、「海の子」そのもの。都会の子供たちとは違う。
富津岬は東京湾に延びた下洲と呼ばれる長さ5キロほどの砂州でできている。岬を境にして東京湾は内湾と外湾に分かれ、北は日本有数の臨海工業地帯の京葉工業地帯、南は風光明媚な南房総国定公園になっている。富津岬の北と南では、世界がガラリと変わる。
富津岬は岬全体が自然公園になっていて、入口には食堂や売店が並んでいる。岬公園に入っていくと、1度に7000人が泳げるというジャンボプールや内房(房総半島の東京湾側)最大の富津海水浴場、潮干狩り場、キャンプ場などがある。
クロマツの防砂林の中はプーンと潮の香が漂っている。それがたまらない。岬の突端まで行くと、まるで積み木細工のようにコンクリートのテラスを積み重ねて階段でつないだ、何とも奇妙な、それでいて印象的な展望台がある。
最上階までは結構な上りで、ハアハア息を切らしてしまうが、それだけの価値はあった。夕暮れの潮風に吹かれながらの、360度の大展望はすばらしいものだった。
自分が今、通ってきた道が砂州の中に一直線に延びている。目を左に移すと、新日鉄の君津製鉄所が威容を誇っている。
前面の海は東京湾の難所、浦賀水道。なるほど狭い。その狭い海を大小さまざまな船が行き来する。対岸の横須賀の町並みが手の届くほどの距離だ。やがて観音崎の灯台がピカ、ピカッと強い光を投げかけてくる。その間の距離といったら、10キロほどでしかない。
このように富津岬は東京湾を望む要衝の地。幕末には砲台が、明治以降は海ほうが築かれ、要塞地帯として一般人の立ち入りは禁止されていた。富津岬にはそのようなキナ臭い歴史も秘められている。