賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリが選ぶ「ニッポン郷土料理」(1)沖縄編

1、ごーやちゃんぷる

那覇港に着きフェリーから降り立つと、まっさきに食べたくなる琉球料理がこれだ。食堂でふつうに食べられる。沖縄人のごくふつうの家庭料理にもなっている。ごーや(にがうり)を使った“ちゃんぷる(豆腐入りの炒めもの)”のことで、薄切りにしたごーやと大切りにした豆腐を炒めたものである。ごーやの苦みが強烈に「今、沖縄にいるんだ!」という気にさせてくれる。いったん慣れると、ごーやの苦みはやみつきになるほどである。

2、沖縄そば

沖縄独特の麺で、黄味を帯びている。そばといっても、そば粉ではなく、小麦粉100パーセントの、幅広の中華風の麺なのである。しこしこした歯ごたえのある麺で、昔ながらの“支那そば”の味がする。そば汁は豚骨などでダシをとったもので、濃厚でこってりしている。上に具のそーき骨(豚のあばら肉)がのれば“そーきそば”になり、足てぃびち(豚足)がのれば、“足てぃびちそば”になる。八重山諸島では“八重山そば”になる。

3、らふてー

沖縄の食文化は一言でいえば“豚肉文化”。沖縄で肉といえば豚肉のことであり、豚をあますところなく使いきっている。沖縄の豚肉料理のバラエティーさには驚かされるほどである。その中でも、もっとも一般的なのがこれ。沖縄風豚の角煮である。沖縄の酒、泡盛で煮込んだ豚肉のとろけるような味わいは、まさに沖縄そのもの。赤身と脂肪がきれいな3層の層を成している最上の三枚肉を使うのが、らふてーをつくる決め手なのだという。

4、足てぃびち

那覇最大の市場、牧志公設市場を歩いてすぐに目につくのは、豚足が山盛りになって並べられている光景だ。豚の顔皮もぶらさがっている。「おー、これぞ、沖縄!」と思わず声が出るほど。“豚肉文化”の真骨頂といったところなのである。豚足を骨ごとぶつ切りにして長時間、煮込んだものが“足てぃびち”で、沖縄の豚肉料理のなかでは、らふてーと並ぶ代表格になっている。足てぃびちののった沖縄そばの“足てぃびちそば”はうまい。

5、みみがー

“みみがー”とは、耳皮のこと。もちろん豚の耳皮である。泡盛の肴には最高で、コリコリッとした軟骨の歯ざわりがなんともいえない。みみがーと同じようにして食べるのが、“ちらがー”で、こちらは顔皮のこと。耳皮、顔皮などというとゲテもの食いのように聞こえるが、味はきわめて上品なものである。“みみがー刺し身”は、煮立てたみみがーを千切りにしたものと、千切りにしたキューリとゆでたもやしを合わせた酢のものである。

6、豆腐よう

沖縄は豆腐料理の盛んなところで、炒めものや煮もの、揚げもの、和えもの、汁ものと、その種類は多彩。きわめつけの傑作が豆腐を赤糀で発酵させてつくる豆腐よう。植物性の食品の豆腐を動物性のチーズにそっくりな食品に変えてしまうその知恵に驚かされる。なお、これと同じものを中国で食べた。中国では紅豆腐とよばれ、朝粥のおかずに出た。沖縄の食文化のおもしろさは、中国大陸や南方の島々と強く結びついていることである。

7、じーまーみ豆腐

“じーまーみ”とは地豆(南京豆)のことで、南京豆からつくる豆腐がじーまーみ豆腐になる。南京豆のしぼり汁とさつまいもの澱粉からつくる乳白色のじーまーみ豆腐には、とろっとした舌ざわりがあり、手でつかんでもちぎれないくらいの腰のつよいものが上等とされている。泡盛をグイグイと飲み、琉球料理のご馳走をさんざん食べたあとで、このじーまーみ豆腐を食べると、絶好のデザートになり、すーっと腹の中が癒されるようだ。

8、くーぶいりちー

“くーぶ”は昆布のことで、“いりちー”は炒めもの。もどした昆布を細かく刻み、豚の三枚肉とコンニャク、メンマなどとともに、醤油、味醂、酒、豚のだし汁を加えて煮込んだ昆布の炒め煮がくーぶいりちーになる。沖縄県の一人当たりの昆布の消費量は日本一。代表的な生産地の北海道と比べると、沖縄人は北海道人の倍以上も昆布を食べている。このあたりが食文化のなんともおもしろいところ。沖縄の代表的な昆布料理がこれである。

9、すぬい

“すぬい”はモズクのこと。三杯酢にしてズルズルかきこむようにして食べる。沖縄では4月ごろの1ヵ月ほどが最盛期で、昔は海辺の村ではモズク狩りに女子供まで総出で出たという。今では養殖が盛んにおこなわれている。沖縄では海藻類を使った料理が盛んだ。それが脂っこい豚肉料理には欠かせない名脇役になっている。同じく海藻のアーサを使ったアーサ汁もよく食されるが、沖縄人の長寿の理由のひとつに海藻料理が上げられる。

10、泡盛

沖縄特産の蒸留酒。その製法は15世紀の初頭にシャム(今のタイ)から伝わったといわれているが、沖縄と南方諸国との結びつきの深さがうかがえる話だ。泡盛の原料は今だにタイ産の砕米で、日本米だと、泡盛特有のあの甘い香りの漂う濃厚な味がどうしても出ないという。日本最西端の与那国島には、度数が60度というウォッカ並みに強い泡盛がある。また泡盛を長く貯蔵したものが、より風味の優れたくーす(古酒)である。