⑧「秘湯めぐりの峠越え」(1994年~1995年)の「藤七温泉のバイクの彼女」
1993年7月25日、盛岡を出発点にして八幡平の温泉をめぐった。
無料化されてまもないアスピーテラインで八幡平を登っていくと、数メートル先も見えないような濃霧の中に突入。ところが海抜1000メートルの御在所温泉まで登ると、雲海の上に出た。
上空はまっ青な青空。目の前には、雲海を突き破って岩手山がそびえている。
「うーん、すごーい!」
と、思わずうなってしまうほどの光景だった。
御在所温泉では「八幡平観光ホテル」(入浴料500円)の湯に入り、見返峠を登っていく。
岩手・秋田県境の、八幡平の見返峠に到着。この見返峠は、あまりなじみのない峠名。八幡平が高原状の地形なので、峠という意識が薄いからなのかもしれない。いっそのこと「八幡平峠」とでもしてくれれば、もっと知られる峠名になったはずだ。
見返峠からの展望は抜群! 岩手県側では雲海の上に突き出た岩手山を眺め、秋田県側では夕日に染まって赤々と燃える山々を一望する。山あいでキラキラ光っているのは、完成まもない玉川ダムだろうか‥‥。胸を熱くして、峠からの夕暮れの風景に見入った。
八幡平の見返峠から、松川温泉に通じている樹海ラインを2キロほど下ると藤七温泉。ここには「彩雲荘」と「蓬莱荘」の2軒の温泉宿があるが、そのうち「彩雲荘」に泊まる。浴衣に着替え、ひと風呂浴びて大広間に行くと、すでに夕食がはじまっていた。泊まり客全員が、一緒になって夕食をとるのだ。ぼくの隣りは一人旅の女性。イワナの塩焼きをつつきながらビールを飲んでいると、彼女に話かけられた。
「あのー、バイクで旅しているのですか?」
「彩雲荘」の前には、もう1台バイクが止まっていたが、それが彼女のもので、夏休みをとって一人で東北各地をまわっているという。東京のOL。ツーリングライダー同士の連帯感とでもいおうか、彼女とは以前からの知り合いであるかのように、ビールを飲みながらおおいに話しが盛りあがる。
夕食後、もっと飲もうよ、ということになった。
「8時になったら、あなたのお部屋に行くわ」
と、彼女はなんともうれしいことをいってくれる。東北の秘湯の宿で、若い女性と向かいあって飲むなんて‥‥。部屋に戻っても、8時になるのが待ち遠しくて、胸をときめかせてしまった。
8時ジャストに、コンコンとノックの音。彼女がやってきた! ビールを飲みながら、東北の地図を広げ、ああだ、こうだと話がはずみ、またしても盛りあがる。バイクという共通点があるので、話がつきない。窓を開けると、降るような星空。糸のように細い三日月が山の端に浮かんでいた。
「彩雲荘」には、混浴の露天風呂がある。
「ねー、一緒に入ろうよ~」
と誘うと、
「だーめ。だって‥‥、わたしの小さな胸を見られてしまうでしょ」
といって、浴衣の上からでもはっきりとわかるくらいの豊かな胸を揺らすのだ。
あっというまに、12時が過ぎた。ビールの空きビンだけが、ズラズラズラッと並んでいく。彼女は強い!
またしてもぼくが誘う。
「ねー、ここのまま布団を並べて一緒に寝ようよ~」
「だーめ。だって‥‥、あなたは大丈夫かもしれないけれど、わたしがあなたのお布団にもぐり込むかもしれないでしょ」
東北一人旅の“バイクの彼女”は、ほんとうにいいノリをしている。2人っきりの宴会がお開きになったのは午前1時過ぎ。
翌朝、朝食を一緒に食べ、食べ終わると“バイクの彼女”と握手をかわして別れた。ぼくが先に出発し、見返峠へ。藤七温泉が見えなくなると、後髪が引かれるようで、胸がジーンとしてしまうのだった。
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管理人:
ここぞとばかりに口説いたんですね、わかります。www
それにしても、彼女の受け答えが素晴らしいですね。結局何もなかったら部屋に戻った後ムカつきそうですが(笑)