賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

六大陸食紀行:第14回 中央アジア・モンゴル

 (共同通信配信 1998年~1999年)

 モンゴルの首都ウランバートルを出発点にして“草原の国”をバイクで走った。草原のいたるところで羊や山羊、馬、ラクダなどの家畜の群れを見る。遊牧民のテントのゲルもよく見かける。

 ゲルの中からは、バイクのエンジン音を聞きつけ、大人も子供も飛び出し、手を振ってくれる。牧羊犬が吠えまくり、ものすごい勢いで追いかけてくる。

 バイクを停めてゲルを何度となく訪ねた。そのたびにみなさんには歓迎され、馬乳酒をふるまわれた。馬乳酒は馬の乳を発酵させたもので、アルコール度数の低い酒。モンゴル人の夏の間の主食といっていいほどによく飲まれる。

 馬乳酒のほかに牛乳酒やラクダ乳酒もあるが、これら乳酒は搾った乳を皮袋や木桶に入れ、残った乳酒を加え、2000回、3000回も攪拌して発酵させたもの。乳酒を総称してアイラックといっている。この弱い酒のアイラックだけでは我慢できないのが人間というもので、それを蒸留させてつくる強い酒のアルヒもある。

 馬乳酒と一緒によく出してくれたのがアーロール。これは馬乳酒の酒粕を固めたもので、モンゴル人の大好物。チーズの風味があり、堅いやつをカリカリかじって食べるのだ。できたてのビャスラックというチーズを食べさせてもらったこともあるが、日本の堅豆腐のような味わいだった。

 そのほかバターやクリームをつくり、その脱脂乳には磚茶(たんちゃ)と塩を混ぜ乳茶で飲む。ヨーグルトもつくる。草原の草が豊富で、家畜の乳がよく出る春から秋にかけての遊牧民たちの主食は、これら乳製品になる。

 寒さの厳しい冬を越すのが大変だ。11月に入ると1家族で牛1頭、馬1頭、ラクダ1頭、山羊と羊を合せて10頭くらいを殺し、冷凍肉と干し肉にして冬に備える。遊牧民たちの冬の主食は肉になる。

 国民の大半が牧畜民という牧畜国は、世界広しといえども“草原の国”モンゴルをおいてほかにはない。モンゴルは世界でも最たる「牧畜文化」の国であり、食文化的にいえば世界でも最高度に発達した「乳食文化」の国なのである。