賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

六大陸食紀行:第13回 中央アジア・新疆

 (共同通信配信 1998年~1999年)

 北に天山山脈、南に崑崙山脈、西にパミール高原と、高い山々に囲まれた中央アジアのタクラマカン砂漠を一周した。その出発点は中国・新疆ウイグル自治区の中心地ウルムチ。

 オアシスの町や村の食堂で一番よく食べたのは、こねた小麦粉を手で延ばした手延麺。ゆであげた麺の上に羊肉や野菜類の具がどっさり入ったトマトベースの汁をかけて食べる。イタリアのスパゲティーのような食べ方だ。

 とある食堂で麺のつくり方を見せてもらった。まず塩水と脂を使って小麦粉をよくこねる。それをちぎり、棒状にし、両手で振り回して麺にする。鮮やかな手さばきだ。まるで目の前で魔法でも見せられたかのように、あっというまに麺が出来上がる。その間、道具は一切使わない。人間の手だけなのである。

 それと饅頭だ。食堂の店先にはたいてい蒸籠(せいろ)を置いて、饅頭を蒸かしている。中には何も入っていない饅頭が多く、それをご飯とかパンがわりにして食べる。

 これら麺、饅頭というのは東アジアの小麦・粉食圏(穀物を粉にする)特有の食べもので煮たり蒸したりする。中央アジアもその食文化圏に含まれているのがよくわかる。

“アジアの十字路”といわれる中央アジアのおもしろさは“麺・饅頭圏”であるのと同時に、西アジアの小麦・粉食圏特有の薄焼きパン“ナン圏”にも含まれることである。

 崑崙山脈北麓のホータンはシルクロード、西域南道の要衝の地。その昔『大唐西域記』を書いた僧の玄奘や『東方見聞録』を書いたマルコポーロらがこの道を通り、ホータンに滞在している。

 私はこのホータンでは、夜明け間近の町を歩いた。まだ町全体が寝静まっていたが、唯一、明かりをつけて店を開けていたのがナン屋だ。それは中央アジアが“ナン圏”であることを強烈に感じさせる光景。さらに食堂の店先では饅頭を蒸かす蒸籠と並んで鉄鍋でピラフを炒めている光景もよく目にした。ピラフは西アジアの米料理である。

 東アジアと西アジアの二つの大きな文化圏がぶつかり合う中央アジアは、まさに“アジアの十字路”なのである。