賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

六大陸食紀行:第11回 東南アジア・ベトナム

 (共同通信配信 1998年~1999年)

 ラオス北部のほとんど交通量のない山道を走り、タイチャン峠に到着。幾重にも重なり合った山々を一望する。

 峠がラオスとベトナムの国境で、峠上にはベトナムの国境警備隊の事務所と宿舎があった。すんなりとベトナムに入国できなかった私は、一晩そこで泊めてもらうことになった、というよりも足止めを食らった。

 夕食をみなさんと一緒にいただく。ポロポロのご飯と炒めた豚肉、それと青菜のスープだ。ラオスでは粘っこい糯米(もちごめ)が主食になっていたが、国境を越えたとたんに米が変わった。ベトナム人の主食はパサついた粳米(うるちまい)なのである。

 同じ“米食圏”といっても国境をはさんだラオスとベトナムでは、その食べ方は全然違う。ラオスでは竹籠に入った糯米のご飯(強飯)を団子をつまむようにして手づかみで食べるが、ベトナムではご飯の入った茶碗を口元までもってきて、箸でかきこむようにして食べる。でないと、ポロポロしているので、ご飯をこぼしてしまうのだ。

 それにしても、みなさん、よく食べる。次々におかわりし、5、6杯は食べている。日本の米のように重たくないので、何杯食べても腹には、そうもたれない。

 3杯以上食べなくてはいけないと、国境警備隊長は私の食べるそばからおかわりしてくれる。最後の1杯はみなさんと同じように青菜のスープをご飯にかけ、ズルズル音をたてて食べたが、お茶漬風のさっぱりした味わいだった。

 ハノイからサイゴン(ホーチミンシティー)までのベトナム縦断で一番よく食べたのは、“ベトナムうどん”といった趣のフォーである。フォーを食べなかった日は一日としてなく、朝、昼ともにフォーという日も多かった。汁の味つけも日本人好みだ。

 具だくさんのフォーだが、鶏肉が入ればフォーガーになり、牛肉が入るとフォーボーになる。フォーサオという焼きうどんもある。ただ日本のうどんと大きく異なるのは、小麦粉ではなく米粉からつくられていることである。フォーはまさに“米食圏”ベトナムを象徴するかのような食べものだった。