賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

六大陸食紀行:第9回 東南アジア・タイ

 (共同通信配信 1998年~1999年)

「インドシナ一周」の出発点タイのバンコクには一ヵ月以上滞在したが、その間は“現地食主義カソリ”の本領を発揮して、毎日、せっせとタイ料理を食べあるいた。

 朝食で一番気にいったのはカオトムクン。カオトムとは粥のことで、クンはエビ、つまりエビ入りの粥。タイの主食は米だが、日本のような短粒米(ジャポニカ)ではなく長粒米(インディカ)で、ねばりけが少なく、パサついている。このパサついた米で炊いたご飯は腹にもたれない。この味に慣れると、日本米がなんとも重たく感じられる。

 なお、カオは米のこと。普通に炊いた飯はカオスワイ、粥がカオトム、焼飯がカオパットになる。

 ところで食堂のテーブルにのっている4種類の調味料が興味深い。砂糖、強烈な辛さの小さめな青トウガラシの入ったナムプラー、大きめな青トウガラシの入った酢、それと乾燥させた赤トウガラシの粉末。タイ人の食べ方を見ていると、これら4種の調味料をふんだんに入れ、かき混ぜて食べている。タイでは砂糖の甘味、トウガラシの辛味、酢の味、魚醤油の味の四味が味覚の基本になっている。

 魚醤油のナムプラーはナムが水でプラーが魚、直訳すれば魚汁になる。日本でいえば能登半島のイシル(魚汁)や秋田のショッツル(塩魚汁)のようなもの。魚醤油はインドシナ各国で欠かせない。

 昼食はバンコクの町のいたるところにある屋台を食べあるいた。とくに麺の屋台だ。

 麺類はバラエティーに富んでいて、幅広の麺のセンヤイや細麺のセンレク、センミーなどがある。さすがに“米の国”タイだけあって、これらの麺類は小麦粉ではなく、米粉からつくられている。このあたりが小麦粉を焼いてパンにするインド以西の西アジアとの大きな違いになっている。

 夕食にはタイ料理を代表するスープのトムヤムをおかずにご飯を食べることが多かった。私のお気に入りは、これもエビ入りのトムヤムクン。香菜のパクチーやレモングラス、ショウガなどの香辛料がドサッと入った、強烈に辛いトムヤムクンを汗をタラタラ流しながら食べるのだった。