賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

六大陸食紀行:第1回 サハラ砂漠

 (共同通信配信:1998年~1999年)

 私はこの30年間、バイクで世界を駆けまわっているが、とくにこの10年あまりは「食」に興味を持って旅している。私のやりかたは徹底した現地食主義。バイクで世界を走りながら口にした様々なものをみなさんにお伝えしよう。

 アフリカのサハラ砂漠縦断では何度となく遊牧民の家に泊めてもらったが、まずは歓迎の意味をも込めて水を出してくれる。ヒツジの皮袋に入った水。それをホウロウの器に注いでくれる。ひやっとし冷たい茶色い水で、皮の臭いとでもいおうか、焦げついたような味がする。

 この色つきの、臭いつきの水が飲めなければもう失格。女、子供が2時間も3時間もかけ、大変な思いをして水場から汲んできたものなのだ。それをうまそうに飲み干したところで、はじめて彼らとコミュニケーションがとれる。

 夕食は木臼に雑穀を入れ、竪杵で搗いて粉にし、鍋で煮固め餅状にしたもの。それをホウロウの洗面器型の器に盛り、上からヒツジのミルクをかける。家族全員で器を囲み手づかみで食べる。私も一緒に食べさせてもらったが、粉とミルクだけの淡白な味なので、辛味とか塩味といった何かほかの味が欲しくなった。

 ラクダやヤギ、ヒツジなどの家畜とともに暮らすサハラの遊牧民だが、彼らが家畜を殺して肉を食べることはめったにない。彼らの生き方は、増やした家畜や乳製品をオアシスの市場で売り、それで得たお金で主食の雑穀などを買って帰るというものだ。

 夕食後のお茶の時間が楽しい。茶は中国製の緑茶。それをホウロウの小さな急須に入れ、水を注ぎ、火にかける。沸いてくると砂糖のかたまりを急須の中に入れる。砂糖が溶けると急須を目の高さくらいに持ち上げ、地面に置いた小さなコップに上手に注ぎ、飲みやすい熱さにする。

 同じ茶の葉で三度飲む。最初の一杯目は苦みが強く、二杯目は苦みと甘みが交錯し、三杯目は甘みが強くなる。家族団欒の茶飲み話しが、星空の下でいつまでもつづくのだ。

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