賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの島旅(91)鹿児島→東京

(『ジパングツーリング』2002年10月号)

「九州南部編」の島めぐりを終え、鹿児島港に戻ってきた。さー、ここからは「九州東部編」の開始だ。

 鹿児島では城山に登った。

 城山は鹿児島の町にせり出したシラス台地の先端。高さ108メートル。展望台に立つと、町の騒音がまるで劇場の天井桟敷で聞くどよめきのように山の斜面を這い上がってくる。

 足下は天文館、いづろ通り、朝日通りとつづく鹿児島の繁華街。その向こうの鹿児島湾(錦江湾)には桜島がどっしりと横たわっている。

 桜島は噴煙を空高く舞い上げている。巨大なかたまりとなった噴煙は大隅半島の方向へ、長く尾を引いて流れていく。

「地球が生きてる!」

 と、思わずそんな言葉が口をついて出る。

 城山の展望台からの展望は最高だ。

 鹿児島の市街地を一望し、桜島を目の前に眺め、さらに背後の大隅半島の山々を望む。この風景を目に焼き付けると、スズキSMX50のエンジンをかけ、桜島から大隅半島へと向かった。

 鹿児島の中心街から国道10号で国分に向かって走り出すと、冷たい風が吹きつけてくる。SMXのハンドルを握りながら、思わず身をすくめてしまう。寒い‥。あらためて鹿児島以南の南の島々のあたたかさがよくわかった。奄美諸島ではじとーっと汗ばむほどで、Tシャツ1枚で走ったこともある。こうして身を切られるような冷たい風に吹かれていると、何か、急に現実に引き戻されたような気分になる。

 国分の先の分岐を右へ、国道220号で大隅半島に入っていく。

 桜島口からは国道224号で桜島に入っていく。

 今でこそ本土と地つづきになっている桜島だが、もともとは独立した島だった。それが大正3年(1914年)の大噴火で大量の溶岩が流れだし、大隅半島と陸つづきになった。本土との接合部が桜島口なのだ。

 有村溶岩展望台に立ち、流れ出た溶岩原越しに噴煙を上げる桜島を見た。そのあと古里温泉「古里観光ホテル」(入浴料1050円)の湯に入る。生き返った! 

 次に大正の大噴火で埋まってしまった烏島の埋没地を見る。ここは周囲500メートルほどの小島だったが、あらためて桜島の噴火のすさまじさを見せつけられた。

 桜島温泉の国民宿舎「さくらじま荘」(250円)、白浜温泉の「温泉センンター」(300円)の2湯に入り、大正の大噴火で高さ3メートルの鳥居が埋まった「埋没鳥居」を見る。そして桜島口に戻った。「桜島一周」は40キロだった。

 桜島口から大隅半島を南下。垂水を通り、半島の西側、鹿児島湾側を行く。鹿屋の海岸には地つづきになっている天神島があった。「荒平天神」をまつる小島。これも「島巡りの日本一周」をしているから気がついた島で、今までに何度も同じルートを走っているが、この天神島は一度として自分の目に入らなかった‥。

 大根占、根占と通り、佐多町の伊座敷へ。そこから日本本土最南端の佐多岬に向かっていく。大泊から有料の佐多岬ロードパークウエイ(400円)を走り、駐車場からは有料のトンネル(100円)を歩き、御崎神社に参拝したあと、岬の突端に立つ。目の前の岩に灯台。その左手の水平線上には長々と種子島が横たわっている。ちょうど種子島から鹿児島港へと九州商船のフェリーが岬のすぐ近くを通りすぎていくところだった。

 佐多岬から根占に戻ると、根占温泉の「ネッピー館」に泊まった。

 翌日は大隅半島を横断し、志布志から宮崎県に入る。都井岬へ。灯台に登る。水平線上には種子島が霞んで見える。種子島までは70キロ。さらにここからは年の数回、屋久島が見えるという。屋久島までは140キロ。きっと山が高いので見えるのだろう。そのあと日本北限のソテツの自生地を歩き、断崖にまつられた御崎神社まで行った。

 都井岬から北へ、日南海岸を行く。

 海の青さがきわだっている。天気は快晴で、抜けるような青空を映した日南の海は、よけいに青かった!

 都井岬から南郷までの国道448号は「アイランドウオッチング」には最適のルート。バイクを走らせながら次から次へと島を見るのはじつに楽しい。

 日南海岸の「アイランドウオッチング」の第1島目は鳥島。第2島目は辛島。ともに無人島だが、辛島は猿の生息する島として知られている。対岸の本土側はきれいな白砂の石並海岸。そこから望遠鏡で猿の生態を見られるのだ。全島が亜熱帯樹で覆われた辛島には100匹余の野猿が生息している。辛島の野猿は海水浴をしたり、餌を洗って食べたりと文化度の高い猿だという。

 第3島目は築島。有人島だ。第4島目は銅島で陸つづきになっている。南の串間市と北の南郷町の境で、島は両市町をまたぐ夫婦漁港の一部になっている。島は天然の防波堤。 南郷町に入ると、第5島目の黒島、第6島目の烏帽子島、第7島目の大島が見えてくる。黒島、烏帽子島は無人島だが、大島は有人島で日南海岸では最大の島。江戸時代には飫肥藩の馬を飼育する牧場になっていた。

 国道448号は南郷町の中心、南郷の町並みに入り、JR日南線の南郷駅前で国道220号にぶつかる。「都井岬→南郷」間の国道448号は、日本でも最高の部類に入る「アイランドウオッチング」のルートだった。

 南郷町の南郷からは国道220号で日南海岸を北上していく。国道脇の臼井津港に寄っていく。遠洋漁業の基地にもなっている大きな漁港だ。この港の一角から大島行きの船が出ている。町営船の「あけぼの3」が接岸していた。1日6便の高速船。フェリーはない。

 臼井津港を過ぎると、小場島が見えてくる。無人島。その周辺には七ッ岩。小場島を見ながら南郷町から日南市に入り、市の中心の油津へ。油津港は日南海岸第一の港で、藩政時代は特産品の「飫肥杉」の積み出し港として栄えた。またここは、カツオやマグロの遠洋漁業の一大基地にもなっている。

 油津から北に行ったところに、安産の神、夫婦和合の神としてよく知られている鵜戸神宮がある。洞窟の中にまつられた社殿。乳の出ない若妻はこの洞窟の天井からしたたり落ちる清水を飲むと、乳が出るようになるという。門前のみやげもの店では、この御乳岩から出る水でつくった飴を売っている。

 そんな鵜戸神宮だが、日本初代の天皇、神武天皇のお父さんとお母さんをまつっている。ここは「古事記」や「日本書紀」の世界なのだ。

 国道220号をさらに北上し、日南市から宮崎市に入と、巾着島が見えてくる。小内海漁港の目の前にある地つづきの島。この巾着島も天然の防波堤。漁民のみなさんにとってはきっとすごくありがたい島だろう。そして堀切峠を越える。峠を下ると青島だ。

 日南海岸第一の観光地にもなっている青島は周囲1・5キロの小島。島には弥生橋がかかっているが、干潮時には地つづきになる。歩いて青島を一周。この小さな島に4300本ものビロウ樹がおい茂っている。ここは日本でも有数の亜熱帯植物の群落地で107種の自生植物があり、そのうち27種が亜熱帯植物だという。その代表がビロウ樹だ。青島というと「鬼の洗濯板」が有名だが、砂岩と頁岩から成る海岸の岩のうち、波で頁岩だけが削られたもの。「青島一周」はこの島特有の自然を間近に見られて楽しい。

 青島はまた海幸彦、山幸彦伝説の地。青島神社は山幸彦の彦火火手見尊(ひこほほでみのみこと)をまつっている。神社に隣り合った「日向神話館」(入館料600円)がよかった。日向神話の12景がろう人形で展示されている。天照大神に命じられて瓊瓊杵命(神武天皇のおじいさん)が天下るところから始まり、神武天皇が大和を平定するところで終わる全12景。まるで「古事記」を目で見るかのようだ。

 夕暮れの青島をあとにし、宮崎へ。ラーメン店でネギミソラーメン&ライス(750円)を食べた。

 宮崎からは夜の国道10号を走り、日向を通って延岡へ。延岡からは国道388号でリアス式海岸の日豊海岸に入っていく。大分県との県境を越え、佐賀関までつづく日豊海岸は、日南海岸と同じように国定公園に指定されている。

 ひと晩、須美江海岸の民宿「大洋」に泊まり、翌朝、浦城港へ。

 浦城は「浦城水軍」の根城だった。入口が狭く、奥深くまで切れ込んだ浦城湾は水軍の根拠地としては絶好。沖合から見つけ出すのはきわめて困難だった。

 そんな浦城港から日豊汽船のフェリー「にっぽう3」で島浦島に渡った。島の周辺は「海の畑」といったところで、タイやカンパチなどの養殖漁業が盛んにおこなわれている。20分で到着した島浦島は宮崎県では最大の島。漁業のきわめて盛んな島で、宮崎県では、一番の漁業基地になっている。

 島浦島は島全体が山がち。フェリー港から島浦トンネルを抜けると、島浦の集落。漁港は無数の漁船で埋めつくされている。魚の加工場からはプーンと魚のにおいが漂ってくる。漁船をつくる造船所もある。道はフェリー港から3キロ走ったところで行き止まり。島全部の道を走っても8キロ。そんな島浦島をあとにし、浦城港に戻った。

 浦城からは国道388号を北へ。前日の「日南海岸編」にひきつづいての「日豊海岸編」の「アイランドウオッチング」だ。

 第1島目は高島。北浦町の古江漁港の堤防越しに見た。

 国道388号では大苦戦。大分県との県境の峠に向かっていくと、舗装林道と変わらない道になり、大分県に入り、あともうひと息で蒲江というところで大崩落。宮崎県側に戻り、大きく迂回してまた大分県に入らなくてはならなかった。

 この時間のロスが痛かった。

 蒲江に着くと、砂浜の海岸から第2島目の深島と第3島目の屋形島を見た。さらに国道388号を北上し、佐伯市に入ったところで、九州最東端の鶴御崎へ。細長い半島の最後の集落、梶寄まで来ると、第4島目の大島が見えてくる。鶴御崎は佐多岬と同じで有料。300円払って入る。岬には灯台。その先に「九州最東端碑」が建っている。岬の先端からは四国の山々がよく見えた。

 鶴御崎から佐伯に向かっていくと、第5島目の八島、第6島目の大入島が見える。大入島は佐伯港の目の前の有人島。1500人あまり住んでいる。フェリーで渡るつもりでいたが、残念ながら時間切れで諦めた。

 佐伯からは国道217号で佐賀関へ。その間では彦島、網代島、地無垢島、黒島、保戸島、津久見島、そして最後に高島を見た。全部で13島の「日豊海岸アイランドウオッチング」。

 佐賀関から別府温泉へ。温泉旅館「一力」で泊まった。

「九州東部編」の最後の日は、夜中から土砂降りの雨だった。

 別府の温泉旅館「一力」を5時15分に出発。国道10号に出たところに24時間営業の「麺勝」。ここで特製ジャンボうどん(800円)を食べ、パワーをつけて雨の中を走り出す。日出で国道213号に入り、国東半島北端の国見町の伊美港へ。そこから姫島行きのフェリー「姫島丸」に乗った。伊美港から25分、7時55分に姫島に着いた。

 ザーザー降りの姫島を走る。まずはフェリー港から左へ。この道はすぐに採石場で行き止まり。次に正面の道を行く。この道は観音崎で行き止まり。最後にフェリー港から右へ。海沿いに走り、姫島最東端の柱ヶ岳鼻へ。岬には白い石づくりの趣のある姫島灯台。

 姫島の最後は拍子水温泉。「温泉センター」の湯に入った。入浴料250円。赤茶けた湯。浴室の窓越しに姫島灯台を見る。姫島の全走行距離は21キロになった。

 フェリー「姫島丸」で伊美港に戻ると、国道213号で宇佐へ。そして国道10号で北九州へ。新門司港到着は17時。19時10分発のオーシャン東九フェリー「おーしゃん いーすと」で東京に向かった。