賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

「伝説の賀曽利隆オンライン」(21)

(2001年6月10日)

 昨日、「北朝鮮ツーリング」から帰ってきました。

 今回の「北朝鮮ツーリング」は「韓国モーターサイクル連盟」(KMF)に招待されたもので、6月2日に全部で13台のバイクでソウルのオリンピック公園前をスタートしたときは、「これから史上初の歴史的イベントがはじまるのだ!」といった高揚した気分でした。

 外国人の参加者は「国際モーターサイクル連盟」(FIM)会長のウイルソンさん(イギリス人)、「BMWコリア」社長のフリンガーさん(ドイツ人)、それとカソリ(日本人)で、ほかの10人は韓国人ライダーのみなさんでした。ぼくのバイクは「BMWコリア」が用意してくれたR1150RTの新車でした。

 朝鮮半島を横断し、途中、1泊したテベック(太白)ではKTM会長のシンさんが総力をあげて建設中のサーキットを見学し、翌6月3日に日本海(東海)側の東海港に着きました。メンバー全員の協力で、「HYUNDAI Kumgam号」(2万7000トン)という金剛山観光の大型客船に13台のバイクを積み終えたときは、いよいよ間近に迫った「北朝鮮ツーリング」への期待感と緊張感で体の震えるような思いをしました。

 夕方の7時に出港した「HYUNDAI Kumgam号」は翌朝の7時に北朝鮮のコーソン(高城)に近いチャンジュン港に入港。朝食後、13台のバイクを1台づつ甲板から岸壁に降ろしましたが、そのたびに盛大な拍手。また、ぼくにとって北朝鮮は125ヵ国目の国になるので、韓国人のみなさんは「ペギシップオ-(125)!」といって祝福してくれました。岸壁にズラリと並んだ13台のビッグバイクは壮観な眺め。北朝鮮側の人たちも、何人も見にきたほどです。

 入国手続きを終えて13台のバイクで走りはじめたのは午前10時。我々の行く先々では、道路沿いに点々と若い兵士たちが立っていました。ちょうど田植えの最中で、大勢の若い女性たちを見ました。「南男北女(ナムナムプクニョ)」といわれるように、北朝鮮には美人が多いように見受けられました。道をはさんだ反対側の畑では麦が稔り、ソバ畑では白い花を咲かせていました。

 広々とした水田の中を走り、ダートの山道に入り、やがて海岸に出ました。そこは世界でも屈指の海岸美を誇る「ヘーグンガン(海金剛)」。ぼくはこの海金剛を昨年の「韓国一周」のとき、韓国最北端の「高城統一展望台」から見下ろしましたが、「それを今、北朝鮮で見ている!」といった感動に襲われました。

 今月14日のフェリーで大洗から苫小牧に渡ります。さー、モードを島編・日本一周に切り換えて北海道の島々をまわるゾ。根室から国後、択捉に渡れるといいのだけど‥‥。

(2001年6月30日)

「島編・日本一周」の「北海道編」から帰ってきました。

 6月の北海道の寒さは強烈で、とくに道北のオホーツク沿岸では「冬ツーリング」のような気分を味わいました。

 稚内から礼文島に渡ったのを皮切りに、利尻島、焼尻島、天売島、奥尻島と北海道の日本海上の5島を巡ってきました。

 礼文島では礼文岳(490m)、利尻島では利尻富士(1721m)とそれぞれの島の最高峰にも登ってきました。

オロロン鳥」の島、天売島ではオロロン鳥が急激に減り、今絶滅の危機にあることも知りました。平成5年7月12日の「北海道南西沖地震」で大きな被害を受けた奥尻島は島を一周したのですが、見た目には大地震の痕跡らしきものは残っていないほどに復興していました。

 今回の「北海道編」でよかったのは、北方領土の島々でした。

 日本本土最東端の納沙布岬に立った日は快晴で、一番手前の貝殻島やオトッケ(オドケ)島、水晶島などがじつによく見えました。これが「島編・日本一周」のよさなのですが、いつになく北方領土の島々には心を動かされて見ることができました。

 納沙布岬では漁師さんと話したのですが、行ったことのある島ということで、ぼくの知らない島の名前が次々に出てきたのには驚かされました。「北方四島」というのは歯舞、色丹、国後、択捉ですが、択捉島は日本最大の島、国後島は日本第2の大島、色丹島もかなり大きな島です。ところが歯舞は「歯舞群島」のことで、よく知られている貝殻島水晶島勇留島秋勇留島などは、その一部でしかないのです。

 知床半島に入ってからも、ずっと国後島を見ながら走りました。島々が南北に連なっているかのような国後島の山肌がはっきりと見えました。知床半島の最高峰、羅臼岳にも登りました。山頂からは国後島の上に、まるで宙に浮いているかのような択捉島を見ることができました。あの光景はぼくの目からいまだに離れません。

 宗谷岬に立ったときぼくは、これからはこの岬を「日本最北端の岬」といったり書いたりするのはやめようと決めました。宗谷岬は「日本本土最北端の岬」ではあっても、「日本最北端の岬」ではないのです。「日本最北端の岬」は北緯45度33分20秒、東経148度45分30秒の択捉島北端、カモイワッカ(カムイワッカ)岬なのです。

「国後、択捉をバイクで走りたい! いや、きっと走ってやる!!」

 そんな気分で北海道から帰ってきたカソリなのです。