賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

台湾一周2010(37)

6月22日(火)瑞穂→礁渓(その4)

 南澳から国道9号を北へ。スズキ・アドレスV125Gを走らせ、蘇澳を目指す。その途中では太平洋の浜辺に出た。丸みを帯びた小石が一面に敷き詰められたような海岸だ。

 蘇澳に近づくと天気は急変し、あっというまに黒雲が空を覆い、やがてザーッと雨が降ってくる。「台湾一周」で台北を出発して以来、初めての雨…。ずぶ濡れにあって蘇澳の町に到着した。台湾では、この町が一番、日本に近い。日本最西端の島、与那国島まで100キロほでしかない。

 蘇澳には蘇澳港と南方澳港、2つの港があるが、漁港の南方澳港の岸壁でアドレスを停めた。漁港は漁船でびっしりと埋め尽くされていた。

 南方澳港の前にある南天宮を参拝。ここには媽姐がまつられている。

 南天宮は3階建で、1階にも2階にも3階にも媽姐像がある。2階の媽姐像は玉で、3階の媽姐像はまぶしいばかりの金だ。

 南天宮を参拝しながら、ここまでの「台湾一周」での寺院めぐりを振り返ってみた。

 台北に着いた翌朝は、地下鉄に乗って観音をまつる龍山寺を参拝した。そこには媽姐もまつられていた。つづいて媽姐をまつる西門の天后宮を参拝した。

「台湾一周」の出発前には董事長(会長)の黄さんをはじめとする台鈴工業のみなさんと一緒に、本社近くの行天宮に行き、旅の安全の祈願をした。

 行天宮の主神は「三国志」の英雄、関羽。そのほか劉備張飛孔明岳飛をまつっている。

 横浜の中華街に関帝廟があるが、ここも家内安全、商売繁盛の神として関羽をまつっている。

 新竹では町の鎮守の城煌廟を参拝。ここでは城煌爺をまつっている。

 台中に近い大甲では鎮ラン宮を参拝。ここでは媽姐をまつっている。

 北港では朝天宮を参拝。ここは「北港媽姐」とも呼ばれているが、台湾全土に数多くある媽姐廟の総本山で、台湾各地から参詣者がやってくる。旧暦の正月から旧暦3月23日の媽姐の誕生日までの7晩8日をかけておこなう進香期、それと旧暦9月9日の媽姐昇天の日は大変な数の参詣者がこの町に押し寄せるという。

 台南では天后宮を参拝。ここも媽姐をまつっている。

 こうしてみると、台湾では媽姐をまつる寺院が圧倒的に多いことがわかる。

 航海の女神として知られている媽姐は台湾人の尊崇を一身に集め、航海の女神にとどまらず、まるでアラーのような全知全能の神になっている。

 司馬遼太郎の『街道をゆく』はぼくの愛読書だが、第40巻目の「台湾紀行」には台北の老人の言葉として次のようなくだりが出ている。

「台湾は観音様と媽姐様によってまもられています」

 台湾では仏教は衰退してしまったが、その中にあって、観音信仰だけは今でも盛んだ。

 さらに司馬さんは次のようにつづけている。

「むかしむかし、福建省の甫田に林ゲンという人がいた。その第6女が機織をしていると、魂がぬけ出して海上で遭難しかけている父を救った、という。父のかたわらで兄も溺れかけていた。兄を救おうとしたところ、母が不審に思って彼女を呼び醒ました。遊魂は彼女の体にもどり、このため兄は溺れた。後に成道し、天へ飛昇したのが、媽姐である」

 このように媽姐は実在の女性なのである。

 長崎には長崎最古の唐寺興福寺のほかに、崇福寺聖福寺の「唐三ヵ寺」がある。これらの唐寺には媽姐をまつる媽姐堂がある。唐の船主たちが、航海の安全を祈願してまつったものだという。

 そこには媽姐を守護する順風耳(じゅんぷうじ)と千里眼(せんりがん)の2神も まつられている。

「順風耳」は大きな耳が特徴。あらゆる悪の兆候や悪巧みを聞き分けて、いち早く媽祖に知らせる役目を持っている。「千里眼」は3つの目が特徴。媽祖の進む先やその回りを監視し、あらゆる災害から媽祖を守る役目を持っている。

 横浜の中華街にも、関帝廟のほかに媽姐廟もある。

 さらに興味深いのは、日本にも各地に媽姐信仰が伝わっていることだ。

 その一例だが、台湾からはるかに遠い下北半島北端の大間にある大間稲荷神社は媽祖をまつっている。

 大間稲荷神社の由来によると、もともとは百滝稲荷といっていたようだ。

 明治6年(1873年)に天妃媽祖大権現と金毘羅大権現を合祀、現在は弁天神(奥津島姫尊)も合祀している、とある。この天妃媽祖大権現とあるのが媽祖のことだ。

 元禄9年(1697年)7月23日、後に名主となる伊藤五左衛門が海上で遭難したときに助けられた神徳を崇め、水戸藩那珂湊の天妃山媽祖権現をこの地に分霊したものだという。それ以来、船魂神として多くの漁民たちの厚い信仰を集めているという。

 いやー、じつに興味深い話ではないか。

taiwan2010-37-0353

南澳から国道9号で北へ

taiwan2010-37-0354

太平洋の海岸に出る

taiwan2010-37-0358

南方澳漁港

taiwan2010-37-0360

蘇澳の南天

taiwan2010-37-0361

南天宮1階の媽祖像

taiwan2010-37-0365

南天宮2階の媽祖像

taiwan2010-37-0369

南天宮3階の媽祖像

taiwan2010-37-0367

南天宮から見下ろす南方澳漁港