賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

「青春18きっぷ2010」(31)

 東室蘭駅では13時45分発の長万部行に乗る。1両編成のディーゼルのワンマンカー。ボックスシートに座り、車窓に広がる内浦湾(太平洋)の海を眺める。

 伊達紋別駅ではかなりの人が乗り、車内はほぼ満員になる。大半の乗客は高校生。伊達紋別を過ぎると、有珠岳が見えてくる。大きな山容。その山並みの右端にはチョコンと盛上がった昭和新山が見える。

 洞爺湖への入口の洞爺駅ではかなりの人が降りた。乗る人はいない。次の内浦駅で大半の人が降り、車内はガラガラになった。さらに大岸駅で降り、その次の礼文駅で全員が降りた。礼文駅を過ぎると乗客は自分一人になった。

 礼文駅から次の小幌駅、その次の静狩駅までは、じつに興味深いところだ。

 列車は「北海道の親不知」ともいわれる礼文華の断崖絶壁の海岸を行く。昔からの交通の難所だ。トンネルが連続し、小幌駅などはトンネルとトンネルの間にある。この礼文華のすぐ北側が中央分水嶺になっている。

 北海道の宗谷岬から九州の佐多岬まで、津軽海峡をまたぎ、関門海峡をまたいで1本の線になってつながっている中央分水嶺は、日本列島を太平洋側と日本海側に二分している(北海道では宗谷岬から三国山まではオホーツク海日本海を分けている)。

 この中央分水嶺の1本の線は、室蘭本線礼文駅から静狩駅までの区間は太平洋の海岸線スレスレのところを通っている。

 室蘭本線のすぐ北を国道37号が通っているが、国道は礼文駅に近い礼文華峠までは太平洋世界を走る。礼文華峠のトンネルを抜け出るとそこは日本海に流れ出る朱太川の源流地帯で、日本海世界になる。次に静狩峠を越えるが、峠のトンネルを抜けるとふたたび太平洋世界に戻っていく。

 室蘭本線の線路は日本海側に入ることもなく太平洋側を走り抜けていくが、ここでは太平洋と日本海がつながっているといっても過言でないほど2つの世界は接近している。  東京で例えてみると、東京湾の湾岸からわずか数百メートルの所に上越国境の三国峠が迫っているような状況、それが礼文華だ。

 宗谷岬から佐多岬までの日本列島の中央分水嶺で、礼文華のような区間はほかにない。ここは薄皮1枚で太平洋と日本海が分けられるという、きわめて特異な区間なのである。 それともうひとつ、室蘭本線には中央分水嶺の特異な区間がある。

岩見沢→苫小牧」で通った「三川→追分」間だ。

 この間で中央分水嶺の峠を越える。とはいってもほぼ平坦な地形で、峠を越えたとは誰も思わないであろう。もちろんそこには峠名はついていない。だがその名無しの峠は北海道を太平洋側と日本海側に二分している。

 室蘭本線の西側を通る千歳線も同様で、千歳駅南千歳駅の間に中央分水嶺の峠がある。だがそこは平原の風景。新千歳国際空港はその南側、つまり太平洋側になる。

 千歳線の鉄路のすぐ脇を国道36号が通っているが、この峠も名無し峠。どこが峠なのか、多分、わかる人はほとんどいないと思う。北海道のこの一帯はスポーンと抜けたような地形になっている。

 なぜこれほどまでに中央分水嶺にこだわるかというと、「峠のカソリ」にとって、中央分水嶺の峠はほかの峠とは違うからだ。宗谷岬から佐多岬までの中央分水嶺の峠はほぼすべて越えたが、それらはほかの峠と比べて一段も二段も、格が高い。

 バイクで日本各地を走っているとき、ぼくはいつも中央分水嶺を意識している。

 ぼくの持っている大半の地図には赤線が入っているが、その赤線は中央分水嶺の線。

 中央分水嶺を意識すると、日本列島の構造がよくわかるし、日本をよりおもしろくまわれるようになる。

 室蘭本線の1両編成の列車は静狩駅を過ぎると平原をひた走る。一直線に延びる線路。終点の長万部駅の手前では右側から合流する函館本線の列車(2両編成)と一緒になり、2本の列車は同時刻の15時14分、長万部駅に到着した。

 これで「岩見沢長万部」の室蘭本線の全線完乗、達成だ。

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長万部行の列車

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稀府駅

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伊達紋別

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有珠岳が見える。右端には昭和新山

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大岸駅

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礼文

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静狩の町並み

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函館本線の列車

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長万部駅に到着