賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの島旅(77)広島(香川)

(『ジパングツーリング』2002年5月号 所収)

 本島港8時20分発のフェリーに乗り、丸亀港で下船するときのことだ。おばあちゃんに声をかけられた。

「兄さん、どこをまわっているの?」

「今、島をめぐりながら日本一周してるんですよ」

「大変だねー!」

「いやー、好きなことですから…」

 といった会話をかわした。

 そのおばあちゃんはなんと、

「これ、使いなさい」

 といってぼくにお札を1枚、手渡そうとするのだ。それも5000円札ではないか。

「お気持ちだけで十分ですから」

 といって返したが、おばあちゃんは5000円札を折ると、ぼくのジャケットのポケットに押し込むようにして入れる。

 その気持ちをありがたくいただくことにしたが、名前も教えてくれなかった本島のおばあちゃん、ありがとう!

 丸亀港からは、ひきつづき9時25分発の備讃フェリーの「びさん2」に乗り、さきほど本島から見た塩飽諸島最大の島、広島の江ノ浦港に渡った。

 広島も本島と同じように、時計回りに島を一周した。

 島の南側では砂浜越しに四国本土の山々を眺める。きらめく海。スキーッと抜けるような青空を背にして島の最高峰、五頭山(312m)がそびえている。

 島の西側には採石場がつづく。広島は“石の島”。いろは石の産地なのだ。島の西側からは塩飽諸島の島々のみならず、「本州西部編」のときに泊まった岡山県の北木島もよく見える。

 島の東側は西側とはうってかわって豊かな自然。山々はうっそうとした樹木に覆われていた。