賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(35)東北編(その6)

みちのく5000(6)北上山地縦断編

(『バックオフ』1995年12月号)

 やったぜー!

 今回の「北上山地縦断編」でダート1000キロを突破した。

 全走行距離5000キロ、ダート1000キロを目標にスタートした「みちのく5000」だが、早々と目標を突破した。

 東北は、それほどの林道天国! そのなかでも北上山地は、知られざる林道の宝庫。我らオフロードライダーが胸をときめかせて走れるエリアなのだ。

 みちのくの狼カソリ&ブルダスト瀬戸の“みちのく踏破隊”は、今回はエリアEの北上山地を縦横無尽に駆けめぐった。秋の空は抜けるような青さで、透明感にあふれていた。

 山野は紅葉に染まりはじめ、山里には栗の実が、山中には栃の実が落ちていた。朴の大きな葉は黄色くなり、サラサラと音をたてて葉の落ちはじめたブナは、樹肌の白さが目立ちはじめていた。

 峠にバイクを止めたときの、ひんやりとした風の感触‥‥。

「あー、秋なんだ!」

“みちのく5000”をスタートさせたころは、東北の山々は、まぶしいくらいの新緑に燃えていた。それが、回を重ねるごとに、むせかえるほどに濃い深緑の世界に変わった。

 夏の熱風が、秋の涼風になったとたんに、もう、紅葉の季節。

 東北の林道をバイクで駆けながら、あまりにも早い日本の四季折々の移ろいを身をもって感じとるのだった。

 これがバイクの旅のよさ。バイクで山野を駆けめぐると、知らず知らずのうちに、人間本来の持つ五感が鋭くなる。

 季節の風を感じ、季節の匂いを感じ取れるようになる。

 感受性が豊かになり、心がやわらかになる。

 自然に対してやさしい目を持てるようになるし、人に対しても、やさしく接することができるようになる。

 さて、北上山地だ。

 岩手県の東半分を占める北上山地は、南北の長さが250キロにも達する。その幅は、北上川流域から太平洋岸まで、80キロほどである。

 エリアCの阿武隈山地と同じような高原状の地形だが、阿武隈山地よりも、スケールがより大きくなる。標高1000メートル前後の山々が連なり、標高1914メートルの早池峰山が最高峰になっている。

 北上山地の林道を走っていると、ときどき、日本離れした風景の中に迷い込むことがある。

 全体がなだらかな高原状の地形なので、山々の稜線近くが、広々とした牧場になっているところが多いのだ。ダートを走って行くと、いつしか、牧場の牧草の中で道が消えている‥‥ということもあった。

 また、これも、いかにも北上山地らしいのだが、日本アルプス奥羽山脈のような、谷が深く切れ込んだ地形ではないので、ゆるやかに流れる渓流沿いのルートが何本もある。

 バイクを渓流のわきに止め、流れの中に入り、冷たい水を手ですくって顔を洗うといったことができる。

 そんな北上山地岩手県の一関を出発点にして一路、北へ、青森県の八戸を目指し、縦断するのだった。

◇◇◇

 東京から東北道の一気走りで夜通し走り、一関ICに到着したのは、午前6時。みちのくの狼カソリ&ブルダスト瀬戸の我ら“みちのく踏破隊”は、2台のDR250Rを走らせ、北上山地の林道群を目指す。

 第1本目は、大東町から内野峠を越えて住田町のR397に通じる篠倉沢林道。すばらしくきれいな渓流沿いのダートだ。北上山地には温泉がほとんどないこともあって、ここでDRを止め、渓流浴をした。

「カソリさん、絶対に使ってね」

 と、“豪州軍団”の上原和子さんにプレゼントされた美人図の手拭いを使う。

「上原さ~ん、ちゃんと、約束をはたしましたよ!」

遠野物語”の里、遠野からは、琴畑林道、長井林道と2本の林道を走り、太平洋の大槌湾に出る。そこからながめた北上山地の山々が印象的。

 第1日目は55キロのダートを走り、盛岡に近い志和稲荷温泉で泊まった。

 翌日は、快晴。早朝の盛岡の町を走りまわり、第1本目の岩神林道へ。そこで通算のダート距離1000キロを達成。林道のド真ん中に2台のDRを止め、ブルダストと用意したカンコーヒーで乾杯した。

 岩神林道にひきつづいて、御大堂山の山頂近くを通る御大堂林道に入っていく。

 この、北上山地のナンバーワン林道にも舗装化の波が押し寄せ、“藪川26km”の標識の立つ林道入口からなんと8キロも舗装路になっていた。それだけに、舗装路が途切れ、ダートに入ると、ブルダストと思いっきりのガッツポーズ!

 これは、我らオフロードライダーの習性のようなものだが、ダートに入ったとたんに、目の色が変わる。体もシャキッとしてくる。

 御大堂林道のコーナーを次々にクリアーし、稜線に近づくと、ゆるやかな山並みの北上山地なので、ストレート区間が長くなる。路面も整備されている。

 DRのアクセルをグググッと開き、高速で突っ走った。

 稜線近くからの眺望は抜群。幾重にも重なりあった北上山地の山並みの向こうに、岩手山が見える。奥羽山脈の山々も青く霞んで見える。沿道の赤や黄に染まった紅葉がまぶしほどだった。

 御大堂林道を走りきり、R455に出、早坂峠を越える。

 峠下の権現から入っていく町道早坂1号線は、走りやすいダート。石峠を越え、大川沿いの釜津田に出る。

 最奥の集落(一軒家)櫃取へ。そこから櫃取林道に入っていく。御大堂林道を越え、御大堂林道と交差し、JR山田線の大志田駅に向かって下っていく。かつての超ハードなダートも、ずいぶんと走りやすくなっていた。

 さらに、もう3本のダートを走り盛岡へ。志和稲荷神社に隣りあった志和稲荷温泉で連泊。わが家に帰ってきたような安堵感を味わった。

 北上山地縦断の第3日目も、いったん盛岡に出、R455に入っていく。盛岡からわずか数キロ走ると、もう、北上山地の山中なのだ。

 盛岡は今回のキーワード。ブルダストはすっかり盛岡が気に入り、

「カソリさん、住むのだったら、盛岡のようなところがいいですね」

 といっている。

 盛岡をとりまく自然は豊かだし、ちょっと走れば、もう林道だ。

 R455から山越えのダートで岩洞湖に抜けようとしたら、牧場の中に迷い込んでしまった。まるで別世界。道は牧草地の中で消えた。

 次に、外川林道。この入口がわかりづらく、さんざん、探して、やっと入っていった。峠までは、かなり荒れた路面。オフロードバイクでやっと走れるくらいのダート。路面は深くえぐれている。雨が降りだし、激しくなる。冬間近を思わせるような冷たい雨。林道はあっというまに川のようになった。

 峠を越え、葛巻町側に入ると、道はよくなった。

 最後のダートは名無し林道。大規模伐採地で行き止まりだったが、その現場がすごい。なにもここまでしなくても‥‥と、ため息が出るくらいの伐採の仕方。無残にも伐り倒されたブナの大木がゴロゴロころがっていた。

 葛巻の食堂で昼食にし、エリアEのゴール、八戸を目指す。

 R281で平庭峠を越え、「八戸川内大規模林道」に入っていく。盛岡と宮古を結ぶR106の川内から八戸までつづく大規模林道だ。

「これで、ダートをもう2、30キロは稼げるな」

 と、喜んだのもつかのま、行けども行けども2車線の舗装路。山岳ハイウエーなのだ。もう、ガックリ‥‥。

 八戸では八戸温泉の湯につかり、八戸ICから東京まで、700キロの高速道一気走り。いやー、我ら“みちのく踏破隊”、よく走る!

■コラム■盛岡のわんこそば

 盛岡駅前の「信愛庵・細田屋本店」で、盛岡名物のわんこそばを食べた。いや、食べたというよりも、カソリVSブルダスト、壮絶なバトルをくりひろげた。

 わんこそばというのは、椀に入ったそばを次から次へと振る舞われるもので、椀7、8杯がふつうのかけそば1杯分ぐらしになる。それを味わって食べるのではなく、店のお姉さんに給仕されるままに、飲み込むようにして食べる。

 楽に食べられるのは最初のうちだけである。

 10杯目、20杯目ぐらいまでは、一気にいく。

 平均すると、女性で30杯、男性で50杯とのことだが、その50杯を過ぎると、俄然、苦しくなってくる。ナメコおろしや小さく切ったマグロなどの薬味に手を出すようになる。

 それでもブルダストと、お互いに苦しそうな顔を見合わせて、

「やるゾー!」

 と、いきまいていたが、次第に迫力はなくなってくる。

 ブルダストはついに、70杯目でダウン。もうそばを見るのもやだという顔をしている。

 カソリはしぶとく食べつづけ、90杯を突破。それからは、地獄の苦しみだったが、ついに100杯に到達。店の認定書をもらった。

 この地方には、もともと、「そば振る舞い」というものがあって、給仕役の女性が客の椀にそばを入れてまわったという。その食べ方が今日のわんこそばにつながったようだ。

 冷涼な気候の北上山地がそばの栽培に適し、「南部そば」の産地になっていたという背景もある。

■データ編■

(林道)

1・篠倉沢林道    ダート13キロ

2・小友峠林道    ダート 5キロ

3・琴畑林道     ダート16キロ

4・長井林道     ダート17キロ

5・和山林道     ダート 4キロ

6・岩神林道(往復) ダート14キロ

7・御大堂林道&支線 ダート27キロ

8・町道早坂1号線  ダート20キロ

9・櫃取林道     ダート15キロ

10・名無し林道    ダート10キロ

11・館沢林道     ダート17キロ

12・県道大志田停車場線ダート12キロ

13・玉山牧場のダート ダート16キロ

14・外川林道     ダート14キロ

15・塚森林道     ダート 3キロ

16・名無し林道(往復)ダート14キロ

ダート合計217キロ

(峠)

1・内野峠

2・荷沢峠

3・小友峠

4・琴畑林道の峠

5・長井林道の峠

6・小峠

7・御大堂峠

8・早坂峠

9・石峠

10・外川林道の峠

11・平庭峠

(温泉)

1・志和稲荷温泉

2・八戸温泉

■データ編2■

(林道1)

ダート距離13km

走りごたえ☆☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆

R343の大東町から入っていく。大東側は町道世田米線。内野峠を越えた住田町側が篠倉沢林道になる。篠倉沢の渓流沿いのダート。R397の世田米に出る。

(林道2)

ダート距離5km

走りごたえ☆☆

景色のよさ☆☆

遠野市の小友からR283へ、小友峠を越える林道。走りやすい。交通量もそこそこにある。小友には、岩手三景の不動巌。巨岩の下に巌龍神社がある。

(林道3)

ダート距離16km

走りごたえ☆☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆☆

遠野市のR340の一ノ渡から入っていく。琴畑を過ぎるとダート。琴畑川沿いに峠へ。峠でスリーグリーンライン(全線舗装)に出るが、その手前を左折するとダート。

(林道4)

ダート距離17km

走りごたえ☆☆☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆

大槌町のスリーグリーンラインとの分岐から入り、琴畑林道と逆のコースをたどり、峠を下ったところで右折。大槌町の長井に出る。けっこう荒れたダートだ。

(林道5)

ダート距離4km

走りごたえ☆☆☆

景色のよさ☆☆

遠野市大槌町を結んで稜線上を走るスリーグリーンラインの界木峠から入っていく林道。釜石市の和山近くに出るので和山林道。ここでは大鹿に出会った。

(林道6)

ダート距離14km(往復)

走りごたえ☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆

御大堂林道と分岐し、ゆるやかな峠を越え、R106の区境峠近くに出る林道。かつては20キロを越すダートだったが、今では全線の舗装化が間近だ‥‥。

(林道7)

ダート距離27km(支線を含む)

走りごたえ☆☆☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆☆

北上山地ナンバーワン林道にも舗装化の波が押し寄せ、舗装区間が延びているが、今ならまだ、おもしろく走れる。御大堂山の山頂直下を通るので、眺望は抜群!

(林道8)

ダート距離20km(支線を含む)

走りごたえ☆☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆☆

石峠を越えるほぼ全線がダートの

峠越え町道(岩泉町)。峠上は広々とした牧場。R455から入っていったが、石峠を越えた南側からの北上山地の眺望が目に残る。

(林道9)

ダート距離15km

走りごたえ☆☆☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆☆

大川沿いの最奥の集落、櫃取(岩泉町)から入っていった。御大堂山南側の峠を越え、御大堂林道と交差。そこからの下りはかなりハード。峠周辺からのながめがいい。

(林道10)

ダート距離10km(県道を含む)

走りごたえ☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆

櫃取林道を盛岡側に下り、舗装路に出、1キロほど走ったところで右折して入っていく林道。山の中腹を縫うルート。県道大志田停車場線に合流。大志田駅まで走った。

(林道11)

ダート距離17km(県道を含む)

走りごたえ☆☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆

大志田駅からR455方向に走り、分岐を左へ。それが館沢林道。R455に出るまでの全線がダート。交通量はほとんどなく、気分よく走れる。外山ダム近くに出る。

(林道12)

ダート距離12km

走りごたえ☆☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆

R455の大ノ平から入った。入口には県道名表示。そこからJR山田線の大志田駅までは全線がダート。林道同様におもしろく走れる。ゆるやかな峠を越える。

(林道13)

ダート距離16km

走りごたえ☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆

R455の大ノ平から北へ。玉山牧場の中に入り込んでしまい、岩洞湖畔に出ようとグルグル走りまわってしまったが、行き止まり。広大な牧場の風景は印象的だった。

(林道14)

ダート距離14km

走りごたえ☆☆☆☆☆

景色のよさ☆☆☆☆

R455から岩手川口に通じる県道に入り、最初のダート(道幅狭い)を右折。荒れた路面。道が川のようにになっている。峠を越え、8キロ下ると十字路。ここで舗装。

(林道15)

ダート距離3km

走りごたえ☆☆

景色のよさ☆☆☆☆

外川林道を下った十字路を左折すると、短いダート。整備された路面。舗装路になると沿道には牧場がつづき、日本離れした風景が見られる。ゆるやかな丘陵地帯。

(林道16)

ダート距離14km(往復)

走りごたえ☆☆☆

景色のよさ☆☆☆

通り抜けできる林道であろうと狙いをつけたのだが、行き止まり。雨にぬかったダートを突破し、最後は急斜面を駆け登った。大規模伐採地の現場は胸の痛くなる光景。

(温泉1)

「志和稲荷温泉」(入浴料300円)

志和稲荷神社に隣あった一軒宿の温泉。1泊2食6000円という安さ。東北道紫波ICに近い。

(温泉2)

「はちのへ温泉」(入浴料300円)

八戸道の八戸ICに近い一軒宿の温泉。塩分の強い草色の湯。サウナ、電気風呂もある。ちょっとひと風呂&休憩に最適だ。