賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

日本列島岬めぐり:第48回 伊良湖岬(いらこみさき・愛知)

(共同通信配信 1990年)

 朝一番の午前8時発、伊良湖行き「伊勢湾フェリー」に乗って、鳥羽港を離れた。1時間ほどの航行だが、船尾の長いすに座りながら、間遠になっていく伊勢・志摩の山々を眺める。船旅の良さをしみじみと感じる一時だ。

 伊勢湾は東京湾や大阪湾と並ぶ海の銀座通り。大型船が次々に通り過ぎていく。そのたびに大きな余波で一本釣りの漁船は木の葉のように揺れた。

 三島由紀夫の名作「潮騒」の舞台になった神島を過ぎると、渥美半島突端の伊良湖岬は近い。フェリーは岬のすぐ近くを通り、伊良湖港に入港した。

 岬が天然の防波堤になっている伊良湖港は昭和38年の完成。鳥羽だけでなく、知多半島先端の師崎や三河湾に浮かぶ篠島、日間賀島、対岸の蒲郡へのフェリーや高速船が出、ここは渥美半島の海の玄関口になっている。

 伊良湖港に上陸すると、伊良湖岬先端の灯台まで歩く。岬はウバメガシやハマヒサカキ、ヤブツバキ、ユズリハなどの緑濃い照葉樹で覆われている。

 岬から東へ、遠州灘に沿って延びる1キロほどの砂浜は、「恋路ヶ浜」とロマンチックな名前がつけられている。そんな砂浜の途切れるあたりに、

「名も知らぬ 遠き島より 流れ寄る椰子の実一つ」

 と、島崎藤村の「椰子の実」の詩碑が建っている。

 この地に滞在した日本民俗学の父・柳田国男が、浜に打ち寄せられた椰子の実を拾った。その話が「椰子の実」のモチーフになっている。

 伊良湖岬は黒潮という「海の道」によって、はるかに遠い南の島々と結びついている。

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岬の灯台の向こうには神島と伊勢・志摩の山々が見えている