カソリの林道紀行 東北編(その4)
みちのく5000(4)阿武隈山地編
(『バックオフ』2005年10月号 所収)
“みちのくの狼”カソリにとって、今回の阿武隈山地は未知の世界。
我が日本地図からスッポリ抜けた空白のエリアなのだ。
それだけに、期待は、ものすごく大きかった。
そして阿武隈山地は、その期待に、見事にこたえてくれた。
すごい世界だ、阿武隈山地は!
まさに林道の宝庫。
林道が網の目のように、延びている。
◇◇◇
みなさん、阿武隈山地って、知っていますか?
南は茨城県境から、北は宮城県境へ、長さ170キロ、幅50キロほどで連なる福島県東部の山地で、全体になだらか。
平均した高度は、標高500メートルほどである。
日本全国を駆けめぐっているカソリにとって、この阿武隈山地というのは自分の日本地図からスッポリと抜け落ちてしまったようなエリアで、今までほとんど走っていない。
というのは、山地とはいっても、全体がなだらかな高原状の地形なので、これといった目ぼしい峠はないし、何か、強烈に訴えてくるものもないし‥‥ということで、福島県の阿武隈川沿いの中通りを貫くR4や、太平洋岸の浜通りを貫くR6は走っても、そこから一歩はずれて阿武隈山地に入っていくということは、ほとんどなかった。
ところが、この阿武隈の世界に、一歩、足を踏み入れていくと、そこがとてつもなくおもしろい世界だということがよくわかる。
全体になだらかな高原状の地形なので、林道をつくりやすいということもあるのだろう、いたるところに林道が延び、それこそ、網の目状態なのである。
このエリア、阿武隈山地の大きな特徴は、1本のロングダートを走るというのではなく、無数にある10キロ前後ぐらいの林道を走りつなぐところにある。地図を頼りに、そのような林道を探し出す楽しみがある。頭を使わないことにはできない林道走行なのである。
“我ら林道派”にはピッタリのエリアだと思うのだが、地図でカンをつけ、ルートを探しだし、そのルートを実際に走ってみるのだ。
想像したとおりのダートで、キッチリと走り抜けられたときの喜びは大きい。
「みちのく5000」の第3弾、エリアCの阿武隈山地を目指し、“みちのくの狼”カソリとブルダスト瀬戸の「世界一周」コンビは、東京・渋谷のBO編集部を午前4時に出発した。
我らの相棒は、カソリがDR250R、ブルダストがDJEBEL250。
ブルダストとの合言葉は、
「阿武隈山地の林道を1本でも多く走ろう!」
で、カソリ&ブルダストは燃えている。
首都高から常磐道を走る。友部SAで朝食にし、7時30分、福島県南端のいわき勿来ICに到着。この勿来がエリアCの出発点になるのだが、東京からの距離は、190キロでしかない。イメージしているよりも、阿武隈山地は、はるかに近い。
まずは、みちのくの玄関口、勿来関跡に行く。前回の白河関跡でもふれたが、勿来関は“奥羽の三関”のひとつに数えられていた。それほどの、要衝の地であった。
「さー、行くゼ!」
と、ブルダストにひと声かけ、阿武隈山地の第1本目の林道に向かっていく。
川部町(いわき市)でR289を左折し、地図で見当をつけ、地元の人にも教えてもらい、やっと目兼横川林道に入ることができた。渓流に沿って走り、仏具山の南側の峠を越える。ダート9キロ。第1本目ということで、ひときは印象の深い林道だ。つづいて、ダート10キロの四時川林道を走り、朝日山近くのR289に出た。
第3本目の大柴山林道(ダート4キロ)、第4本目の中沢川林道(ダート4キロ)と、短い林道を走りつなぎ、“いわき遠野”の中根ノ湯温泉で入浴&昼食。ここで食べたアユの塩焼き定食はうまかった!
出発すると間もなく、バケツをひっくりかえしたような土砂降りの雨になる。
豪雨をついて、林道激走。
阿武隈山地林道群のハイライトのひとつ、鶴石山周辺を走る。第5本目の折松林道(ダート13キロ)、第6本目の鶴石山林道(ダート15キロ)と、ともに10キロを上回るダートコースを連続して走った。
こうして、R49に出、いわき市の中心、平へ。ここまでが“阿武隈山地林道群”の第1ステージ。全部で55キロのダートを走破した。
平からはR6を北上し、楢葉町まで行く。そこが、第2ステージのエントランス。まず、ダート15キロの乙次郎林道を走り、つづいて、ダート12キロの滝ヶ谷・井出川林道を連続して走り、富岡町の岩井戸温泉「うめだや旅館」に泊まった。
翌朝は、午前4時に起床。すぐさま、太平洋の浜辺へと走り、水平線上に登る朝日を拝む。後ろを振り向くと、十六夜の月。感動のシーンだ。
宿に戻ると、朝湯に入り、朝酒のカンビールを飲み、そのあと、朝寝を楽しんだ。
「ブルダストよ、これが“極楽三大セット”。人生、ほかに、何を望むことがあろうか」
と、カソリ、わかったような、わからないようなことをいう。“我ら極楽トンボ組”は、30分ほどの朝寝から目覚めると、朝食を食べ、“阿武隈山地林道群”の第2ステージを走りはじめた。
(※管理人たまらず:良い子の皆さんは真似をゼッタイしないように! カソリも以後は禁止ですよ!←まぁ2005年時点だと世間的にもこうだったのかも知れませんが・・・)
第1本目は、前日にも走ったダート12キロの滝ヶ谷・井出川林道。県道のいわき浪江線から入っていく。
最初が井出川林道。最奥の民家を過ぎると滝ヶ谷林道になるが、かなり荒れた林道。夏草が覆いかぶさり、轍が深く掘れている。ゆるやかな峠を越え、乙次郎林道との分岐を過ぎ、さらに3キロのダートを走り、R399に出た。
第2本目は、川内村の三ツ石から入っていくダート10キロの赤原遠山林道。大津辺山(778m)の山頂近くを走るので、ゆるく連なる阿武隈の山々を一望できた。
いったん川内村の中心、上川内に出、R399に面した「峰」という食堂で昼食にする。ここで食べたイワナ丼は忘れられない。開きにし、タレをつけて焼いた肉厚のイワナが2ひき、丼飯の上にのっていた。
“イワナ丼”でパワーをつけたところで、県道小野富岡線から子安川林道への道に入っていく。2キロほど走ると2又の分岐に出るが、右の子安川林道を行く前に、左の“モリアオガエルの生息地”で知られる平伏沼への林道を走る。この道を平伏林道とでもしておこう。峠にバイクを止め、山道を歩き、神秘的な平伏沼を眺めた。
分岐点に戻り、ダート12キロの子安川林道に入っていく。林道の入口から出口まで、全線ダート。
子安川林道の川内村側は、かなりラフな路面。石のゴロゴロしている区間もある。稜線に出ると眺望抜群。阿武隈山地の最高峰、大滝根山(1193m)を間近に眺める。峠を越えると、石灰石を敷きつめた真っ白な道。その輝きがまぶしい!
“阿武隈山地林道群”第2ステージの第5本目、ダート3キロの桜沢小久保林道を走ったあと、第6本目の神楽山林道に向かう。地図を見ると、外門という集落から入っていくのだが、とある集落に着いたとき遊んでいる子供たちに聞いてみた。
「ねえキミたちソトカドはどこ?」
しかし、子供たちの答えは知らないヨというものだった。
仕方がなく5キロほど戻り、もう一度聞いてみると、子供たちのいた集落がなんと外門。これでトモンと読む。日本語は難しい。ダート12キロの神楽山林道を走り、さらに前日走った乙次郎林道を走り、山あいの静かな温泉の岩井戸温泉に連泊した。
“阿武隈山地林道群”のメインステージの第2ステージでは乙次郎林道と滝ヶ谷・井出川林道を往復し、また、何本かの行き止まり林道に入ったこともあって、その距離をも含めると、全部で120キロのダートを走った。
翌日は第3、第4ステージを走る。
まずは第3ステージだ。
県道いわき浪江線を左折し、大河原林道に入っていったが、これが行き止まり林道で往復18キロのダート。次に日影山糠塚林道に入っていったが、残念、またしても行き止まり林道。往復6キロのダートだった。
いったんR288に出、玉ノ湯温泉でひと風呂浴び、ダート11キロの行司沢・小滝沢林道を走り、名瀑の行司ヶ滝を見にいった。
第3ステージの最後は三程林道。期待していたのだが、行けども行けども舗装。この舗装林道でブルダストがやられた。
舗装林道というのは落ち葉や砂が溜まっていたり、沢水が流れ出て路面が濡れていたりして危ないのだ。そんな舗装林道のコーナーでブルダストが転倒。肘と膝をかなり深く切った。温泉タオルで応急処置。さすが“世界一周ライダー”のブルダスト、痛みを顔に出さずに、グッとこらえている。三程林道はR114に出る手前で、ほんの1キロがダート。第3ステージのダートは36キロだった。
R6の原町から第4ステージへ。
大源地林道(行き止まり林道。ダート往復8キロ)、栃窪橲原林道(ダート4キロ)、湯船林道(ダート4キロ)と走り、R115に出た。目の前には、岩山の霊山(805m)がそそりたっている。
R115で福島へ。そこが今回のゴール。
福島に着くと、信夫山の展望台に立ち、眼下の福島の市街地を見下ろした。右手には奥羽山脈、左手には阿武隈山地の山並み。ブルダストとガッチリ握手をかわす。今回もダート距離は200キロをはるかに越え、227キロになった。
「すごいゾ!」