賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

日本列島岬めぐり:第37回 佐多岬(さたみさき・鹿児島)

(共同通信配信 1990年)

 大隈半島の鹿児島湾岸を走る国道269号を南下し、佐多町の伊座敷からは県道で日本本土最南端の岬、佐多岬に急いだ。岬に立って東シナ海に沈む夕日が見たかったのだ。

 だが、岬入口の漁村、大泊に着いたときには夕方の5時を過ぎていた。大泊-佐多岬間の9キロは有料道路の佐多岬ロードパークで、5時にはゲートが閉じられる。

 まだ明るいうちから浜辺で野宿。流木を集めて火をたいた。

 暗くなると集落から「夕焼け放送」が聞こえてくる。小中学生が交代で本を朗読する声が、スピーカーにのって流れてくるのだ。

 港からは漁船が次々に出ていき、やがて黒々とした水平線上に、まばゆいほどに漁火がともった。

 翌朝、8時にゲートが開くのを待って、往復400円の有料道路代を払い、佐多岬に向かってスズキ・ハスラーTS50を走らせた。その途中、北緯31度線を越える。そこには「カイロ、ニューデリー、上海、ニューオーリンズ」と、同緯度の都市名を書いた木標がある。

 北緯30度59分30秒の佐多岬の展望台に立った。

 目の前の大輪島にある佐多岬灯台は慶応2年、江戸幕府と米、英、仏、蘭の4ヵ国との間で取り決めた条約に基づいて、全国8ヶ所に設けられた灯台の1つである。明治4年の完成時は菜種油を使っていたという。

 佐多岬の展望台からは、大隈海峡を隔てた水平線上に、左から種子島、屋久島、口永良部島が淡く、墨絵のように見えた。

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佐多岬突端から見た大輪島と灯台