賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの島旅(29)礼文島

 (『ジパングツーリング』2001年11月号 所収)

 5時30分、岩尾別温泉を出発。知床半島からオホーツク海沿いに走り、本土最北端の宗谷岬を目指す。天気は一変し、一面の鉛色の空。冷たい雨がシトシトと降っている。

 宇登呂から斜里へ。その途中では海岸のすぐ近くの大滝、オシンコシンの滝を見る。斜里にちかづくと、麦やビート、ジャガイモなどの広大な畑が見られるようになる。斜里に着くころには、ありがたいことに雨はやんだ。

 斜里からは国道244号で網走へ。網走に着くころにはまた雨が降りだし、それ以降はずっと雨…。オホーツク海に突き出た能取岬に寄り道する。知床岬から宗谷岬までのオホーツク海ではこの能取岬は唯一の岬らしい岬だ。岬の突端には黒白2色に塗り分けられた灯台が立っている。

 能取岬から国道238号へ。その間には3キロほどのダート区間が残っている。海沿いの「北海道一周コース」の中では、唯一のダート区間だ。

 常呂、湧別と通り、紋別を過ぎると雨が激しくなり、気温が急激に下がる。SMX50にしがみつき、ガタガタ震えながら走る。歯がカチカチ鳴ってしまうような冷たさだ。国道沿いのデジタルの温度計は6度を示している。前日が25度を超えたので、なんと20度近い温度差。

「寒いよ~」の連発。

 稚内まで走るつもりでいたが、諦めて中頓別温泉の「北オホーツク荘」に泊まる。

 宿に着いたときは手がかじかみ、宿帳を書けないほど。係の女性は部屋の暖房を入れてくれた。これが6月の北海道‥。すぐさま湯に飛び込む。生き返ったー!

 翌朝、浜頓別温泉を出発したのは5時。真冬と変わらないような強烈な寒さ。オホーツク海から吹きつけてくる風がよけいに寒さを増す。

 本土最北端の宗谷岬に立ち、オホーツク海から日本海に入ると、風がやみ、海が穏やかになる。気温も上がってほっと一息ついた。

 稚内到着は午前10時。苫小牧から稚内までは1324キロだった。

 稚内駅前の「ひさし食堂」でかにめし(1200円)を食べ、稚内港へ。いよいよ北海道の島巡りの開始だ。その第1島目は礼文島。

 10時50分発の東日本海フェリー「クイーン宗谷」(3531トン)にSMX50とともに乗る。ぼくのほかには4人のツーリングライダー。甲板では、礼文島に着くまでの間、みなさんたちとツーリング談義で盛り上がった。

 稚内港から1時間55分で礼文島の香深港に到着。みなさん、今晩は「緑ヶ丘キャンプ場」に泊まるとのことで、そこでの再会を約束して別れた。

 礼文島は南北に細長い島。香深港は島の南に位置している。島の西海岸は切り立った断崖が連続しているので、島一周の道はない。

 礼文島縦断の道道40号を北へ。船泊の食堂「あじさい」で礼文島の名物バフンウニのウニ丼(2000円)を食べ、最北端のスコトン岬に立った。つづいてゴロタ岬、澄海岬と礼文島の3名岬に立ち、香深に戻った。

 香深の銭湯「北限湯」(360円)に入り、「緑ヶ丘公園キャンプ場」に行った。「クイーン宗谷」の面々と再会。楽しい一夜になった。

 翌日は「緑ヶ丘キャンプ場」を午前4時に出発。その日は夏至なので一段と日が長く、4時といえば、もう十分に明るい。

 香深港から道道40号を南へ。4キロほど行った知床の集落で道は行き止まりになる。その先は礼文島西海岸の断崖絶壁になる。

 知床では小さな漁港を歩いた。ちょうど1隻の漁船が漁に出るところだった。タコ漁だという。このあたりのタコ漁というのは、タコ壺を使うのではなく、タコ樽を使っている。タコ樽を流すのだ。その樽には餌のついた針がぶらさがっている。タコもウニ同様、礼文島の名産になっている。

 香深港に戻ると、次に礼文島を横断し、峠のトンネルを抜け、元地へ。そこは礼文島の西海岸では唯一の集落。道は名所「地蔵岩」で行き止まりになる。その手前にある「佐藤売店」で朝食。500円のウニ汁と1000円のウニ丼を食べた。

 この1000円のウニ丼でちょっとものたりないが、「佐藤売店」にはそのほか1800円のダブルウニ丼と、2600円のスペシャルウニ丼があった。

 2日連続のウニ丼に満足したあと、「桃岩展望台」に登った。礼文島は高山植物の花の季節。前日は澄海岬に近い鉄府で礼文島の高山植物を代表するレブンアツモリソウの白い花を見た。ここでは紫色のミヤマオタマキの花が目立った。

 香深港に戻ると、今度はダート7キロの礼文林道を走った。稜線を縫って走る礼文林道の沿道でも、何種類もの高山植物の花々が見られたが、そのなかでも赤紫色のハクサンチドリが目立った。

 全部で300種以上もの高山植物が見られるという礼文島は、まさに「高山植物の島」。それも高山だけでなく平地でも見られるところが礼文島のすごさなのだ。

 最後に道道40号のエリア峠にある「高山植物センター」(入園料200円)に行き、今の季節に咲いている礼文島の高山植物の花々を見た。