賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの島旅(27)貝殻島(北海道)

 (『ジパングツーリング』2001年11月号 所収)

 

 2001年6月14日、梅雨空の最中、茨城県の大洗港から商船三井フェリーの苫小牧行き「さんふらわあ つくば」(1万2325トン)に「島編日本一周」の50㏄バイク、スズキSMX50ともども乗り込んだ。23時59分発の夜便だ。

 夜が明けると、「さんふらわあ つくば」は宮城県の金華山沖を航行していた。

 15時45分、下北半島の尻屋崎沖を通過。津軽海峡入口あたりを通過すると、日がさしてくる。北海道沖を北上するにつれて天気は劇的に変わり、雲ひとつない快晴の夕空になった。梅雨のない北海道を実感!

 6月15日19時45分、商船三井フェリーの「さんふらわあ つくば」は苫小牧港に到着。さあー、北海道一周の開始だ。苫小牧を出発点に北海道を反時計回りで一周し、その間の船で渡れる島、5島を巡るのだ。

 まずは根室へ、国道235号で襟裳岬を目指す。夜の国道を走り出した瞬間、愕然とする。

「しまった、6月の北海道を甘くみていた‥‥」

 SMX50で切る風は、まるで冬のような冷たさ。グローブが薄手のものなので、指先がジンジン痛んでくる。この指先の痛みに我慢できず、苫小牧から50キロほど走ってカソリ、ダウン。国道沿いの「富山シティーホテル」で泊まった。

 翌日もスキーッと透き通る青空。浦河、様似と通り、日高山脈が海に落ちる襟裳岬に立つ。

 黄金道路を走り、海沿いの国道336号経由で釧路へ。

 釧路からは国道44号で根室へ。

 その途中、厚岸では高台に立ち、厚岸湾の入口に浮かぶ「小島」を眺める。この島は夏の間だけコンブ漁で人が住むが、残念ながら船は出ていない。

 19時45分、根室に到着。富川から454キロ。これは1日の走行距離としては今までの最高。根室駅近くの「あづま旅館」に泊まった。

 翌日も快晴。「あづま旅館」を5時30分に出発し、本土最東端の納沙布岬に向かう。 その途中では歯舞と珸瑤瑁に立ち寄る。歯舞では漁港を見、珸瑤瑁では日本最東端の郵便局を見る。

 6時30分、納沙布岬に到着。納沙布灯台の前に立ち、珸瑤瑁水道の向こうに見える北方領土の歯舞群島の島々を見る。

 納沙布岬からわずか3・7キロの貝殻島周辺には無数の漁船が群がっていた。その数は300隻以上か。午前6時から11時まで、日本の煮つけコンブの中では最高の品質を誇っている「貝殻コンブ」をとっているのだ。年間、1隻あたり40万円を超える高額の入漁料をロシア側に払ってのコンブ漁なのだという。

 豆粒のような貝殻島の右手にはオットケ(オドケ)島が、はっきり見える。その向こうには秋勇留島、勇留島、志発島が見える。貝殻島の左手には、平べったい水晶島が見える。これらはすべて歯舞群島の島々だ。

「北方四島」というと歯舞、色丹、国後、択捉の4島。だがこのように「歯舞」はひとつの島ではなく、いくつもの島々から成る群島なのである。

 納沙布岬の「鈴木食堂」でイクラ丼を食べ、後ろ髪を引かれるようなおもいで根室に戻った。

「いつの日か、きっと、バイクで北方四島を走ってやるゾ!」

 と叫びながら‥。

 ほんとうは今回の「北海道一周」編では、根室(花咲港)からの「ビザ無し渡航」で、バイクで「北方四島」をまわりたかった。あちこちに手をまわしてその可能性を探ったが、うまくいかなかった‥。

 根室に戻ると、日本の鉄道の最東端駅、無人駅の東根室駅に立ち寄ったあと、「北方四島交流センター」(入館無料)に行った。「北方資料館」や北方領土関連資料の展示室を見学した。そこで見た戦前の志発島の相泊や色丹島の斜古丹、国後島の古釜布、択捉島の紗那など、北方四島の島々の町の写真は、強烈にぼくの目に焼きついて離れなかった。