賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(22)中部編(その13)

 (『バックオフ』2006年4月号 所収)

大鍋林道

東伊豆から西伊豆

 かつては日本有数の「林道天国」だった伊豆半島も、ほとんど全線が閉鎖され、通行禁止状態だ。その中にあって大鍋林道は唯一、以前と変わらずに走れる。東伊豆と西伊豆を結ぶ県道115号の一部に組み込まれているからだろう。

 大鍋林道で越える峠が大鍋越。東伊豆の河津町西伊豆松崎町の境の峠。東伊豆から峠を越えて西伊豆へ、これは最高におもしろい伊豆半島のツーリングコースだ。

 伊豆は半島の国。半島全体が山がちで、山々はそのまま海に落ち、風光明媚な海岸線をつくり出している。「山と海」、それが伊豆半島

 伊豆半島の玄関口、熱海からスズキDR-Z400Sを走らせ国道135号を南下。大鍋林道で大鍋越を越えるだけでなく、東伊豆、西伊豆、南伊豆の海岸線もたっぷりと楽しもうというのが今回のツーリングプランだ。

 まずは宇佐美の海岸沿いにある「ふしみ食堂」で朝食。ここは朝早くからやっているので、ぼくの伊豆半島ツーリングには欠かせない店。うまいアジの干物で腹いっぱいに飯を食べ、パワーをつけ、寒風を切り裂いて走る。朝食をしっかり食べるというのはカソリのツーリング術の基本だ。

 赤沢温泉では無料湯の混浴露天風呂に入った。湯につかりながら目の前の海を眺め、水平線上に浮かぶ伊豆大島から神津島へとつづく伊豆七島の島々を眺める。「島と海」を眺めながらつかる温泉なんて…、もう最高だ。

 今回は無料湯だけに限って東伊豆の赤沢温泉と河津浜温泉、西伊豆雲見温泉の露天風呂に入ったが、3湯とも海を目の前にする「絶景湯」。無料湯の温泉には必ず入るというのもカソリのツーリング術の基本でなのある。

 東伊豆町の中心、稲取では国道を離れ、小半島にある稲取の町中へ。

 名産の金目鯛の水揚げ港で知られる稲取漁港から温泉街を走り、小半島突端の稲取岬へ。岬の展望台からはキラキラと光り輝く東伊豆の海の向こうに伊豆七島の島々を見た。南伊豆の海岸線をも一望。その先端の爪木崎がよく見えた。目を山側に向けると天城連峰の最高峰、万三郎岳(1406m)が見えた。

 山々が海岸のすぐ近くまで迫っているのがよくわかる稲取岬の風景だ。

 河津浜温泉の海岸の露天風呂に入ったあと、河津川沿いに走る。早咲きの河津桜がちらほら咲き始めていた。国道414号に合流し、湯ヶ野温泉から県道115号で大鍋へ。大鍋の集落を走り抜け、熱海から74キロ地点で大鍋林道のダートに入っていく。

 大鍋越に向かって一気に高度を上げる。

 かなり奥まで林道沿いには段々になったワサビ田が見られる。この大鍋林道の河津町側のダート区間は、若干、舗装路が延びているだけで、峠までは以前とほとんど変わりがない。

 東伊豆の河津町西伊豆松崎町境の大鍋越に到達するとDR-Z400Sを停め、峠の草原で昼食。デイパックの中から稲取名物の「げんなりずし」を取り出して食べた。

 峠で食べると、ひときわおいしく感じられるものだ。

 大鍋越から松崎町側を下るとすぐに簡易舗装になる。大鍋林道のダート区間は6・5キロ。舗装区間に入るとすぐにカンス林道との分岐点。林道入口には鉄パイプを組んだ頑丈なゲート。伊豆半島の現状を象徴する光景だ。

 以前は、大鍋林道からカンス林道経由で長久郎林道を走り諸坪峠へ、というルートは伊豆半島のダートのゴールデンルートだった。

 諸坪峠からは白川林道で西伊豆へ、荻ノ入林道で東伊豆に出られた。それも今ではもう遠い昔のような話…。

 西伊豆の海岸に出ると雲見温泉の露天風呂に入り、国道136号を南下。

野猿の岬」で知られる波勝崎と「伊豆半島最南端の岬」の石廊崎に立ち寄り下田へ。

 南伊豆のすばらしい夕日を眺めたあと、下田の食堂「魚河岸」で金目三昧の夕食を堪能し、国道135号で熱海に戻った。

「山国と海国」、伊豆の2つの顔を見た大鍋越だった。