賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(21)(中部編(その12)

 (『バックオフ』2005年10月号 所収)

川上牧丘林道

 1本の「峠越え林道」にトコトン、こだわって走ってみたいと思った。「峠越え」のおもしろさと、「林道走行」のおもしろさを同時に楽しめるのが「峠越え林道」なのだ。

 まっさきに目をつけたのは甲信国境(山梨・長野県境)の大弛峠を越える川上牧丘林道。標高2360mの大弛峠は車道の峠としては日本最高所の峠だ。舗装化の進んだ川上牧丘林道だが、信州側にはダート区間が残っている。

信国境の大弛峠越えて

 中央高速の勝沼ICが今回の旅の出発点。勝沼、塩山、牧丘と峡東(甲府盆地の東部)をめぐった。胸にしみる甲州の町々。勝沼では日本のブドウ栽培発祥地の大善寺、塩山では武田信玄菩提寺恵林寺を参拝。牧丘からは国道140号で「信玄の隠し湯」に入りがてら、甲武国境(山梨・埼玉県境)の雁坂峠まで足を延ばした。

 いよいよ川上牧丘林道だ。

 雁坂峠から牧丘に戻ると、

「さー、行くゾ!」

 とスズキDR-Z400Sにひと声かけ、川上牧丘林道に向かっていく。

 甲府盆地から一気に山中に入り、まずは焼山峠を越え、牧場のある柳平から待望の川上牧丘林道に入っていく。柳平では大規模なダムが建設中だ。

 かつては「峰越林道」で知られたハードなダートコースの川上牧丘林道だが、今では甲州側は大弛峠までの全線が舗装化されている。

 とはいっても、林道をとりまく風景はまったく変わらない。

 鶏冠山林道(通行禁止)との分岐を過ぎると、大弛峠に向かってグングンと高度を上げ、奥秩父連峰の主脈の山々が見えてくる。名峰、金峰山も目の前に見えてくる。峠に近づくと、ガクンと気温が下がり、コメツガなど針葉樹が多くなってくる。

 柳平から15キロ走ったところで、車道の峠としては日本最高所、甲信国境の大弛峠に到達。甲府盆地はむせ返るような暑さだったが、標高2360mの大弛峠はヒンヤリした風が吹き抜けていた。下界とはまったく気温が違う。というより季節が違う。峠はすでに秋だった。

 大弛峠の駐車場は登山者の車で埋めつくされていた。峠には山小屋もあって、奥秩父連峰登山の絶好の拠点になっている。国師ヶ岳経由で奥秩父連峰の最高峰、北奥千丈岳(2601m)まで40分ほどで登れるのだ。

 大弛峠からの長野県側の下りは、かなりラフな路面のダート。前方に連なる信州の山並みを眺めながら下っていく。9・0キロのダートを走りきるとそこは一面の高原野菜畑。川上高原を走り抜け、千曲川の川辺へと下った。

 川上村からは信州峠を越えて再度、甲州に入り、中央高速の須玉ICへ。そこが今回の旅のゴールだった。