賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(20)中部編(その11)

 (『バックオフ』2001年12月号 所収)

信州林道ツーリング

「信州・林道まつり」の会場となった「大芝高原オートキャンプ場」に、ブルダスト瀬戸がピカピカのニューDR400の「DR-Z400S」を持ってきてくれた。

 このニューDR400で、1日かけて存分に信州の林道を走ろうという、なんともうれしい話なのだ。

 久しぶりの「艱難辛苦組」カソリ&ブルダスト瀬戸コンビの林道ツーリング。おまけに最高の林道ツーリング日和で、抜けるような青空には雲ひとつない。高原を渡る風は秋そのものといったさわやかさだ。

 さっそくニューDR400のエンジンをかける。軽快なエンジン音に身も心も踊る。

 この瞬間がたまらない。マシンにまたがり、アクセルを軽く吹かしてみる。

 4サイクル単気筒400㏄エンジンのDR-Z400Sだが、エンジン音にはどことなく2サイクルを思わせるようなところがあり、ぼくの遊び心はおおいにくすぐられる。

 DR-Z400Sにまたがったときのスリム感には驚かされてしまう。無駄なものすべてを削ぎ落としたといった感のあるこのスリム感こそDR-Z400Sの命なのだ。

 シート高は895ミリと見かけよりも高い。そのため身長170センチのぼくは爪先立ちしたときにバランスを崩し、ブルダスト瀬戸の目の前でなんと立ちゴケしてしまった。それも連続して‥。まあ、愛嬌ということで、瀬戸さん、許して下さい。

 さあー、いよいよ出発だ。

 ぼくが先を走り、そのあとをブルダスト瀬戸がフォローするといういつものパターン。瀬戸さんの乗るバイクはカソリのDJEBEL250GPSで、すでに走行距離は9万キロを超えている。

 中央高速の伊那ICに近い「大芝高原オートキャンプ場」から伊那の中心街に入り、天竜川を渡り、城下町の高遠へ。

 そこから待望の信州の林道群に入っていく。

 第1本目は国道152号で杖突峠に向かっていく途中から入っていく高嶺林道だ。信州の林道の大半は走破したと豪語しているカソリだが、う~ん、知らなかったなあ‥、こういういい林道があったとは。

 道幅は狭く、入笠山に向かってけっこう急勾配のな上りがつづく林道。小刻みなコーナーが連続し、それらひとつづつのコーナーはタイトなもの。路面も適当に荒れていてじつにおもしろく走れる。

 このような林道こそまさにDR-Z400Rのフィールドだ。

 パワーがあるので129キロという車重をまったく感じさせない軽快感で自由自在に林道を駆け抜けていく。深いワダチも怖くない。なにしろ軽いので、簡単に避けて走っていけるのだ。

 400㏄のオフロードバイクというと、ズッシリ重い重量感をイメージしてしまうが、DR-Z400Sの軽さというのは250㏄クラスを思わせるものがある。

 樹林の中の曲がりくねった道を走り抜けると、稜線上の開けた所に出る。南アルプスの山並みを眺めながら走る。高嶺林道はまさに“絶景林道”だ。

 さらにダートから舗装路に出たところからの眺めがすごかった。北アルプスの3000m級の穂高連峰の峰々をも一望する。その北の3000m峰、槍ヶ岳もよく見える。

 入笠山周辺では、カラマツ林の中の2本目のダートを走り、入笠山登山口近くの茶屋で昼食。

 今回は残念ながら時間がなくて登れなかったが、この入笠山(1955m)はおすすめだ。簡単に登れるし、山頂からは北アルプス中央アルプス南アルプスと「日本の屋根」を一望できる。

 昼食後、信州・林道ツーリングの後半戦開始。

 まずは牧場のゲートを自分で開け、そして自分で閉めて、第3本目の林道の黒河内林道に入っていく。コーナーもゆるく、路面も整備された渓流沿いのダートコース。パワーのあるDR-Z400Sなので、ストレート区間の長いところでは、ついついアクセルを開け気味になる。さすがに400、加速感が違うのだ。

 黒河内林道の15キロほどのダートを走り抜けると舗装路になり、「仙流荘」の前を通って国道152号に出た。

 そこから三峰川を渡って4本目の女沢林道に入っていく。女沢峠を越える“峠越え林道”だ。

 この女沢林道は三峰川側から入っていくと、道を間違えやすい。最初の分岐は左、次の分岐は右なのだが、ぼくたちはそこを左に行ってしまった。それはかなりつづく行き止まり林道だったが、稜線上に出ると、中央アルプスの最高峰、木曽駒ヶ岳(2958m)を真正面に眺めた。

 間違えた分岐まで戻り、女沢峠に向かって登っていく。道幅が狭くなる。交通量も少なく、2本の轍の間には草がはえている。そして長谷村と駒ヶ根市の境の女沢峠を越える。峠からの見晴らしがあまりよくないのがちょっと残念だ。

 女沢峠を越えて駒ヶ根市側に入ると新山林道になる。峠を下ったところで舗装路との分岐。そこを右へ、もうひとつの峠、新山峠を越えて高遠に戻った。

 女沢峠、新山峠と、ともにぼくにとっては初めての峠なので、よけいにうれしい峠越えになった。

 高遠からは時間との勝負で国道361号の権兵衛峠を目指した。

 伊那の中心街から道幅の狭い峠道に入り、一気に峠へ。際限なく上り勾配のカーブが連続するが、それをものともせずにDR-Z400Sはまるで牛若丸のように、ヒラリヒラリとコーナーをひとつづつクリアーしていく。

 そのおかげで、間に合った! ブルダスト瀬戸と「やったね!」と感動の握手をかわした。

 権兵衛峠の展望台に立つと、夕日を浴びた南アルプスの連山を一望できた。雲ひとつない夕空を背にした南アルプスの山々の眺めは神々しいばかりの眺め。

 最後の最後まで「林道ツーリング日和」の一日だった。