カソリの林道紀行(14)中部編(その5)
(『バックオフ』2004年12月号 所収)
「東京→富山」の第1弾では、全部で35本の林道を走り、ダート距離の合計は294・3キロになった。もうすでに限りなく300キロに近づいているので、今回の、ルートを変えての「東京→富山」の第2弾目はものすごく気が楽だ。
ダート距離の合計は300キロをはるかに超えること間違いなし。さすが中部。
中部は林道の宝庫だ!
台風直撃 それでも行くゾ!
8月31日午前6時、前回と同様、ブルダスト瀬戸と中央道の双葉SAで落ち合った。
ぼくがスズキDR-Z400S、瀬戸さんがカワサキKLX250と、バイクも前回と同じ。ただひとつ違うのは、台風の直撃をくらい、まったく動けなくなったこと。我々はSAで停滞した。
双葉SAを出発したのは昼過ぎだ。やっと猛烈な風がおさまった。中部横断道の南アルプスICで高速を降り、国道52号を南下。鰍沢で第1本目の五開茂倉林道に入っていく。目印は十谷温泉。
最後の温泉宿「源氏荘」を過ぎると待望のダートに突入。それにしてもすさまじい道だった。台風の影響で路面には大小さまざまな木の枝が散乱し、林道は激しく渦を巻いて流れる激流と化していた。膨大な水量の激流にバイクが流されてしまうのではないか…といった不安が頭をよぎったほど。
残念ながら林道入口から2・7キロ地点で通行止め…。絶景峠の十谷峠まで行けなかったのは悔しいことだったが、内心ではホッとした気分だ。
「台風一過」、すっり天気が回復し、青空が広がっている。
国道52号をさらに南下し、南部町で県道809号に入っていく。この県道がロングダートの剣抜大洞林道につながっている。
十枚荘温泉を過ぎると、西俣川沿いの狭い舗装路を走り、剣抜大洞林道のダートに突入。路面が台風の影響できわめてラフなので、ブルダスト瀬戸と気合を入れて走る。峠に向かって登っていくと、夕日を浴びた富士山がドバーッと目の中に飛び込んできた。まさに感動の瞬間。息を飲むような富士山の美しさ。
峠を越え、17・8キロのダートを走りきり、舗装路に出たときは、
「やったね!」と声が出た。
十六夜の月明かりのキャンプ
剣抜大洞林道を走りきることができたので我々は意気揚々と国道52号を南下し、静岡へ。国道沿いの大衆食堂で夕食を食べ、静岡からは国道362号で大井川流域の中川根町へと向かう。
この国道362号は山上の蛇塚の集落を通り、峠を越えていくが、狭いワインディングルートが際限なくつづく。
ここで猛烈な睡魔に襲われた…。
ハンドルがふらつき、ガードレールに何度も異常接近してしまう。峠を下り、本川根町に着くと眠気覚ましの缶コーヒーを飲むのだった。
22時30分、中川根町に到着。町中の酒店の自販機で缶ビールを買い込み、大井川の河畔でキャンプした。
満月とほとんど変わらない十六夜の月がまぶしいほどに明るい夜だった。
十五夜前後の明るい月夜というのは、祭りの夜と同じで、気分を高揚させるものだ。
台風の直撃にもめげずに走りきったので、カソリ&ブルダスト瀬戸は「乾杯!」を繰り返し、缶ビールをグイグイと飲み干していった。我々のキャンプ地のすぐ脇を大井川が流れているが、広い川幅いっぱいに轟音をたてて流れる様はまさに大河。台風ならではの光景だった。
翌朝はうれしいことに快晴。澄みきった青空には一片の雲もない。国道沿いのコンビニで朝飯を食べ、さっそく南赤石林道に入っていく。
しばらくは舗装区間がつづく。大井川の谷間からグングン登り、白羽山の展望台に寄り道したあと、いよいよ南赤石林道のダートに突入だ。
大札林道との分岐点を過ぎ、休憩施設のある大札山(1374m)の登山口でひと休み。ここから先は蕎麦粒山(1627m)の山頂近くを通っていく蕎麦粒林道になる。いたるところで崩落していて工事現場が連続する。
断崖をすり抜けていく蕎麦粒林道からの眺望は雄大。大井川流域の山々が重なり合って見える。それにしてもすごいのは谷間の深さ。転落したらそれこそ数百メートルは真逆さかさまだ。
標高1404mの山犬段まで行く。ここまでダート10・6キロ。
林道はさらに奥までつづくが、残念ながらゲートで折り返し、国道362号に戻った。
残念…。幻の林道密集地帯
国道362号で中川根町と春野町境の峠、久保尾辻を越え、春野から天竜(二俣)へ。 さらに国道362号を走り、国道257号経由で次の林道の舞台、奥山高原に到着。
「奥山半僧坊」で知られる臨済宗の方広寺に参拝。ここが奥山高原林道群の拠点になる。 まずはダート1・9キロの陣座峠林道を往復し、次にダート7・1キロの扇山林道を走った。これら2本の林道はともに静岡・愛知県境の峠に出るので、「峠のカソリ」としてはすごくうれしい。
静岡から愛知に入り、新城から国道301号で本宮山に向かう。
峠の手前で右に入っていく林道が雁峰林道。かつては国道入口からダートだった雁峰林道だが、舗装化が進み、「あー、全線舗装か…」と嘆きの声を上げたほど。国道から11・8キロ地点でダートに入ったときは思わずブルダスト瀬戸と喜びの握手をかわした。
その地点から林道の出口まで7・5キロのダートが残っていた。
雁峰林道を走りきると、国道257号で愛知県から岐阜県の上矢作町へ。
この一帯が林道密集地帯。おおいに期待してやってきた。
まずは暗井沢林道に入っていく。ところがダート突入地点から3・2キロ地点にゲート。次に白井沢合川林道に入っていく。ここにもやはりダート突入地点から3・2キロ地点にゲート。またしても引き返さなくてはならなかった…。
結局、この期待した林道密集地帯には、我らライダーが走り抜けられる林道は1本もなかった。
さらなるダートを求めて!
恵那の恵那峡温泉にひと晩泊まり、翌日は国道257号をさらに北上。塞ノ神峠から中腹林道に入っていった。
その名の通り、白川と付知川の間に連なる山並みの中腹を縫って走る林道。何ヵ所か分岐があるが、左への道の大半は国道257号に下っていく。
最後の加子母に下っていく道との分岐では右に行ってしまい、行き止まり地点までの5・9キロを往復した。この間のルートはよかった。唯一、展望の開ける区間で美濃・飛騨・信濃の3国境の三国山の山頂近くまで中腹林道は延びていた。
今までに何度か中腹林道を走っているが、この区間は今回が初めて。何か得した気分になった。
国道257号の舞台峠を越えて下呂温泉へ。
国道41号の宮峠を越えて高山へ。
高山からは国道158号で小鳥峠を越えて国道156号に出た。
いよいよ「東京→富山」も大詰め。合掌造りの家々が軒を連ねる世界遺産の白川郷から牛首林道に入る。国道から2・4キロ地点でダート。牛首峠を目指してグングンと高度を上げていく。見晴らしもよくなる。
岐阜・富山県境の牛首峠を越えると、利賀川ダムへ一気に下っていった。
最後の林道はふれあい林道。南の県道34号から入ったが、分岐で間違え、行き止まり林道に入ってしまった。これがすごい道。峠を越えると一気に谷底へと下る。途中で引き返したからよかったものの、そのまま下ったら戻れなくなってしまったかもしれない。
いったん林道入口まで戻り、分岐では右への道に入り、峠を越える。峠を下るとメインルートの幅広の林道に出た。本線、支線を合わせて26・6キロのダートを走って舗装路に出たときは感慨無量!
今回の「東京→富山」の第2弾では、12本の林道、合わせて149・8キロのダートを走ったが、これで第1弾目の「東京→富山」と合わせ444・1キロのダートを走ったことになる。
300キロをはるかに超えて大満足。
「おわら風の盆」で賑わう八尾から国道41号に出、富山ICで高速に入った。「富山→東京」への道すがら、新たなダートへの夢にいざなわれるのだった。
■コラム■「東京→富山」の温泉めぐり
今回の「東京→富山」では、全部で6湯の温泉に入った。
第1湯目は五開茂倉林道の入口にある鰍沢温泉の「かじかの湯」。大浴場のほかに露天風呂もある。剣抜大洞林道を走り抜けたところの奥山温泉の露天風呂にも入るつもりだったが、残念ながらすでに閉まっていた。
静岡、愛知と走り、岐阜県に入ると恵那峡温泉の「恵那ラジウム温泉館」に泊まった。歴史の古い温泉で建久3年(1192)に発見されたという。地元では「薬師の霊泉」で知られている。
下呂温泉では飛騨川河畔の無料湯の露天風呂に入った。昼間だと橋の上からまる見えになるが、この湯の泉質は下呂温泉でも一番だという。
国道156号の「道の駅荘川」では「桜香の湯」に入り、隣の屋台風の店で「高山ラーメン」を食べた。
国道156号旧道の平瀬温泉では共同浴場に入ったが、ここは湯量豊富な温泉だ。