カソリの林道紀行(13)中部編(その4)
(『バックオフ』2004年8月号 所収)
(林道)
今回の「東京→富山編」は信州の林道が中心になる。
金沢林道から黒河内林道までの7本は入笠山周辺の林道群。このエリアにはまだそのほかにもダートルートがある。
月夜沢林道は何度走ってもいい。
1、金沢林道
今回の第1本目となった林道。国道20号側から入った。入口はJR中央本線の青柳駅前。東京方面からいうと、斜め左上に入っていく道。「金鶏金山」の案内板が目印になる。国道20号から0・7キロ地点でダートに突入。路面は以前に比べると、整備され、走りやすくなっている。
カラマツの植林地の中を走り、高度を上げ、樹林を抜け出ると八ヶ岳を間近に眺める。迫力のある眺めだ。猿ヶ入林道との分岐を左へ。ゆるやかな峠を越え、「金鶏金山跡」を過ぎると芝平峠だ。ダート8・6キロ
2、芝平峠林道
芝平峠はおもしろい。北の杖突峠と南の入笠山を結ぶ稜線上の舗装林道とダートの金沢林道、それとこの芝平峠林道が十字に交差している。舗装林道が天上道、金沢林道と芝平峠林道が峠道ということになる。芝平峠から芝平峠林道を下っていくと、かなりタイトなコーナーの連続する峠道を下り、やがて渓流沿いの道になり、県道211号の芝平高遠線の舗装路に入っていく。ダート3・2キロ。
そのダート区間を往復し、また芝平峠に戻った。県道211号をそのまま下ると国道152号の美和ダムのわきに出る。
3、猿ヶ入林道
芝平峠から杖突峠の方向に向かって稜線上の舗装林道を走ると、高嶺林道との分岐を過ぎたところで金沢峠に出る。稜線上の山上道なので、峠は登りつめたところではなく、一番下がったところになる。
そこから右下に下っていくダートが猿ヶ入林道。走りやすい林道で、1・2キロのダートを走ると、さきほどの金沢林道との分岐に出る。国道20号の青柳方向からだと、金沢林道から猿ヶ入林道に入ると金沢峠への近道になる。実際、このルートで走る何台かの車とすれ違った。
4、金沢峠林道
金沢峠の案内板のすぐわきから入っていく林道。今回、走った林道群のなかでは、一番ハードだった。急勾配の峠道でカーブもきつく、路面も荒れ、冷や汗をかく場面もあった。圧巻なのは、コーナーを曲がって急坂を下っていくと正面にドーンと八ヶ岳が見えてきたときだ。
2・3キロのダートを下ると、別荘地の中に入っていく。この金沢林道も往復したが、登りは下り以上にきつかった。金沢峠は歴史の古い峠で甲州街道の金沢宿と高遠、伊那を結ぶ金沢街道の峠。現在の国道152号の杖突峠以上に重要な峠だった。
5、板室林道
金沢峠から杖突峠への稜線上の道を右折して入っていくが、その手前、金沢峠のすぐ近くには千代田湖がある。湖畔には茶屋風旅館の「千代田荘」。そこの水は天然水だが、じつにうまい水だ。
このあたりは昆虫の宝庫のようで、昆虫採集の人たちを何人か見かけた。さて板室林道のダートだが、入口から1・8キロ地点で舗装路になる。短いダート区間にもかかわらず、その間の樹林を抜けていくときの気分はいい。この1・2キロのダートを往復したが、そのまま舗装路を下っていくと、国道20号の板室の交差点に出る。
6、高嶺林道
国道152号の高遠近くのから入っていったが、入口がちょっとわかりにくい。角には駐在所。登っていくと小豆坂トンネルにさしかかるが、トンネルを抜けると芝平峠へと通じる県道211号に出てしまう。その小豆坂トンネルの手前で右に折れるダートが高嶺林道。
グングンと高度を上げ、見晴らしがよくなる。山々の稜線近くに出ると、さらに見晴らしがよくなり、芝平峠と金沢峠を結ぶ稜線上の舗装路にぶつかる。入口から出口まで、全線ダートなのがうれしい。ダート16・7キロで今回のエリアの最長ダート。
7、黒河内林道
芝平峠から入笠山方向に稜線上の舗装路を走ると、T字にぶつかる。右に行けば黒河内林道、左に行けば入笠山の登山口になる。ここでちょっと寄り道して登山口の山荘あたりで休憩するのもいい。
黒河内林道はこの入笠山の登山口から下っていく林道だが、ダートに入るとすぐにゲートがある。このゲートは牧場のもので、自分で開け、自分で閉めるようになっている。渓流沿いの走りやすい林道で南アルプス林道の戸台口の手前で舗装路になる。ダート14・3キロ。そのまま舗装路を走ると国道152号に出る。
8、前浦林道
国道152号の分杭峠から入っていく林道。分杭峠は標高1427m。江戸時代にはこの峠が北の高遠藩と南の天領の境で、そこに杭を打ったので分杭峠の名があるという。日本列島を大きく二分する中央構造線はここを通っている。
前浦林道に入っていくと、「ゼロ磁場」の名水を求めて大勢の人たちがやってきているのには驚いた。あまりの変わりよう。だが、林道自体にはまったく変わりはない。最高所の地点を過ぎると、カラマツ林の中を小瀬戸峡に近い前浦の集落に向かって一気に下っていく。ダート7・7キロ。
9、女沢林道
国道152号側から入った。黒河内林道を走り抜けて国道152号にぶつかった地点が、女沢林道の入口になる。国道から西へ、すぐにダートに突入するのがうれしい。
最初の分岐で間違えてしまった。ここを直進し、稜線上の行き止まり地点まで行ってしまった。分岐に戻り、今度は左へ。すぐに次の分岐。ここには道標があってわかりやすいが、右のダートを登っていく。左にいくと、やはり距離の長い行き止まり林道になる。女沢林道を登りつめると標高1290mの女沢峠に到達し、舗装路になる。ダート6・3キロ。
10、黒牛折草峠林道
県道210号の折草峠から入っていく林道。かつての大荒れのダートの面影はなく、すっかり整備されている。峠から3・1キロ地点で舗装路になり、陣馬形山の山頂まで、実に簡単に行けるようになった。陣馬形山の山頂から下る中組陣馬形林道も今では全線が舗装になっている。
ところで折草峠だが、小松峠とか四徳峠ともいわれることがある。「従是北(これより北)内藤領 南近藤領」の木杭が打たれたので、国道152号の分杭峠と同じように、この峠も分杭峠と呼ばれた。折草峠はいくつもの名前を持つ峠だ。
11、陣馬形林道
北は駒ヶ根市の菅沼から南は中川村の桑原までの林道。陣馬形山の西側を通っている。それを南から北へと走った。陣馬形山から下ってくる舗装林道の中組陣馬形山林道との分岐点を過ぎると、ほどなくダートに突入。
駒ヶ根市との境には「御岳美林道」の碑。瀬戸さんとおもいっきり雄叫びを上げてやった。またここでは北ノ沢林道が分岐し、天竜川の谷間へと下っていく。そのまま陣馬形林道を北上すると菅沼の集落のT字にぶつかるまでがダート。全線22・8キロの半分以上の、12・8キロのダートが残っている。
12、日向入山林道
県道442号の箕輪ダムによってできたもみじ湖を通りすぎたところ、湖南の集落の手前あたりから入っていった。この県道442号自体が舗装林道のようなもので道幅は狭く、もみじ湖を過ぎると、もうほとんど交通量もなくなる。
県道との分岐から3・8キロ地点でダート。このままダートがつづき、松尾峠を越えて高遠町側に入れるか…と期待したが、ゆるやかな峠を越え、下ったところで2車線の舗装路に出た。ちょっとガックリ…。ダート区間は1・6キロ。2車線の舗装路で箕輪・高遠町境の松尾峠に立った。
13、王城枝垂栗林道
南から北へと走った。JR中央本線の辰野駅の裏手が入口。登るにつれて辰野の町並みを一望する。林道の起点から6・7キロ地点でダートに突入。するとまもなく、右への分岐。それは王城山の展望台につづくダート。そのまま王城枝垂栗林道を行くと「日本中心の標」への道との分岐。ここはぜひとも立ち寄ろう。
その分岐を過ぎ、さらに北に走ると、文学碑が林道沿いにある。8・9キロのダートを走りきると小野峠のすぐ下あたりに出る。小野峠は諏訪盆地と三州街道を結ぶ歴史の古い峠。しだれ栗森林公園キャンプ場もある。
14、桑崎林道
これが大転倒して激しく吹っ飛んだ林道だ。国道153号の小野下町の交差点から県道254号に入り、中央分水嶺の牛首峠を越え、峠を下っていく途中でこの桑崎林道に入った。入口からダート。深い森の中の道を登っていくいくと、戸数が数戸といった桑崎の小集落を過ぎる。
林道入口から3・3キロ地点で名無しの峠。そこで道は分岐するが、直進の、さらに稜線の方へ登っていく道にはゲート。右側の道は峠から1キロほどで草むらの中に埋もれ行き止まり。国道19号の贄川には降りられない。
15、鳥居峠旧道
中山道の鳥居峠の旧道は、ダートのままで残されている。奈良井宿のJR中央本線の奈良井駅の斜め前の道を登っていくと、そのまま旧道のダートに入っていく。駅前から1・3キロ地点でダート。駅前から5・9キロ地点で鳥居峠に到達。中央分水嶺の峠で、奈良井側の奈良井川は信濃川となって日本海に流れ出る。
峠を下ると伊勢湾(太平洋)に流れ出る木曽川の上流だ。藪原宿に下っていく途中では江戸時代の歩いて峠を越えた当時の石畳の古道が見られる。ダート7・9キロの鳥居峠旧道では中山道の歴史にふれられる。
16、月夜沢林道
国道361号の開田村小野原から入っていった。木曽福島方面から行くと、新地蔵トンネルを抜け出たあたりで右に入っていく道だ。集落を抜け出ると、じきにダートになるが、開田高原側はゆるやかな勾配の道が月夜沢峠に向かって長く延びている。
ダートに突入してから8・4キロ地点で月夜沢峠に到達。絶景峠。峠から周囲を見渡しているだけで、すごく気分がよくなってくる。奈川村側への下りは急。15・5キロのダートを走りきると野麦峠を越える野麦街道に出る。月夜沢林道はカソリの選ぶ信州ナンバーワン林道だ。
17、駄吉林道
高山から国道361号経由で県道462号に入り、飛騨高山スキー場へ。その先を左に折れる道が駄吉林道の入口。すぐにダートになり、国道158号方向に向かって一気に下る。下り坂の途中から眺める奥飛騨の山々がすごくよかった。
駄吉林道は国道158号沿いの駄吉までダートがつづくのではないかとおおいに期待したが、残念ながらわずか1・4キロ地点で舗装路になった。その地点で林道の入口へと引き返す。しかし、わずか1・4キロでもダート区間が残ってほんとうによかった。全線舗装だとガックリくる。
18、青屋林道
飛騨高山スキー場のわきから南側に入っていく道が青屋林道につながっている。高山市と朝日村の境からダートがはじまる。道幅の比較的広い林道でさきほどの駄吉林道同様、一気に下っていく。左手の谷底はまるで鉈でスパッと断ち割ったかのような深さ。奥飛騨の山々は険しい。
さらに下っていくとカクレハキャンプ場の真上あたりに出る。そこから舗装路になるが、ダート6・2キロの青屋林道はけっこう走りがいのある林道だ。青屋川沿いの舗装路を走ると国道361号の朝日村役場近くに出る。
19、大広林道
朝日村の国道361号の旧道沿いの集落、大広から入っていく林道。大広の集落の中央あたりから登っていく道が林道へとつながっている。すぐにダートに入り、朝日村と久々野町の境の峠に向かって登っていく。
この林道もおおいに期待した。峠を越え、国道41号に出るくらいまでの結構、長い林道ではないかと想像したのだが、峠の手前で朝日村と久々野町を結ぶ舗装路に出た。残念…。ダート3・6キロの大広林道を往復して大広の集落に戻った。飛騨には意外とありそうでいて、長いダートはあまりない。
20、洞数河林道
高山から国道41号→国道471号経由で国道360号に入り、洞数河林道に通じる道に入っていった。国道から7・0キロ地点で洞数河林道のT字にぶつかる。そこからダート。
T字を左に行くと、1・4キロ地点の工事現場で林道は通行止め。『ツーリングマップル』(中部編)によると、洞の集落の手前まで、5・5キロのダートだという。洞の集落を過ぎると国道360号に出る。さきほどのT字の交差点を右に行くと、国道41号の数河方向だが、林道は数河までは通じていないようだ。
21、茂住林道
国道41号沿いの東茂住の集落から入っていった。高山方向からだと、集落の入口あたりを右折する。神岡鉄道の茂住駅が目印になる。「カミオカンデ」への散策路の案内板が出ている。
道幅の狭い林道で、ダートに入ると神岡鉱山の施設のわきを通り、岐阜・富山県境の茂住峠に向かって登っていく。けっこうラフな路面で石のゴロゴロした区間もある。標高1060mの茂住峠までが茂住林道。ダート区間は7・4キロになる。茂住峠の南、池ノ山の山頂近くに「カミオカンデ」はある。
22、長棟林道
岐阜・富山県境の茂住峠から富山県側に下っていくのが長棟林道。峠を下るとすぐにT字の分岐。そこを左に行くのだが、なんと茂住峠から2・0キロ地点にゲート。そこから戻らなくてはならなかった。残念無念…。
というのは長棟林道は以前、走ったことがあるが、20キロ超のダートだったのだ。長棟川沿いに走り最後は檜峠を越えて県道187号に出たが、そのときはゲートなどは一切なかった。今回の「東京→富山」では、最長ダートになるはずだった長棟林道なだけに、よけいに悔しい思いがつのった。
(峠)
1、杖突峠
国道152号の峠。峠をわずかに諏訪盆地側に下ったところには「峠の茶屋」がる。高遠そばがうまい。そこからの眺めは絶景。足元には諏訪盆地が広がり、その向こうの八ヶ岳から蓼科岳、霧ヶ峰高原を一望する。
2、鳥居峠
中山道の峠。新道の国道19号は新鳥居トンネルで峠を抜けているが、ダートの旧道は峠を越えている。中山道の奈良井宿と藪原宿の間の峠で藪原側に立つと御岳がよく見える。奈良井宿はバイクを止めて歩いたらいい。
3、地蔵峠
国道361号の旧道の峠。その名の通り峠には地蔵がまつられている。地蔵峠は日本各地にある峠名だが、とくに信州には多い。峠を開田高原側に下ったところには御岳の展望台。御岳を真正面から眺めるので迫力がある。
4、月夜沢峠
月夜沢林道で越える標高1695mの峠。中央分水嶺の峠で、木曽では最高所の峠にもなっている。江戸時代、中山道の福島宿には関所があって旅人は厳しく調べられた。それをすり抜ける間道の峠としても知られている。
5、安房峠
国道158号の旧道の峠。長野・岐阜の県境の峠で、長野側に目を向けると、穂高連峰を一望する。標高1790mと高い峠で、冬期間は閉鎖される。新道の安房トンネルが開通してからは冬でも越えられるようになった。
6、平湯峠
国道158号の旧道の峠。西に目を向けると白山が見える。乗鞍スカイラインが分岐している。平湯温泉側の峠下には平湯大滝。滝までは駐車場から徒歩20分。一見の価値あり。平湯温泉には露天風呂の「神の湯」がある。
■コラム■日本中心の標
王城枝垂栗林道からわずかに入ったところにある。南の辰野側から行くと、案内板の立っている分岐を左に折れ、坂を登っていくのだが、その道の右手にある。行き止まり地点には展望塔。
そこからの眺めは最高だ。ちょうど伊那盆地の北端に位置しているので、右手の中央アルプス、左手の伊那山地、南アルプスの間の伊那盆地をうまい具合に一望できる。「日本のヘソ」は各地にあるが、日本地図を広げてみればわかるように、海から一番遠いこのあたりが「日本のヘソ」だというのはすごくうなずける。