賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(8)「関西編」(その3)

(『バックオフ』2004年1月号 所収)

 今回の「播但編」の「播但」というのは、兵庫県西部の「播磨」と「但馬」を合わせた旧2国のエリア。播磨が瀬戸内海側で但馬が日本海側になる。

 この「播但」は関西圏では「紀伊半島」に並ぶ林道の宝庫。県境の峠を越えた鳥取県側にも何本かの林道がある。

 中国道の山崎ICを出発点にし、鳥取県側をも含めて「播但」の林道群を走り、関西ダート300キロを目指した。

山崎ICが出発点

紀伊半島」のダート166・6キロを走破してから1ヵ月後の11月11日、「播但」の林道群を目指し、午前0時に『バックオフ』編集部を出発。前回の「紀伊半島」同様、相棒は関野温さん。

 ぼくがDR-Z400S、関野さんがDJEBEL250XCに乗り、東名→名神中国道と夜通しの高速道一気走り。だが途中で猛烈な雨に降られたり、睡魔に我慢できずに寝たこともあって、東京から633キロの中国道山崎ICに到着したのは9時だった…。 山崎から国道29号を北上。山々が間近に迫ってくる。

 一宮町では播磨の一の宮の伊和神社に参拝。波賀町に入った野尻の集落から待望の第1本目の林道、野尻林道に突入。阿舎利山(1084m)に向かって走り、峠を越え、国道29号の日ノ原に向かった。走り抜けられるであろうと当たりをつけて入ったのだが、残念、林道入口から9・8キロ地点で行止まり。

 国道29号に戻ると、次に音水渓谷沿いの音水林道に入った。林道沿いの紅葉の美しさには目を奪われた。この音水渓谷とその南の赤西渓谷は関西圏でも屈指の紅葉の名所なのだ。音水林道では鳥取県との県境を成す稜線まで行けるのではないかと期待したが林道入口から8・7キロ地点で行止まり。

 国道29号に戻ると、さらに北へ。

 引原ダムの音水湖を見渡す「湖畔29」で昼食。バイクで切る風は冷たく、店内の赤々と燃えるストーブがありがたい。

 この店は「お好み焼き」がメイン。「豚玉」と「イカ玉」の2種のお好み焼きを関野さんと食べたが、その味は「関西」を感じさせるものだった。

因幡の林道も走った

 国道29号をさらに北上し、戸倉峠を越えて鳥取県に入った。

 鳥取県は東部の因幡と西部の伯耆の2国から成っているが、東部の因幡には何本かの林道がある。

 中国地方は我々オフロードライダーにはちょっと辛い「林道不毛地帯」だが、そのなかにあって「播但」と境を接する「因幡」は例外なのだ。

 まずは糸白見の集落から糸白見林道に入った。

ツーリングマップル』に「ロングピストン ダート15・5キロ」のコメントがあるので期待したが、残念ながら国道から6・9キロ地点にゲートがあり、そこから引き返さなくてはならなかった。

 次に国道482号に入り、兵庫県との県境の名無しの峠まで行く。

 そこから東因幡林道に入る。大荒れの林道でクマザサが道の両側に茂り、路面には大きな水溜まりが連続した。15・2キロのダートを走りきると、畑ヶ平林道とのT字の分岐に出る。そこで引き返し、国道482号の峠まで戻った。

 波賀町まで戻り、波賀温泉に泊まった。

「お~、温泉のありがたさよ!」

播磨から但馬へ

 翌日は国道29号を北上して戸倉峠まで行き、峠のトンネルの手前で国道を右折し、氷ノ山林道に入っていった。

 気温がグググッと下がり、小雪が舞っている。強烈な寒さ。ハンドルを握る手がジンジン痛んでくる。11月中旬の氷ノ山林道はすでに冬の顔。

 氷ノ山の中腹を縫って走り、波賀町から大屋町に入る。この町境が播磨と但馬の国境。但馬側になるとダート、舗装、ダートの繰り返し。横行林道との分岐まで来ると、横行渓谷沿いのこの林道を往復したが、すでに全線が舗装化されていた。

 氷ノ山林道に戻り、大屋町から関宮町に入る。舗装林道の鵜縄安井林道との分岐を過ぎると、スキー場のある福定の集落までが2・7キロのダート。かつての関西圏屈指のロングダートは、その区間を合わせても14・4キロのダートだった。

 次に関西圏のスキーのメッカ、ハチ高原から瀞川林道に入った。瀞川山の山頂近くを通る稜線上の林道。展望台からの但馬の山々の眺めが目に残る。ダート10・9キロの瀞川林道を走りきり、村岡町の大糠で国道9号に出た。

 氷ノ山、瀞川の2本の林道を走りつないだダート距離は25・3キロになった。

 湯村温泉経由で日本海へ。山陰の海岸美を眺めながら走る。

 但馬の名湯、城崎温泉に立ち寄り、冒険家、植村直己さんの故郷の日高町へ。

 神鍋温泉の「ゆとろぎ」の湯に入り、民宿「中屋」に泊まったが、なんとも辛い冷たい雨に降られぱなしの1日だった。

ダート300キロ達成!

「播但編」の第3日目。

 但馬の神鍋高原最奥の集落、稲葉からダートに入り、日高町と村岡町の境の峠へ。

 そこから南へ。幅広のダート、蘇武妙見林道を走る。標高1074mの蘇武山の山頂下までがダート。アクセスの区間を含め11・6キロのダート。そこには展望台があり、晴れていれば正面には扇ノ山、左手には氷ノ山、右手には兵庫・鳥取県境の蒲生峠が見えるのだが、残念ながら濃霧で視界はまったくナシ。ちなみに「扇ノ山」、「氷ノ山」ともに「山」を「せん」と読む。

 この蘇武山こそ植村直己さんが初めての本格的な登山で登った山。まさに「植村直己の原点」なのである。

 稜線上を走る蘇武妙見林道から国道9号へと下り、笠波峠、八井谷峠と越えて関宮町の関宮へ。そこから関宮町と大屋町境の加保坂まで登る。絶景峠で南の大屋町側の眺望がすばらしい。

 峠から稜線近くを走る相地轟林道に入ったが、舗装路…。

「きっと、ダートになるだろう」と期待しつづけたが、最後まで舗装…。

 もう、ガックリだ。

 気をとりなおして県道48号に下り、大屋町波賀町境の若杉峠を越える。但馬と播磨の国境の峠で、再び、播磨側に戻ってきた。

 峠を下ってすぐのところで県道48号を左折し、志倉道谷林道に入っていく。石ころのゴロゴロした荒れた路面。波賀町一宮町境の峠を越えていく。ダート7・3キロの志倉道谷林道は胸をワクワクさせるような林道で、カソリ、思わずニコニコ顔になる。

 次に、一宮町の福中から横住林道を走った。横住川の渓流沿いの林道。ここも紅葉が見事だった。4・1キロのダートを走りきり、草木ダムのわきで舗装路になる。

 そのまま川沿いに走り、千町林道に入った。4・1キロのダートを走りきり、千町峠に到達。峠では道幅の狭い千町林道と道幅の広い千町段ヶ峰林道が交差している。ほんとうはこの2本の林道とも、全線を走りたかったが、このあとに峰山林道と雪彦峰山林道の2本のロングダートがひかえているので、幅広の千町段ヶ峰林道で峠を下った。

 その途中で「関西ダート300キロ」を達成。

 DRに乗りながら、「やったゼ!」と、思いっきりガッツポーズをするのだった。

 意気揚々とした気分で砥峰高原の峠まで登り、そこから峰山林道に入る。期待に反して、ロングダートどころか幅広の舗装路で、峰山高原林道との分岐より先は工事中で通行止。仕方なくダートの峰山高原林道を走ったが、なんとこの林道も1・4キロ走ったところで通行止。大迂回して県道8号の坂の辻峠へ…。

 坂の辻峠ではカソリ&関野、最後の林道、それも『ツーリングマップル』には20・2キロのロングダートと出ている雪彦峰山林道のダートを「さー、行くゾ!」と気合を入れて走り出した。

 ところが2・7キロ地点で舗装になり、林道を抜け出るまでの全線が舗装路…。

 最後をキシッとしめたかった「関西ダート300キロ走破行」だったが、

「これが関西の現状…」

 と、自分にそういい聞かせ、中国道の福崎ICまで走った。

 福崎IC到着は18時。

紀伊半島編」のダートが166・6キロ、「播但編」のダートが140・9キロ。かろうじてダート300キロを超えた。

 東京への帰路も高速の一気走り。

 夜通し高速道路を走りつづけ、東京到着は午前2時だった。