賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの林道紀行(2)「九州縦断編」(その2)

 (『バックオフ』1998年9月号 所収)

後半戦の出発点は熊本。阿蘇山麓で野宿大宴会だ!

 九州縦断の後半戦の出発点は熊本だ。

 熊本といえば、なんたって熊本城ということで、カソリ&B武田の“ダート300キロ組”は、日本の名城、熊本城の前に立った。カソリはGPSバージョンのDJEBEL250XC、B武田はXRバハ。熊本城は肥後54万石のシンボルだけあって見事な城だ。

 九州縦断の前半戦「門司→熊本」ではダートを113キロ走った。ダート300キロを達成するためには、「熊本→鹿児島」で187キロのダートを走破しなくてはならない。B武田に「なんとしても、300キロを突破しよう」と、重々しく告げ、DJEBELのGPSの目的地をJR西鹿児島駅に設定し、夕暮れの迫る熊本城前を走りだした。

 熊本からまずはR57で阿蘇に向かう。

 国道沿いのスーパーで缶ビール、日本酒、焼酎の酒類と食料をゴソッと買い込み、阿蘇山麓で盛大な野宿宴会。テント前にシートを広げ、そこをB武田との宴の膳にした。

 熊本名物の馬刺しを肴にカンビールをグワーッと飲む。

「ウメー!」

 と、カソリ、思わず絶句。

 さらにシイラとヒラメの刺し身、カツオのタタキを肴にする。これらは閉店間際に買ったものなので、すべて半額だ。“半額”というだけで、よけいにうまさが増し、あっというまに缶ビールを飲み尽くす。

 そのあと、ストーブで水餃子をつくり、肉を焼き、それをつまみに酒、焼酎を飲む。食べながら、飲みながら、B武田との話しが際限なくはずむ。これが野宿宴会のよさというものだ。最後はレトルトのご飯と味噌汁。目の前には阿蘇外輪山の黒々とした山並みが横たわっていた

 翌朝は夜明けとともに出発。

 阿蘇外輪山の大きな割れ目の立野を通り、阿蘇カルデラに入っていく。JR豊肥線宮地駅前から阿蘇仙酔峡へ。高岳、中岳から流れ出した溶岩がつくり出した峡谷だ。

 ここはミヤマキリシマの群生地で知られているが、残念ながら花の季節はほぼ終わっていた。仙酔峡は眺望抜群。阿蘇外輪山の向こうには、たなびく雲の上に、九重連山の山々が顔をのぞかせて連なっていた。

 宮地駅前に戻ると、ダート区間がわずかに残る日ノ尾峠を登っていく。幅の狭い峠道を登っていくと、高岳根子岳の間の峠周辺に2キロのダート区間が残っていた。2キロといえども貴重な阿蘇のダートルート。ここ以外に、阿蘇にはダートの峠越えルートはない。

 日ノ尾峠を越えると、南阿蘇の高森の町。南阿蘇鉄道の終点、高森駅前にある食堂で朝飯にしたが、朝飯前の日ノ尾峠越えは心に残るものだった。

 高森から阿蘇外輪山の清水峠に向かう。

 阿蘇は世界最大の大カルデラ。その阿蘇外輪山だが、北阿蘇は風化されてなだらかなのに対し、南阿蘇は険しくキューンとそそり立ち、峠がはっきりしている。それだから“峠越え”には南阿蘇のほうがはるかにおもしろい。

 高森の周辺にはR265&R325の高森峠のほかに中坂峠、清水峠と阿蘇外輪山の峠があるが、そのうちの、清水峠を越えるのだ。

 だが…、道を間違え、ガレた山道に入ってしまった…。そのあげくに、倒木にリアを滑らせ、転倒。B武田にさんざん笑われた。それにもメゲずに、今度は清水峠への道に入り、峠を目指して登っていく。峠近くからの眺望は迫力満点だ。間近に眺める中央火口丘の“阿蘇五岳”はまぶたに焼きつくほどのものだった。

 清水峠を越え、R218の矢部に出た。

 さー、ここからいよいよ、九州ナンバーワン林道の内大臣椎葉林道に入っていく。

 矢部からR218を4キロほど砥用方向に行き、“内大臣”の標識に従って国道を左折し、7キロ走ると、緑川にかかる内大臣橋にさしかかる。橋の上にバイクを停め、下をのぞき込むと、あまりの谷の深さに目がくらむほどだった。

 内大臣橋を渡り、内大臣椎葉林道のダートに入っていく。内大臣川沿いの連続する小刻みなコーナーを走り抜けていく。

 内大臣川の流れを離れると、熊本・宮崎県境の椎矢峠に向かって登っていく。かなりラフな路面で、石ころをバンバンはね飛ばしながら走る。このあたりは九州山地でも最も山並みが高く険しいところで、九州山地の最高峰、国見岳(1739m)の山頂直下を通っていく。

 林道入口から25キロ走ったところで、標高1280mの椎矢峠に到着。熊本県側の目をやると、雲仙の普賢岳がはっきりと見える。峠周辺のみずみずしい緑が色鮮やか。いろいろな鳥のさえずりが聞こえてくる。

 椎矢峠を境にして熊本側の内大臣林道から宮崎側の椎葉林道に変わる。耳川の源流へと下っていったが、宮崎側のほうがはるかに路面が整備されていて走りやすい。

 こうしてダート38キロの内大臣椎葉林道を走りきり、さらに三方山林道と、標高1350mの峠、松木越を越えるダート16キロの松木内ノ八重林道を走り、椎葉村の中心、上椎葉に出た。

 九州の椎葉は関東の湯西川や北陸の五箇山、四国の祖谷などと同じ平家落人伝説の地。壇之浦の合戦で滅んだ平家の残党がこの地に逃げ落ちた。ここには平家屋敷の「鶴富屋敷」がある。

 椎葉の食堂で昼食を食べ、椎葉五家荘林道で宮崎・熊本県境の峠、椎葉越に向かう。

 何年か前に走ったときは20キロのダートコースだったが、今では全線が舗装路。県境の峠を越えて眺める九州山地の山岳風景は見事だ。

 峠を下ったところでT字路を左折し、ダートに入る。標高1645mの上福根山の山頂近くまで延びる林道なので“上福根山林道”とでもしておこう。

 上福根山林道のラフなダートを走り、尾根に向かって登っていくと、シカがバンバン飛び出してくる。すごい数のシカだ。やがて標高1500mを越える高さの尾根に出る。この上福根山林道は九州の最高所を走る林道なのだ。

 幾重にも重なって連なる九州山地の山々や足下にパックリとあいた深い谷を眺めながら走る。林道入口から20キロ地点で行き止まりになるが、この上福根山林道の往復40キロというのはオススメのダートコースだ。

 さきほどのT字路まで戻り、五家荘の樅木に下っていく。ところが樅木を目の前にしたところで大規模な崖崩れ。大迂回を余儀なくされ、椎葉からR265→R218→R445と走り、二本杉峠での野宿となった。

 翌朝、二本杉峠を下り、五家荘を走り抜け、「五木の子守唄」で知られる五木村に入る。ここでは全部で8本の林道、合計40キロのダートを走った。

 五木村から白蔵峠を越え、水上村の“球磨川水源”へ。ここでバイクを停め、“源流浴”をする。これはもう、クセになりそう。これからは目ぼしい川の源流までいったら、必ず“源流浴”をしようと思うのだった。

 くま川鉄道の終点、湯前の駅前食堂で昼飯の焼き肉定食を食べ、パワーをつけ、湯前からアクソー林道に入っていく。

 熊本・宮崎の県境近くまで行き西米良の山々を眺めたところで引き返し、湯前飯盛林道経由で熊本・宮崎県境の峠、横谷峠上の集落、横谷に出た。30キロのダートを走り、横谷から湯前にと下った。門司を発ってからのここまでのダート合計は294キロ。あと6キロで九州縦断ダート300キロの達成だ。

 湯前からR219で免田に行き、国道を左に折れ、前方に連なる白髪岳を中心とした山並みに向かっていく。山麓の上村の薬師温泉の湯に立ち寄ったあと、榎田大川筋林道に入る。林道入口から6キロ地点でDJEBELを停め、ダート300キロ達成をB武田と喜び合う。

「やったゼ!」

 という気分。

 そこからさらに2キロ走り、温迫峠に到達。眺望抜群。球磨川流域の盆地を見下ろす。その向こうには五木へとつづく山並みが霞んでいた。

 名残おしい温迫峠に別れを告げ、峠を下ると、そこは九州第2の大河、川内川の源流。宮崎県に入ると、榎田大川筋林道は狗留孫林道になる。この2本の林道は連続した27キロのダート。川内川上流の見事な渓谷の狗留孫峡を見ながら走り、R221に出た。

 えびの市の加久藤のスーパーでごそっと食料と酒を仕入れ、霧島を越えて鹿児島県に入る。霧島山中の林田温泉から九州縦断の最後の林道、日添林道の入っていく。目指すは山之城温泉だ。

 ダート3キロを走ると、山之城温泉に到着。すごいところで、川全体が温泉になっている。人工物は一切ない。ここでB武田との最後の野宿宴会。

 翌朝、さっそく2人で川の湯に入る。最高! 

 かなりの水量の川がジャスト適温の湯になっている。

 まさに大自然の驚異だ。 

 山之城温泉の湯を存分に堪能し、鹿児島へ。ゴールのJR西鹿児島駅前に到着すると、DJEBELのGPSには目的地マークのフラッグが出た。ダート327キロを走った九州縦断だった。