賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

秘湯めぐりの峠越え(44)目名峠篇(北海道)

 (『アウトライダー』1997年1月号 所収)

 スキーのメッカとして知られるニセコは、日本でも有数の温泉の宝庫だ。ニセコアンヌプリ(1309m)を主峰とするニセコ火山群の周辺には、キラ星のごとくに温泉が点在している。ちなみに、“ニセコ”の地名は、ニセコアンヌプリからきている。

 今回は、JR函館本線の倶知安駅を出発点にした。

 倶知安温泉を第1湯目にし、第2湯目のワイス高原温泉、さらには、ニセコ五色温泉、湯本温泉、昆布温泉、昆布川温泉、新見温泉のニセコ温泉郷の5湯‥‥と、ニセコの温泉群を1湯づつ、しらみつぶしに入っていった。

 さらに、ニセコ火山群の山並みを越えて日本海岸に下り、岩内温泉、朝日温泉、雷電温泉の3湯に入り、最後にR5の目名峠を越えて長万部に出た。

 長万部を出発点にした「道央編」だったが、その終着点もやはり長万部だ。

ニセコの温泉めぐり

 JR函館本線倶知安駅前から、スズキDJEBEL250XCを走らせニセコの山々に向かった。道道58号倶知安ニセコ線は、絶好のツーリングコース。ニセコの魅力を存分に味わえるし、ニセコの温泉群にも入りまくることができる。

 まず、ニセコ連峰への登り口にある倶知安温泉の「ホテル羊蹄閣」の湯に入ったが、ここはよかった。明るい大浴場の湯船につかりながら、正面にそびえる蝦夷富士の羊蹄山を眺める。内地でいえば、富士山を眺めながら入る温泉のようなものだ。展望抜群の温泉に入るとそれだけで得したような気分になる。

 ニセコの山々に向かって登っていくと、いかにも北海道らしい雄大な風景を目の中いっぱいに入れながら、高原のワインディングロードを走るようになる。倶知安盆地を見下ろし、スーッとそそりたつ羊蹄山を眺める。羊蹄山の山容きれい。まさに蝦夷富士だ!

 ワイスホルン山麓にあるニセコワイス高原温泉「緑館」では、内風呂の湯温の違う3つの湯船に入った。そのあと、夏の日差しを浴びながら露天風呂につかったが、ここからも、やはり羊蹄山を見ることができた。

 ニセコワイス高原温泉を過ぎると、ニセコ連峰の心臓部に入っていく。そして道道58号の名無し峠に立つ。北にイワオヌプリ、南にニセコアンヌプリと、両峰を間近に見る。イワオヌプリは岩のゴツゴツした男性ぽい山容。それに対して、ニセコアンヌプリはなだらかな女性ぽい山容だ。

 季節がま夏だったので、あたりは一面、濃い緑だが、初夏には高山植物が咲き乱れる“お花畑”になり、秋には見事な紅葉で全山が染まるという。

 名無し峠をわずかに下ったニセコ五色温泉では「五色温泉」の混浴露天風呂に入った。自然度満点の露天風呂。右手にニセコアンヌプリ、左手にイワオヌプリを見ながら湯につかる。長湯できる白濁色の湯。カンビールを飲みながら入っている人もいる。この混浴露天風呂には女性客もけっこうやってくる。1時間ほどの間に数人の女性が来たが、バスタオルをギュッと体に巻きつけている人が大半だ。水着でないだけ、まだ、ましか‥‥。

目名峠へ

 ニセコの山々は、そのまま、ストンと日本海に落ち込んでいる。その日本海の沿岸には岩内温泉、朝日温泉、雷電温泉の3湯がある。ニセコの山並みを越え、それら日本海の3湯をハシゴ湯した。

 まずは岩内温泉だ。高台の上にある「グリーンパークいわない」の湯に入る。枯れ草色の湯。塩分が強い。大浴場からの展望は抜群だ。湯につかりながら、岩内の市街地や岩内港を見下ろし、その向こうにつづく積丹半島の海岸線を眺める。北海道電力の泊原子力発電所がはっきりと見える。

 次は朝日温泉だ。雷電温泉近くのR229からダートの山道を4キロほど登っていく。ロードバイクだと、ちょっときついかなと思えるくらいのラフな路面と勾配。朝日温泉の内風呂は、混浴から半混浴に変わり、境に仕切りができていた。半混浴というのは、その先の湯船で男女が一緒になるからだ。朝日温泉がもっと秘湯だったころは混浴で、脱衣所は男女別々だが、中で一緒になるという、なんとも楽しい湯だった。

 内風呂のあとは、丸木橋を渡って、渓流のすぐわきにある露天風呂に入った。青味がかった湯の色。森林浴しながら湯につかる。自然度満点の露天風呂。せせらぎの音を間近で聞きながら湯につかっていると、自分の体がスーッと北海道の自然の中に溶け込んでいくかのような陶酔感をおぼえるのだった。

 最後は雷電温泉。ニセコ連峰の先端が日本海に落ち込み、断崖が連続する荒々しい風景をつくり出している。そんなところに、雷電温泉はある。

「ホテル雷電」の展望大浴場はすばらしいの一言。湯船につかりながら、ガラス張りの窓越しに日本海の大海原を眺める。やがて、水平線に近づいた夕日が、日本海を赤々と染めていく。

 名残おしい雷電温泉をあとにし、R229から尻別川沿いの道を走り、R5に出る。

 R5で長万部へ。

 蘭越町と黒松内町の境の目名峠に到達。ゆるやかな峠。

 峠を越えてしまうと、暮れなずむニセコの山々が、フーッと吹き消したかのように、DJEBELのバックミラーから消えてしまう‥‥。

■「目名峠編」で入った温泉一覧

1、倶知安温泉 羊蹄閣(入浴料500円) 北海道倶知安町旭   

倶知安駅から2キロ、道道58号倶知安ニセコ線沿いにある。明るい大浴場。目の前にそびえる羊蹄山を眺める。

2、ワイス高原温泉 温泉ホテル(入浴料800円) 北海道倶知安町花園  

リゾート温泉ホテル「ニセコワイス高原温泉・山荘緑館」の湯。内風呂と露天風呂。温泉プールもある。

3、ニセコ五色温泉 五色温泉旅館(入浴料400円) 北海道ニセコ町ニセコ 

ニセコアンヌプリとイワオヌプリの間の峠近くにある。ここの混浴露天風呂は最高にいい。白濁色の湯。

4、ニセコ湯本温泉 チセハウス(入浴料400円) 北海道蘭越町湯ノ里  

1晩、泊まった宿。チセヌプリ山麓のチセヌプリスキー場前にある。源泉は大湯沼。内風呂と露天風呂。

5、ニセコ昆布温泉 鯉川温泉旅館(入浴料400円) 北海道蘭越町湯ノ里  

うす茶色の湯。湯量豊富。混浴の大浴場。打たせ湯が気持ちいい。温泉街は蘭越町とニセコ町にまたがる。

6、ニセコ薬師温泉 薬師温泉旅館(入浴料300円) 北海道蘭越町日ノ出  

内風呂と露天風呂。混浴露天風呂は宿から離れた渓流沿いの樹林の中。黄土色の湯。古くからの湯治場だ。

7、昆布川温泉 幽泉閣(入浴料300円) 北海道蘭越町昆布町  

町営温泉旅館。R5のすぐ近くにある絶好の日帰り湯。大浴場の湯量は豊富。休憩所は無料だ。

8、ニセコ新見温泉 新見本館(入浴料500円) 北海道蘭越町新見   

第1浴場には熱い湯とぬるめの湯、2つの湯船。打たせ湯と天然蒸気風呂がある。第2浴場には露天風呂。

9、岩内温泉 保養センター(入浴料500円) 北海道岩内町野束   

「国民年金健康保養センターグリーンパークいわない」の湯。高台にあり、日本海、岩内市街を見下ろす。

10、朝日温泉 朝日温泉(入浴料500円) 北海道岩内町敷島内  

国道から4キロ、ダートの山道を登っていく。内風呂と渓流のわきの露天風呂。10月~5月は冬期休業。

11、雷電温泉 ホテル雷電(入浴料620円) 北海道岩内町敷島内  

日本海を目の前に眺める展望大浴場。ここは義経・弁慶北行伝説の地。すぐ近くに弁慶の刀掛岩がある。