賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

秘湯めぐりの峠越え(43)倶知安峠編(北海道)

 (『アウトライダー』1996年12月号 所収)

 出発点の小樽は、知られざる温泉町。ここの銭湯の大半は温泉なのだ。で、小樽市内温泉を第1湯目とし、R5で倶知安へ。

 余市ではフゴッペ川温泉、はまなす温泉、鶴亀温泉と3湯連続で入ったので、フラフラになる。足腰がフニャフニャ状態‥‥。

 余市からは積丹半島北側の積丹温泉まで行った。

 余市に戻ると、R5で共和へ。そこから積丹半島南側の珊内温泉まで行った。

 最後にR5の倶知安峠を越え、峠下の倶知安からは、蝦夷富士の羊蹄山を一周した。

赤井川カルデラの赤井川温泉

 R5で余市の町並みを走り抜け、倶知安方向にわずかに走ったところで、国道を左折し、赤井川村に寄り道をする。なぜ、その気になったかというと、そこには赤井川温泉があるからだ。温泉があるというだけで、ギュッと胸をつかまれ、引きつけられてしまう。

 目の前に横たわるゆるやかな山並みに向かって、スズキDJEBEL250XCを走らせる。余市町から仁木町に入り、冷水峠に向かって登っていく。

 仁木町と赤井川村の境の冷水峠には、アリスファームがあった。

「おー、ここにあるのか!」

 アリスファームといえば、藤門弘さんが奥さんの宇土巻子さんと一緒に、飛騨から北海道に場所を移してつくった農場。以前、本で読んだことがある。宿泊も可能なようなので、また、いつの日か、来よう。

 アリスファームはひとまずおいて、冷水峠に立ったときはうれしかった。

 前回の朝里峠にひきつづいて、この冷水峠は、ぼくにとっては初めての峠だからだ。

 日本中の峠をオートバイで越えようと、峠越えをはじめてからすでに20年以上たっている。そのため、初めての峠には、なかなか出会えなくなっている。

 朝里峠が1184峠目、この冷水峠が1185峠目になる。

 冷水峠を越えて入った赤井川村は、なにか、別世界に飛び込んだような気分を味わえるところで、すごくよかった。後志火山群の赤井川カルデラ全体が、赤井川村になっている。

 カルデラの盆地内を流れる川が赤井川。

 余市川の支流になる川だが、アイヌ語の「フレベツ」(赤い川)に由来するという。

 村の中心近くにある「赤井川村保養センター」の湯につかりながら、

「やっぱり、温泉だねー!」

 と、しみじみとそう実感する。

 ぼくは日本の温泉、全湯に入るのを大きな目標にしているが、全湯制覇というのは、地図上で温泉を探し、その温泉に入ることによって、今まで自分の視野になかった土地に行けることを意味する。温泉めぐりは日本を見る、日本を知るすごくいい方法なのである。

R5の稲穂峠と倶知安峠

 小樽からR5で倶知安に向かうと、最初に越える峠が稲穂峠だ。R5は稲穂トンネルで峠を抜けている。

 この稲穂峠というのは北海道に多い峠名。

 美利河温泉のあるR230の美利河峠も、もともとは稲穂峠といわれていた。

 道南の道道9号の木古内と上ノ国の町境の峠も稲穂峠。

 これら稲穂峠の稲穂とは、アイヌ語の「イナウ」(木幣)に由来しているという。

 内地の地蔵峠や観音峠、枝折峠などを連想させる話だが、アイヌの人たちも、峠に幣をまつるようなことがあったのだろうか‥‥。「イナウ」に、稲穂の字を当てたところに、北海道人の稲に対しての執着を感じる。

 大野平野(函館平野)が北海道の稲作発祥の地で、元禄年間(1688~1704)に水稲栽培がおこなわれた記録が残っているが、北海道での稲作が本格化するのは明治になってからのことだ。

 それ以降というもの、稲作地帯はまたたくまに石狩から空知、上川へと北に延びていった。今では北海道は、日本最大の米の生産地帯になっている。

 一度、北海道ではどこまで稲を栽培しているのか、函館から稚内まで走って沿線を見たことがある。

 驚いてしまったのだが、旭川からR40で塩狩峠を越え、名寄を過ぎ、美深町の紋穂内まで稲田を見た。亜熱帯の作物を亜寒帯の地でつくっているのだ。

 このような北海道人の稲に対する思いをぼくは稲穂峠の峠名に感じるのである。

 稲穂峠のトンネルを抜け、峠を下っていくと、正面にはニセコの山々が見えてくる。

 峠下のR276との分岐を過ぎると、今度は、倶知安峠へのゆるやかな登りだ。

 その途中、JR函館本線の小沢駅を過ぎたところにワイス温泉がある。

 ニセコ連峰の名峰ワイスホルン(1046m)山麓の温泉なので、その名があるという。いい温泉だ。一軒宿「ワイス荘」の大浴場に入ったのだが、湯量がきわめて豊富。湯船につかると、ザーっと音をたてて湯があふれ出た。

 極楽気分で倶知安峠を越えると、真正面に蝦夷富士の羊蹄山が見えてくる。

 それは感動的な眺め。

 蝦夷富士は北海道一の名山だ。

■コラム■倶知安峠

 R5の倶知安峠を小樽方向から越えると、スーッとそそりたつ蝦夷富士の羊蹄山を真正面に眺めながら、倶知安盆地に下っていく。

 この倶知安盆地は、倶知安町、京極町、喜茂別町、ニセコ町の4町と留寿都村、真狩村の2村にまたがる大盆地だが、その中央に羊蹄山がそびえているので、大盆地であることになかなか、気がつかない。

 倶知安峠を下ったところが倶知安の町で、倶知安盆地の中心地になっている。JR函館本線の倶知安駅へ。目当ては駅前名水だ。

“日本一の水”と誇らしげに書かれた倶知安駅前の水は、蝦夷富士の贈り物。長い年月をかけて地上に湧き出てくる湧き水なのだ。

 真夏だったこともあって、ゴクゴク飲んだが、腹わたにキューッとしみていく。自販機のドリンクなどは比べものにならない。ほんとうに、うまい水なのだ!

 倶知安級の駅前名水というと、R8に近いJR北陸本線の生地駅前、「清水の里」の水がある。これも立山連峰からの湧き水だ。

 倶知安駅前を出発点にして蝦夷富士を一周したが、おすすめポイントは京極町の“ふきだし公園”。蝦夷富士からの膨大な湧水が、まさに噴き出すかのように湧き出ている。

■「倶知安峠編」で入った温泉一覧

1、小樽市内温泉  小樽温泉オスパ(入浴料800円) 北海道小樽市築港   

フェリー埠頭のすぐ近くにある。カラオケの「ビッグエコー」を併設。12時~2時。

2、フゴッペ川温泉 天山楽(入浴料600円) 北海道余市町栄町   

R5から6キロほど山側に入ったところにある温泉旅館。重曹芒硝泉のやわらかな湯。

3、はまなす温泉  町営湯(入浴料600円) 北海道余市町栄町   

R5沿いの「日本海余市保養センター」。湯につかりながら日本海を眺める。塩分の濃い湯。

4、鶴亀温泉    鶴亀温泉(入浴料820円)  北海道余市町栄町   

R5沿いの日帰り入浴温泉。2つの湯船。黄土色と無色透明の湯。塩分はそれほどでもない。2階が食堂。

5、古平温泉    町営湯(入浴料500円)  北海道古平町新地町  

「日本海古平温泉センター」。9月1日にオープンしたばかり。古平町初の温泉。

6、積丹温泉    ホテルしゃこたん(入浴料500円)  北海道積丹町野塚

積丹岬の近くにある温泉ホテル。湯につかりながら日本海を眺める。積丹半島探訪の拠点に最適だ。

7、赤井川温泉   村営湯(入浴料400円)  北海道赤井川村赤井川 

「赤井川村構造改善センター」にある「赤井川村保養センター」の湯。内風呂と露天風呂。食堂あり。10時~21時。

8、盃温泉     もいわ荘(入浴料500円)  北海道泊村興志内村  

一晩泊まった温泉国民宿舎。奇岩巨岩怪石のつづく積丹半島西海岸に湧く海浜温泉。すぐ近くに茂岩海水浴場。

9、神恵内温泉   村営湯(入浴料400円)  北海道神恵内村大川  

「神恵内村リフレッシュプラザ・温泉998」の湯。積丹半島横断ルートの当丸峠への登り口にある。11時~21時。

10、神恵内温泉   村営湯(入浴料400円)  北海道神恵内村神恵内 

「神恵内村観光センター・竜神荘」の湯。「神恵内村青少年旅行村」内にある。13時~19時。

11、珊内温泉    村営湯(入浴料400円)  北海道神恵内村珊内  

「神恵内村珊内ぬくもり温泉」の湯。4月にオープンした温泉のニューフェイス。珊内から先のR229は11月1日に全線が開通する。

12、ワイス温泉   ワイス荘(入浴料300円)  北海道共和町ワイス  

倶知安峠下のR5沿いにある1軒宿の温泉。湯量豊富。ワイスはニセコ連峰のワイスホルンに由来している。

13、川上温泉    川上温泉(入浴料400円)  北海道京極町更進   

R276沿いにある1軒宿の温泉。羊蹄山を間近にながめる。羊蹄山の膨大な湧き水の「ふきだし公園」に近い。