賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

日本列島岬めぐり:第35回 西崎(いりさき・沖縄)

 (共同通信配信 1990年)

 石垣島の石垣港を離れて4時間、「フェリーよなくに」は日本最西端の島、与那国島の久部良港に入港。目の前には日本最西端の岬、西崎が断崖となってそそり立っている。

 久部良港に上陸すると、まずは港近くのクブラバリ(久部良割り)に行った。ここは悲しい歴史の現場で、案内板には次のように書かれていた。

「クブラバリの岩の割れ目は全長15メートル。幅の広いところは3メートル、狭いところで1メートルで、深さは7メートルある。その昔、中山王府は先島(宮古、八重山)の人口を調査し、貢租を人頭割に改めた。それは15歳以上のすべての男女に賦課する過酷な人頭税であった。

 その影響は王府からはるか遠い与那国にまで及んだ。村では人減しのために妊婦を集め、この岩の割れ目を飛び越えさせた。体の丈夫な女は飛び越えることができたが、そうでない女は流産したり、転落死することもあったという」

 西崎に立った。

 岬の断崖の上には「日本最西端碑」と灯台。久部良港と久部良の集落を見下ろす展望台からは、洋上のはるかかなたに年に数回、台湾が見えるという。

「新高山(台湾の最高峰、玉山3997m)が、こんなに大きく見えますよ」

 と、石垣で出会った与那国島の出身者は両手を広げた。

 その人にいわせると、台湾山脈の4000メートル近い高峰群が、水平線上にズラズラズラッと一列に連なって見えるという。その風景は島ではなく、大陸そのものだという。

 与那国島は東西11キロ。東端の岬、東崎(あがりさき)に行ったあと、夕方に西崎に戻った。水平線上には雲が多く、夕日はその中に隠れてしまった。しかしその直後、ほんの数分のことだが、台湾の島影の一部が薄暮の中に浮かび上がって見えた。