賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

秘湯めぐりの峠越え(34)刈田峠編(宮城・山形)

 (『アウトライダー』1996年4月号 所収)

日本一周ライダーとの出会い

 東京からスズキDJEBEL200を走らせ、東北道を北へ。浦和料金所から300キロの白石ICで降りる。今晩の宿、白石温泉の「ホテル本陣」へ。城下町白石の中心街から2キロほど東の、白石川沿いの温泉だ。

 宿に入ると、まずは、温泉。半円形をした内風呂の湯船につかる。無色透明無味無臭の湯。この温泉めぐりで入る最初の湯ほどいいものはない。体の芯にまで、温泉がジワーッとしみこんでいくようだ。おまけに女湯をのぞけるポイントも発見。このあたりのカソリのチェックはじつにすばやい。

 夜はカンビール2本を持って、露天風呂に入る。白石川を見下ろす石づくりの湯船。降るような星空を眺め、清流のせせらぎを聞き、カンビールをグイグイと飲みながらつかる湯の気分は、極楽そのもの。東北の自然と自分の体が一体化してしまったかのような、不思議な陶酔感にひたる。

「ツーリングは、やっぱり、温泉だよ!」

 翌日は奥羽山脈の山中に入った秘湯、青根温泉へ。ここの共同浴場「大湯」はいい。入浴料の150円を料金箱に入れて入るのだが、安い入浴料がありがたい。長方形をした石づくりの湯船。熱めの湯。湯量が豊富で、浴室内には湯けむりがもうもうとたちこめている。湯上がりに飲んだ自販機のツブツブオレンジのカンジュースがうまかった!

 ここではZZーR400で日本一周中の福井県今立町の田部義孝さんに出会った。田部さんは『アウトライダー』の読者で、「秘湯めぐりの峠越え」を読んでくれていた。

「カソリさんのを参考にして、北海道、東北の温泉めぐりもしてきましよ」

 共同浴場の前でしばらく立ち話をし、田部さんの日本一周を聞いたが、それは楽しいひとだった。何度も握手して別れたが、DJEBELに乗っていても、いつまでも胸の中がホワーンと温かかった。

 旅の毎日は、人との出会いの連続だ。

 地元の人たちとの出会い、そして旅人同士の出会い‥‥。それが、心に残る。いろいろな人たちに出会いたくて、また、旅に出る。

「ウーン、体に効くゼ!」

 蔵王エコーラインで、刈田峠へ。紅葉のまっ最中で、とくに赤が強烈だ。蔵王周辺は、東北でも有数の紅葉の名所。鮮やかな紅葉に魅せられ、2度、3度と、DJEBELを停めた。目のなかまで染まる蔵王の紅葉だ。

 刈田峠は蔵王連峰の刈田岳(1759m)山頂直下の峠。峠の茶屋で山菜うどんを食べたが、峠で食べているというだけで、一味も二味も違ってくるから不思議だ。

 刈田峠を下り、蔵王温泉へ。蔵王周辺では最大の温泉地。数10軒の温泉宿がある。白布温泉、高湯温泉とともに“奥羽三高湯”で知られている。ここでは共同浴場の「上湯」に入ったが、いい湯だ。木の湯船。熱めの湯。硫黄の匂いが漂い、いかにも温泉らしい。

「ウーン、体に効くゼ!」

 と、湯につかりながら、思わずそんな声が出てしまう温泉だ。

 ところでぼくは,どんなにバイクに乗りつづけても、肩がこったり、腰が痛くなったり、膝や肘が痛くなったり‥‥ということはない。バイクの振動は内臓によくないなどともいわれるが、とんでもない話で、胃でも腸でも肝臓でも、ぼくの内臓は人並み外れて丈夫だ。だからいくら飲んでも大丈夫、なんてね‥‥。

 ここではなにも、“鉄人カソリ”の鉄人ぶりを強調しようというのではない。その、カソリの元気の根源が“温泉だ!”ということをいいたいのである。

 温泉は、ほんとうに、体によく効くのだ。

 今の日本は、病人、もしくは半病人だらけ。そうなってしまった一番の原因は、我々が自分で自分の体を治さなくなってしまったからだ。ぼくは薬が大嫌い。ヤセ我慢してでも、薬は飲まない。人間の体というのは、ものすごく復元力の強いものだが、薬というのはその人間の復元力をなくしてしまうものなのだ。

 ではどうしたらいいかといえば、そう、温泉、温泉に入ればいいのだ。日本では昔から温泉は「医者いらず」といわれてきた。バイクに乗って旅に出、温泉めぐりをしていれば間違いなく元気でいられると、そんなことを考えながらDJEBELを走らせて蔵王を下り、刈田峠越えのゴール、上山に向かった。

■コラム■                              

 蔵王山は宮城・山形の県境にまたがる火山群の総称で、標高1841メートルの熊野岳が最高峰になっている。旧刈田峠あたりを境に北蔵王と南蔵王に分けられるが、ふつう蔵王といえば、北蔵王のことである。蔵王エコーラインの刈田峠は刈田岳山頂直下の峠だが、旧刈田峠はもうすこし南の稜線の鞍部だった。

 刈田峠には宮城県側の遠刈田温泉から登った。蔵王エコーラインの無料化がありがたい。峩々温泉への道との分岐を過ぎ、さらに登りつづける。刈田峠に近づいたところで、蔵王ハイライン(2輪360円)に入り、刈田岳へ。駐車場にDJEBELを止め、まずは蔵王のシンボル“お釜”を見る。吸い込まれるような湖の色。熊野岳、五色岳、刈田岳に囲まれた爆裂火口の火口湖だ。

 刈田岳に登る。山頂からの眺望は抜群だ!足もとに“お釜”を見下ろす。西には山形盆地の向こうに朝日連峰や飯豊連峰の山々を眺め、南には吾妻、安達太良の山々を眺める。刈田岳は蔵王第一の大展望台だ。ヒューヒュー吹きすさぶ冷たい風に吹かれながら、山頂にまつられている刈田嶺神社に参拝する。蔵王は昔からの霊山。羽黒山、湯殿山、月山の「出羽三山」に対して「東のお山」と呼ばれ、江戸時代には大勢の信者が蔵王に登った。

「刈田峠編」で入った温泉一覧

1、白石温泉    「ホテル本陣」(入浴料500円) 宮城県白石市蔵本   

ひと晩泊まった白石川河畔の宿。1泊2食8000円から。ここにはもう1軒、「かんぽの宿白石」がある。

2、小原温泉    「ホテルニュー鎌倉」(入浴料500円)宮城県白石市小原   

気品のある温泉宿。浴室にはステンドグラス。白石川の渓流を目の前にする露天風呂。岩壁は紅葉で彩られていた。

3、鎌先温泉    「木村屋旅館」(入浴料500円) 宮城県白石市鎌先   

高層の温泉宿。2Fに混浴の天狗岩風呂。5Fには山間の温泉街を一望する展望大浴場と露天風呂がある。

4、蔵王開拓温泉  「蔵王開拓温泉」(入浴料900円) 宮城県白石市八宮   

大浴場と大露天風呂。湯量豊富。太いパイプから湯が豪快に流れ出る。入浴料は休憩料込みのもの。

5、遠刈田温泉    共同浴場(入浴料200円) 宮城県蔵王町遠刈田  

温泉街の中心にある「遠刈田福祉センター」の湯。熱めと温めの2つの湯船。隣りには観光案内所。

6、青根温泉     共同浴場「大湯」(入浴料150円) 宮城県川崎町青根

「大湯」はいかにも共同浴場といった感じの湯。青根温泉の歴史は古い。伊達藩62万石の藩主の湯治場。

7、峩々温泉    「峩々温泉」(入浴料824円) 宮城県川崎町峩々温泉 

蔵王周辺では第一の秘湯だが、入浴のみで入れるのは小さな湯船の湯だけ。ちょっとガッカリ‥‥。

8、蔵王仙人沢温泉 「蔵王仙人沢温泉」(入浴料480円) 山形県上山市仙人沢  

ここは入浴のみで大露天風呂がある。蔵王の山の空気をたっぷり吸いながらつかる湯の気分は最高!

9、蔵王温泉     共同浴場「上湯」(入浴料200円)山形県山形市蔵王温泉 

「上湯」に入ったが、ほかにも2ヵ所に共同浴場がある。そのほか、入浴のみの大露天風呂がある。

10、上山温泉    共同浴場「下大湯」(入浴料50円) 山形県上山市上山   

「下大湯」に入ったが、ほかにも5ヵ所に共同浴場がある。かつては“10円湯”で知られていた

11、葉山温泉    共同浴場(入浴料50円) 山形県上山市葉山   

共同浴場の前には「紅花湯浴み地蔵」。それがいかにも山形らしい。上山の町並みの向こうに蔵王の連山を眺める。

12、河崎温泉    「石山旅館」(入浴料200円) 山形県上山市河崎   

女将さんは「ふだんは入浴のみはお断りなのよ」といいながらも入浴させてくれた。ここには3軒の温泉宿がある。