賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

秘湯めぐりの峠越え(35)鬼首峠編

 (『アウトライダー』1996年5月号 所収)

 宮城・秋田県境の鬼首峠の両側には、キラ星のように温泉が散りばめられている。ゾクゾクッとするほどのエリアなのだ。

 宮城県側には鳴子温泉郷の4湯、鬼首温泉郷の4湯と、計8湯の温泉がある。

 秋田県側には秋ノ宮温泉郷の5湯の温泉がある。

 東北道を古川ICで降り、古川を出発点にし、R47で鳴子温泉郷へ。そこからR108に入り、鬼首温泉郷をめぐり、鬼首峠を越えた。

 そして秋ノ宮温泉郷をめぐり、R13の雄勝に下っていった。

川渡温泉の「藤島旅館」

 日が暮れ、すっかり暗くなったR49をひた走る。スズキDJEBEL200のアクセルをググッと開いて走りつづける。目指すのは、鳴子温泉郷の川渡温泉。前から目星をつけておいた「藤島旅館」に宿がとれ、浮き浮きした気分なのだ。

 ぼくのツーリング途中での温泉宿の泊まり方というのは、前々から予約を入れるということはまずない。いつも出たとこ勝負で、その日の午後、もしくは夕方になってから、温泉ツーリング必携の『温泉宿泊情報』(JTB)のページをくくり、宿泊料金とそこに書かれた宿紹介の短いコメントを参考に、カンを働かせて宿に電話を入れるのだ。

 川渡温泉の「藤島旅館」には、古川から電話を入れた。すでに日の暮れた時間で、飛び込み同然だったのにもかかわらず、宿泊OK。さらに食事も用意してくれるという。応対してくれた人の電話の声は、やさしかった。こういうときのうれしさって、わかってもらえるだろうか。小躍りしたくなるほどなのである。

 全国各地の温泉めぐりをしていると、

「今度は○○温泉の○○旅館に泊まってみたいな!」

 と、しっかりマークする温泉宿がいくつもできてくる。

 川渡温泉の「藤島旅館」もそのひとつだったのだが、そのような“目星つき温泉宿”が頭の引出しの中にいつも入っているのは、なんとも楽しいもの。それが、次のツーリングへの原動力になってくれる。

「藤島旅館」に到着。古風な建物。その昔は伊達藩の湯守の鑑札を持っていたという由緒正しい温泉宿なのだ。川渡温泉の歴史は古く、開湯は1000年以上も前にさかのぼるという。それを証明するかのように、ここには、東北では数少ない延喜式内社(平安中期に制定)の温泉石神社がある。

 遅い到着を詫び、さっそく大浴場の湯につかる。ウーン、極楽,極楽! 緑色がかった湯の色。湯量は豊富。おまけに、「脚気・川渡」といわれるように、脚気によく効く昔からの名湯なのだ。湯から上がると、部屋には夕食が用意されていた。鴨鍋でキューッと一杯。これがうまい。食後、一休みして湯に入る。寝る前にまた、湯に入るのだった。

神滝温泉を見つけた!

 鳴子温泉郷から鬼首温泉郷へ。

「ツーリングマップ(東北)」を見ると、鬼首温泉郷の一番手前の鳴子寄りには、“神滝温泉・自炊の一軒宿”と、出ている。

 この神滝温泉は、以前から気になっていた。というのは、R108は何度か走っているが、“神滝温泉”がどこにあるのか、わからないままにパスしていたからだ。

 それだけに、今回は、

「よーし、絶対に神滝温泉を見つけて、入ってやるゾ!」

 と、気合満々。

“神滝温泉”のバスの停留所近くにある食堂に入り、店のオバチャンに、

「神滝温泉って、どこにあるんですか」

 と、聞く。

 すると、オバチャンは、

「ほら、そこですよ」

 と、食堂のすぐ上の一軒家を指さす。

「やっと、見つけたな」

 という気分でその一軒家に行くと、“神滝温泉”の看板どころか、温泉宿を示すようなものは何もないではないか‥‥。

 もう一度、食堂に戻り、店のオバチャンに確認すると、間違いないという。

「さー、行くゾ!」

 腹に力を入れて、その民家風一軒家に再度、行く。

 出てきた女将さんに入浴を頼む。

「よく、きましたねー。どうぞ、どうぞ」

 ということで、快く入浴させてもらうことができた。

 誰もいない湯船を独占し、ゆったりとした気分で湯につかる。湯は熱めだが、水でうめるほどでもない。湯量豊富。いい湯だ。神滝温泉の湯に十分に満足し、湯から上がると、おかみさんと話した。

「ここのお湯は湧き出たまんまの湯で、沸かしもせず、水でうめてもいません。自然の恵みのままの温泉。ですから、体によく効くんですよ」

 もったいない話しだが、神滝温泉にはなじみの湯治客がときどきやってくる程度‥‥。それで十分なのだと、おかみさんは、いたって欲がない。

「今度は、ぜひとも泊まりで来たいな!」

 と思わせる温泉宿が、また、ひとつできた。

■コラム■

吹上温泉

 宮城・秋田県境の鬼首峠周辺は、日本でも有数の温泉の宝庫。その宮城県側の峠下にある鬼首温泉郷は、とくに魅力的なところだ。ここには、神滝温泉、轟温泉、宮沢温泉、吹上温泉の、4湯の温泉がある。そのうちの吹上温泉は、間歇泉で知られる温泉だ。

 入場料400円を払って、間歇泉に入ったときは、吹き終えたばかりで、あと、15分から20分ほど待たなくてはならなかった。そこで、ゆでたトウモロコシとおでんを買い、カンビールを飲みながら次の吹き上げを待つ。なかなかオツな間歇泉見物といったところだ。

 この間歇泉は「弁天」と名づけられているが、ちょうどカンビールを飲み終えたころ、何の前ぶれもなく、ピューッと、ペンシルロケットのように、細く高く、温泉が吹き上げる。高さは10数メートルにも達する。

 これだけではもったいなかったので、もう1度、見ようと、今度はその前にある池のような大露天風呂に入る。ぬるめの湯。観光客がゾロゾロやってくるので入る人はほとんどいないが、それでもぼくのほかに、先客が1人いた。湯から上がるころには2度目の吹き上げ。時計のように正確な間隔で吹き上げる間歇泉のメカニズムには、思わず感動してしまう。おー、大自然の神秘さよ!

「鬼首峠編」で入った温泉一覧

1、川渡温泉  「藤島旅館」(入浴料300円) 宮城県鳴子町川渡   

ひと晩泊まった宿。1泊2食9000円から。湯治客が多い。2000坪の日本庭園が自慢。古風な老舗旅館。

2、東鳴子温泉 「初音温泉」(入浴料300円) 宮城県鳴子町赤湯   

JR陸羽東線・東鳴子駅前の宿。黒湯が印象的。東鳴子温泉は、田中温泉、赤湯温泉、馬場温泉などの総称。

3、鳴子温泉   共同浴場「滝乃湯」(入浴料150円) 宮城県鳴子町湯本  

日本でもベストテンに入る共同浴場。入る価値あり。白濁した湯。熱めと温めの2つの湯船は湯量が豊富。

4、中山平温泉 「元蛇の湯」(入浴料500円) 宮城県鳴子町星沼   

人気の湯治宿。温泉療法が盛ん。東屋風露天風呂は混浴。おっぱいタランのオバアチャンたちにモテモテだった。

5、神滝温泉  「神滝温泉」(入浴料400円) 宮城県鳴子町鬼首神滝 

昔はもっと山の奥にあったらしい。荒湯地獄や片山地獄の近くには、高温の地熱を利用した地熱発電所がある。

6、轟温泉   「とどろき旅館」(入浴料500円) 宮城県鳴子町鬼首轟  

露天風呂は混浴。2組の若いカップルと一緒になる。女性2人のムチムチプリンプリンが目に焼きついた…。

7、宮沢温泉  「旅館元湯」(入浴料300円) 宮城県鳴子町鬼首宮沢 

緑色がかった熱い湯。何軒かの温泉宿があるところでは、「湯元」や「元湯」の宿は、入浴のねらい目。

8、吹上温泉  「すぱ鬼首の湯」(入浴料500円) 宮城県鳴子町鬼首吹上 

吹上キャンプ場の一角にある共同湯。白木の内風呂と、鬼首の山々を背にした大露天風呂には気分よく入れる。

9、湯ノ又温泉 「湯ノ又温泉」(入浴料400円) 秋田県雄勝町秋ノ宮  

国道から3キロ入った秋ノ宮温泉郷随一の秘湯。薄紫色の湯。熱めと温めの2つの湯船。近くには湯ノ又大滝がある。

10、鷹ノ湯温泉 「自然休養村」(入浴料200円) 秋田県雄勝町秋ノ宮  

共同湯のある管理センターと温水プールが渡り廊下で繋がっている。大浴場。寝湯が気持ちいい。露天風呂もある。

11、松ノ湯温泉 「松ノ湯旅館」(入浴料500円) 秋田県雄勝町秋ノ宮  

一軒宿の温泉。内風呂と露天風呂。赤茶色の湯。盆栽が見事。近くの一軒宿の稲住温泉は入浴のみ不可。

12、湯ノ岱温泉 「衆楽荘」(入浴料400円) 秋田県雄勝町秋ノ宮  

飲湯→かぶり湯→42度の全身浴→38度の寝湯→40度の泡湯→打たせ湯→42度の全身浴コースが最高!