賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

日本列島岬めぐり:第19回 神威岬(かむいみさき・北海道)

 (共同通信配信 1990年)

「リンゴの町」、余市から国道229号で積丹半島に入っていった。積丹半島の日本海に突き出た岬には、北端の積丹岬と北西端の神威岬の2岬がある。

 積丹岬には道の行き止まり地点まではバイクで行き、そこからは荒れた山道を歩いた。花をつけたハギが山道を覆い、ナデシコやリンドウの花が咲いていた。無線の中継施設を通り過ぎ、アップダウンの激しいヤセ尾根を約40分、息を切らせて歩き、岬の突端に立った。

 ススキの銀色の穂波とクマザサが夕風に揺れていた。岬のハマナスは真っ赤な実をつけていた。余市で買ったリンゴをかじりながら日本海に落ちていく夕日を眺めるのだった。

 神威岬には翌日、岬近くの食堂でウニ丼を食べてから向かった。

 神威岬は古くは御冠(おかむい)岬といわれ、アイヌ人にとっては神々の宿る神聖な場所になっていた。またこの岬は雄冬岬、茂津多岬とともに「西蝦夷三険岬」に数えられ、船乗りたちにとってはきわめつけの難所として恐れられてきた。沖合を通る時は航行の安全を祈ってお神酒を供え、洗米や絵馬を奉納する習わしがあったという。

 駐車場から岬までは歩いて40分ほど。岬の突端には白黒2色の灯台がある。集塊岩の台地は日本海の波の浸食で削られ、高さ100メートルほどの断崖になっている。下をのぞきこむと、目がくらみそう…。吸い込まれそうな海の青さを見ているうちに、岬の右手から積丹半島の山々を赤く染めて朝日が昇った。