賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

秘湯めぐりの峠越え(19):鳥居峠(群馬・長野)

 (『アウトライダー』1995年5月号 所収)

R144沿いの温泉めぐり

 長野原からは、R145で群馬・長野県境の鳥居峠に向かう。

 羽根尾の交差点(ここはR144、145、146の3本の国道の起点になっている)からは、R144になる。

 いよいよ北関東温泉三昧の最後の行程。信州街道のR144沿いの温泉を総ナメにするのだ。

 第1湯目は半出来温泉「登喜和荘」(入浴料300円)の湯。半出来などというと未完成の温泉をイメージしてしまうが、半出来という集落にあるので半出来温泉。ここでは木の湯船の内風呂と露天風呂に入ったが、源泉の湯温は43度とジャスト適温なのだ。

 第2湯目は平治温泉(入浴料200円)。国道から2、30メートル入ったところにあって、ちょっとみつけづらいが、湯はいい。

 ここでは毎夕、長野原から車を走らせてやってくるという年配の人と一緒に湯につかった。その人は平治温泉の効能を強調する。

「この湯に入るようになってからというもの、それまでさんざん悩まされていた神経痛がウソのように治った。体の調子もすっかり良くなったね」

 その人の話によると、このあたりの大地主、黒岩平治さんの土地から湧き出た温泉なので「平治温泉」なのだという。

 第3湯目は、JR吾妻線の終点、大前の駅前にある嬬恋温泉「つまごい館」(入浴料400円)。湯量の豊富な温泉だ。ここは我がなつかしの温泉。

 吾妻線の長野原~大前が開通したのは1971年のことで、その直後に大前にやってきた。そのころは宿もなく、ホームの目と鼻の先に、木枠で囲った無料湯の露天風呂があるだけだった。学校帰りの小学生がランドセルを湯船のわきにおいて、遊び気分で湯に入っていた。そんな子供たちと一緒に入ったのが、ぼくにとっての嬬恋温泉。出発を待つ列車を目の前で眺めながら入る湯だった。

鳥居峠越え

 これら3湯の温泉に入ったところで、大笹を通る。大笹の集落を抜け出るあたりの吾妻川の河畔には、信州街道(上田街道)の大笹関があった。当時は吾妻川には、はね橋がかかっていたとのことで、いったん事が起きると橋を切り落とし、交通を途絶させたという。現在は復元された関所の門がこの地にある。また、R144の吾妻川にかかる橋は“御関所橋”になっている。

 第4湯目は、つつじの湯温泉(入浴料1000円)で、大浴場と露天風呂に入ったが、ここには乗馬コースやアスレチック場もある。

 中央分水嶺の峠、標高1362メートルの鳥居峠に到達。峠を越えて群馬県から長野県に入った。

 峠の茶屋で信州そばを食べ、峠を下っていった。

 峠下の渋沢温泉(入浴料800円)に入り、真田氏発祥の地の真田を通り、上田に到着。北関東温泉三昧第2弾の「沼田→上田」は全行程が155キロだった。

 上田では上田城址を歩く。

 上田城は真田昌幸の手により、天正13年(1585)に完成した城だ。江戸時代になると、上田城主は真田氏から仙石氏、松平氏と変わっていったが、その影は薄い。上田といえば、やはり“六文銭”の真田氏なのである。

 上田からは、R18→R17と、国道を走りつないで東京に戻った。