賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

海道を行く(3) 北海道編 番外編その2

 (『ツーリングGO!GO!』2005年7月号 所収)

11、茂津多岬(面白度☆☆☆☆)

 狩場山地の山々がそのままストンと海に落ちた先端が茂津多岬。R229には断崖を貫くトンネルが連続し、トンネルを抜け出た道路わきに「茂津多岬」の碑がある。ここは神威岬、雄冬岬と並ぶ「西蝦夷三険岬」のひとつ。海の難所で、沖を通る船乗りたちに恐れられたところだ。岬を貫く全長1974mの茂津多トンネルを南側に抜けると、茂津多林道が分岐する。それを上りつめたところが白黒2色の茂津多岬灯台。標高290mの断崖上に立つ日本最高所の灯台だ。とはいってもそこからは断崖下は見えず、灯台もごく普通の高さなので「日本一」の実感はしない。

12、尾花岬(面白度☆☆☆)

 毛無山(816m)から続く山並みが海に落ち込む地点が「北海道本土最西端」の尾花岬。道道740号は岬の区間が未完成で行き止まりになっている。南側の大成町側から太田の行き止まり地点まで行くと、海に落ち込む尾花岬がよく見える。R229はこの間は内陸ルートの「峠越え」区間で、太櫓越(北檜山トンネル)を越える。

13、江差(歴史度☆☆☆☆)

 江差は松前、箱館(函館)とともに「蝦夷三湊」のひとつで、明治末期まではニシン漁の根拠地になっていた。完成したばかりの「いにしえ街道」を見ることができてすごくラッキー。この道は国道から1本、山側に入ったところで、1キロほどの通りはすべて昔風につくり替えた。その中に旧中村家や横山家などの回船問屋や商家がそのままの姿で残されている。バイクを停めてちょっとプラプラ歩いてみたらいい。江差港の目の前には鴎島。歩いて渡れる周囲2・6kmの小島だ。島の北端の台地上には「かもめ島キャンプ場」(無料)。島の南端には幕府の砲台跡。島の入口には戊辰戦争で沈没した幕府の軍艦「開陽丸」が復元され資料館として公開されている。

14、松前(歴史度☆☆☆☆☆)

 北海道唯一の城下町。松前港を見下ろす松前城(福山城)は嘉永2年(1849年)、北方警備の要として幕府の命令で建て替えがはじまった。それが日本での最後の本格的な築城となった。安政元年(1854年)に完成したが、東西240メートル、南北300メートル、16の門と4つの櫓を持つ大規模な城だった。ぼくは明治初期の城の写真を見たことがあるが、あっと驚くような大きさだった。この城は明治8年に天守閣と本丸御門を残して取り壊された。今の松前城跡には復元された天守閣と本丸御門があるだけで、昔の大きさとは比べものにならない。天守閣は資料館(入館料350円)になっているが、そこに展示されている江戸中期の「松前屏風」はすごい。濠りをめぐらせ、石垣を積み上げた福山館(松前城の前身)を中心に武家屋敷や商家、寺社、庶民の家々が建ち並び、港は何艘もの船であふれかえっている。当時の松前の繁栄ぶりがよくわかる屏風絵だ。

15、白神岬(絶景度☆☆☆)

「北海道最南端」の岬。R228のすぐわきに「北海道最南端」碑が立っている。正確にいうと、「白神岬」碑の裏側に倒れていた…。「北海道最南端」なのに。これが宗谷岬だったら大変なことになる。国道を見下ろす高台上には赤白2色の灯台。対岸は津軽半島の龍飛崎。白神岬を過ぎると海が変わり、日本海(松前湾)から津軽海峡になる。岬は大きな境目なのだ。

16、R228(絶景度☆☆☆)

「江差→函館」間の海沿いのルート。松前を通り、白神岬を過ぎると日本海から津軽海峡沿いのルートになる。矢越岬は通り抜けできないので、その間は内陸ルートで福島峠を越えていく。知内を過ぎたあたりから函館山が見えてくるが、函館に近づくにつれてその姿がどんどん大きくなってくる。海越しに函館の市街地も見えてくる。ちょうど夕暮れ時だったので函館湾の湾岸に次々と町明かりが灯っていった。R229→R228と走りつなげば、小樽から函館まで海沿いに走れる。

(函館→根室)編

17、函館(歴史度☆☆☆☆)

 渡島(おしま)半島は先端で松前半島と亀田半島に分かれるが、その2つの半島の接合部が函館。函館はもともとは箱館で日米和親条約によって伊豆の下田港とともに開かれ、日米修好通商条約によって日本の開港場5港のひとつになった。箱館は北海道開発の拠点だった。「箱館」から「函館」に変わったのは明治2年のこと。ぼくの北海道ツーリングにはこだわりがあって、東京から青森まで自走し、フェリーで函館に渡り、そこから北海道を走り出すというのがパターン。とくに夜明けの函館港に到着するのが好きなのだ。夜明けの空にそびえたつ函館山とまだ点々と明かりの残る函館の市街地、それを船上から見ることができる。

18、函館の朝市(感動度☆☆☆☆☆)

 函館の朝は早い。まだ5時前だというのに、朝市はすでに活気にあふれ、誰もが忙しげに動きまわっている。ここではなんといってもカニやイカ、新鮮な魚などの魚介類が目立つ。朝市の函館駅に一番近い食堂街は「どんぶり横町市場」となって新しく生まれ変わった。ここには全部で18店。ウニ丼やイクラ丼などの海産物の丼が目玉だ。その入口の「茶夢」で「朝市丼」(1250円)を食べた。イクラ、ホタテ、ズワイの3色丼。おかみさんは「あなたは最初の客よ」といって、サービスですりおろしたフキノトウやヤリイカの煮つけ、アイヌネギ、メフン、スルメイカのワタの粕漬など次々に小皿にのせて出してくれた。「朝市丼」もうまかったが、おかみさんの暖かな気持ちに感動!

19、高田屋嘉兵衛の銅像(歴史度☆☆☆☆)

 函館山を背にして高田屋嘉兵衛像がそそりたっている。銅像のみならず台座も高いのでほんとうに見上げるような高さだ。これは「箱館開港100年」を記念して昭和33年に建てられた。銅像の大きさからもわかるように、高田屋嘉兵衛は今日の函館の基礎を築いた偉人として評価されている。箱館を拠点に海運や造船、漁場の経営などを行い、国後・択捉への航路を開いた高田屋嘉兵衛。その銅像は故郷の淡路島・都志のものよりもはるかに大きい!

20、立待岬(絶景度☆☆☆☆)

 市電の終点の谷地頭から海沿いの小道を行く。その途中には石川啄木一族の墓。行き止まり地点の立待岬の展望台に立つと、正面には津軽海峡対岸の下北半島の大間崎、右手には津軽半島の龍飛崎が見える。目を北海道側に移すと、右側には松前半島の矢越岬、左側には汐首岬が見える。立待岬は津軽海峡をはさんだ北海道と本州の岬を見るのに最適のポイント。津軽海峡に落ち込む函館山の切り立った断崖の風景も印象的だ。