賀曽利隆 STILL ON THE ROAD !

世界を駆けるバイクライダー・賀曽利隆(かそりたかし)。地球をくまなく走り続けるカソリの”旅の軌跡”をまとめていきます。

カソリの食文化研究所:第19回 青森編

 (『ツーリングGO!GO!』2004年5月号 所収)

「東北縦断たべまくり旅」のゴール、青森に到着。

 青森駅に近い「アスパム(青森県観光物産館)」でスズキDR-Z400Sを止めた。そして10階の郷土料理店「西むら」で津軽名物の「じゃっぱ汁」を食べた。

 じゃっぱ汁はタラが主役の鍋料理。

 鍋にはタラのあらが入っている。そのほかダイコンやニンジン、ネギ、凍み豆腐。グツグツ煮えてきたタラのあらはゼラチン状になり、トロッとした味わいがある。

 それほど脂っこくないのがいい。

 寒風をついて走ってきた体は芯からあたたまり、汗が出るほど。

 食べ終わると、不思議なほどに元気が出てくる。

 鍋の味つけは津軽の赤味噌。若干、辛口の赤噌味とタラのあらの脂分との取り合わせが絶妙だ。

 じゃっぱ汁は津軽の冬の家庭料理からきている。寒さの厳しい夜、家族全員が囲炉裏を囲み、自在鉤につるした大鍋のじゃっぱ汁をみんなでフーフーいいながら食べものだ。なんとも幸福感の漂う家族団欒の光景が目に浮かんでくるではないか。

 そんなじゃっぱ汁に入れるタラは冬の津軽海峡で捕れるマダラが一番だという。

 タラは11月頃から産卵で津軽海峡に入ってくる。このころからの「寒ダラ」は絶品。「タラは雪が降ってから」

 といわれるほどで、身がしまり、脂がのっている。

 津軽人はタラを1匹、まるごと買う。切り身は刺し身にしたり、焼いたり煮たりする。残りの頭やヒレ、中骨、内蔵などのあらをじゃっぱ汁にするのだ。

 津軽では「タラがなくては年を越せない!」といわれるほどで、正月には欠かせない魚がタラなのだ。

 タラ1匹あればタラの昆布じめやタラの味噌漬け、干しダラの煮つけなど何種類もの正月料理ができるので、津軽の正月は「鱈正月」ともいわれている。

 タラコも食卓には欠かせないものだし、タツ(白子)料理やチョーゲ(胃袋)料理も津軽人は大好きだ。

 じゃっぱ汁に舌鼓を打ちながら、ぼくは津軽海峡と太平洋、日本海の3つの海に囲まれた青森県の自然の豊かさを思い、さらには日本人と魚の深いつながりにも思いを馳せた。 日本人は世界でもまれなほど、魚をよく食う民族。

 タラはかつては大量に捕れた魚で、「鱈腹(たらふく)食う」もそこからきている。

 米のとれない海岸地帯では、捕れたてのタラの白身だけを炊いて塩加減し、「タラ飯」にして食べたところもある。

 津軽のようにタラ1匹のすべてをつかい、何種ものタラ料理を生み出し、それが正月の伝統的料理の主役になるほど。

 ぼくは「じゃっぱ汁」を食べながら、日本の「魚食(ぎょしょく)文化」のレベルの高さをあらためて実感するのだった。